はじめての
「結界術を使えるのか?」
燐堂先輩の問いに、僕はこくりと頷く。
「厳密にいえば結界とはちょっと違うんですが……少なくともあの個体がそれほど強いものでないなら、問題なく足止めはできると思います」
これまでまともな魔術が使えなかった僕なので当然実戦で使った経験はないけど、フラジールさんのお墨付きは出ている。問題ないはずだ。
その言葉に、燐堂先輩は一瞬考えてから口を開いた。
「であれば、すぐにでも使ってもらっていいか。正直いつアイツが動き出すかわからん」
語モノは出現した直後は動かない。出現直後ではまだ目的意識が固まっていないのだろうとされている。そしてしばらく時間が経過するか、あるいは外部からなんらかの刺激を受けると動き出すのだ。
僕たちが連絡を受けてから、それなりに時間は経過している。確かにいつ動き出してもおかしくないだろう。だから僕は彼の言葉に僕はこくりと頷と、腰に下げたステラを手に取った。
その途端、彼女は僕の意図をくみ取り本来のサイズへと戻る。
そして、僕は──
僕は……。
……。
「あの」
「どうしたの?」
途中で動きを止めた僕に、束本が怪訝そうな顔で聞いてくる。
「ちょっと二人とも、向こう向いてて貰える?」
「ん、何故だ?」
「私も?」
「うん。……あの、理由は後で説明するから。今はお願い」
僕の言葉に、二人は不思議そうな顔をしながらもこちらに背を向けてくれた。助かる。
『心配しなくても、変身の時に大切な所が見えちゃったりはしないわよ?』
僕の不安を読み取ったのであろうステラがそう話しかけてくるけど、そういう話ではない。
例え実際には見えないとしても、一瞬でもそんな瞬間があると考えると離れていればともかく間近で見られているのはちょっと落ち着かないところがあるっていうか……
とにかく、後ろ向いてもらったのだからとっとと着替えよう。
ステラ。
『はいはい』
「コネクト!」
口から声が流れ出すとともに、一瞬で体を覆っていた服の感触が消え去り、代わりに何か密着した感触を得る。それだけでわかる、例の服に切り替わったのだ。そして僕は覚悟を決める。
「……もう大丈夫です」
僕の言葉に、二人がこちらに向き直る。そして、
「ほぁ」
束本は間の抜けた声を上げ、燐堂先輩の方は──目を見開いて固まっていた。うう、痴女とか思ってませんように……
「よ……妖精。いや、リアル魔法少女……」
ん?
「いや、なんでもない。えっと、それで術が使えるようになったんだな?」
「はい」
「結界の範囲はどれくらいだ?」
「えっと……最大で半径50m程度、円球状に展開できます」
「それだと、この位置からだとアイツを含められないな。発動はどれくらいかかる?」
「数秒あれば」
僕の答えを聞いて、燐堂先輩は少し考えてから口を開いた。
「この先の交差点……に移動しよう。あの位置なら奴を含められる。反応される可能性もあるが……」
「その場合は即時で発動します」
「わかった。束本もそれでいいな?」
「了解」
「よし。ついてきてくれ──グリモワールは起動しておけよ」
僕たちは対象の正確な位置を把握していないので、監視術式を使用している燐堂先輩が先行して歩きだす。彼の言葉に従い、グリモワールを起動しつつ僕らはその後を追う。
心臓がドキドキする。この鼓動で語モノに気づかれるのではないかと思いつつも、僕らはひっそりと進んでいく。
一つの角を曲がり、やがて交差点へとたどり着く。そこで燐堂先輩が足を止めた。彼は僕らに顔を寄せると、声を潜め
「ここなら充分50m以内だ。奴は元の位置から移動していない。──術を使ってくれ」
彼の言葉に僕は頷くと、杖を構えた。……いや別に構える必要はないんだけど、気分的な物だ『気分は大事よね!』。
よし、行こう。
僕は、初めて"戦うために"使う術式を口にした。
「《領域展開》《封鎖》」




