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正直さすがに今回は語モノと遭遇するとは思っていなかったんだよね。
前回の巡回時に遭遇しているので、今回も遭遇したら2回連続。さすがに引きが良すぎるので。
そんな毎日語モノが出現しているわけではないし、出現する範囲も様々だ。巡回していてもそうそう遭遇するはずはない──そのハズなんだけど。
前回に引き続き、僕たちは当たりを引いてしまった。
とはいえ、今回は直接遭遇したわけではない。JMAより、束本に連絡が入ったのだ。
どうやら、巡回していた別の魔術士が、語モノを発見したらしい。その最寄りにいるのが僕たちなんだそうだ。現状まだ動き始めていないが、早急に向かって欲しいこと。
当然断る事などありえないので、指定された地点へ急行する僕たち。
軽やかに駆ける束本に、以前より短くなった足(身長が縮んでいるので当然だが)でバタバタとなんとか駆ける。……うん、これ体鍛えないとだめだな、移動で足を引っ張っちゃう。いや、即効性を考えれば速力を上げる身体強化の術式を組む方が早いか。まぁ身体強化の術式は鍛えていない体に使うと後で酷い事になるそうなので、結局は体を鍛えなければいけないんだけど。
そんな事を考えていると、前を駆ける束本が速度を落とした。目的地が近いのだろう。対象がまだ動き出していないなら、刺激を与えるような事は避けた方がいいからね。僕もばたばた走るのをやめ、荒れ始めた息を頑張って抑える。
そのまましばらく進んでいくと、魔装服姿の魔術士が身を隠すようにして待機していた。
──見知った顔だった。
「君らは……」
こちらの気配に気づき、振り向いたその顔は先日会ったばかりの先輩である燐堂先輩の物だった。
「増援です、先輩」
「束本か、助かる」
二人ともAランク同士なので顔見知りのようだ。そんな束本の後ろで僕は燐堂先輩に小さく頭を下げる。
「君は、確か伏谷の……」
「はい、弟です。以前はお世話になりました」
僕の言葉に、束本がきょとんと首を傾げる。
「? 以前何かあったの?」
「ちょっとね」
今ここで話す話題じゃないのでそれだけで済ます。束本もそれはわかっているので、うんと頷くと燐堂先輩の方へ向き直った。
「それで、対象は?」
「これだ」
言葉と共に、燐堂先輩の手元に半透明の映像が現れた。
「この先の道路を監視術式で投影している。──道路の真ん中、立っている奴がいる」
僕と束本は、彼の手元の映像を覗き込む。
「……いますね。人?」
ちょっとこんな市街地の光景には不釣り合いな、これからパーティにでも行くのっていう姿をしているが、それを除けば只の人に見える。髪色が金髪なので日本人には見えないが……
「こいつ、ヴァンパイアだ」
「吸血鬼?」
問い返した束本の言葉に、燐堂先輩がこくりと頷く。
「同種の語モノは、まったく同じ姿で出る事が多いってのは知っているだろ?」
僕と束本は頷きを返す。
「俺はあれと全く同じ姿の語モノと以前戦ったことがある。だから間違いないだろう」
「強いんですか?」
外見が同じなら、確か能力もほぼ同一だったハズだ。戦った事があるならその実力もわかるだろうからそう聞いてみると、彼は首を振った。
「戦闘能力はたいした事ないな。俺と束本がいるなら余裕だと思う、ただな」
「ただ?」
「アイツ、ちょいと厄介な能力があってな。まだ手が出しづらいんだ。今動かれると対処が仕切れない」
「厄介な能力? 吸血とか?」
束本の言葉には、燐堂先輩は首を振る。
「血を使った攻撃はしてくるが、それは対した攻撃じゃない。そうじゃなくてな、アイツ攻撃加えると分裂するんだよ」
「分裂?」
「大量の蝙蝠に変化するんだ」
あー、と僕と束本は納得する。確かに吸血鬼とかそういう能力は話に聞くよね。
「そうなると、広域を隙間なく攻撃する術士か結界を使える術士がいないとどうしてもうち漏らしが出る。──ここで討ち漏らしがでるとちょっとヤバいだろ」
「確かにそうね」
束本が同意し、僕も頷く。
ここは進入禁止区域だが、その端の方に近い。そして進入禁止区域の側には当然人が住んでいるわけで。もし取り逃せば被害がでる可能性は高い。
「なんで正直今はあいつが動きださないのを祈るしかない。結界術を持つ術士もこっち向かっているハズだからそれが来てくれれば……」
「もし動きだしたら?」
「死に物狂いでなんとかするしかない」
『──那岐っち?』
二人のやり取りを黙って聞いている僕の脳裏に、ステラの声が響く。
うん、わかってるよ。さすがに自分が恥ずかしいって理由で市民の皆さんを危険に晒すつもりはない。
僕は覚悟を決めると、控えめに手を上げつつ口を開いた。
「あの、僕なんとかできそうな術使えます」




