助けられました。
燐堂 和真。5年生のAランク魔術士だ。3年でSランク到達という過去に例をみない規格外の存在である那美がいなければ、5年の中ではトップを取っていたあろう人物。割と那美が現場主義なのもあって、いろいろな公の場に彼が引っ張り出される事も多く、彼の顔を知らない人間は学園にはいないだろうとされている。教師からの信任も厚い。
「絡まれているようだから声を掛けたが、大丈夫だったか」
「あ、はい。ありがとうござます、困っていたので助かりました」
燐堂さんたちがこちらに向かってきたので、僕はぺこりと頭を下げて礼を告げる。
再び男性に囲まれたわけだけど、今度は名の知れた先輩なので不安感はない。というか先輩方には那美が目を光らせているはずなので、妙なちょっかいを掛けてこないだろうという安心感がある。
「あー、キミ伏谷の妹さんだよね」
そう、今度は燐堂さんの後ろにいる別の男子生徒が聞いてきた。こっちの彼は名前はわからないけど、燐堂先輩と一緒にいるし5年生だろう。那美の教室に行った時に見かけた事があるような気もするし。
僕は彼の言葉に頷きを返す。
「初めまして、伏谷那美の弟です」
ある一点だけ訂正するけど。
そんな言葉に、彼は苦笑を浮かべた。
「あー、聞いてる聞いてる。いろいろと大変だな」
「しかし、こうしてみると元が男だったって解らないよな……あ、不躾にすまん」
「いえ、大丈夫です」
もう一人の男子生徒が口にした言葉には首を横に振っておく。もうさんざん周りに言われていることだし、なんなら自分だって今の姿を見たら元が男だったなんて思えないので特に気にする段階ではない。
「とりあえず、その姿で今一人で歩き回るのは気を付けた方がいいぞ。学園中の注目の的だし、今」
「はい、不注意でした。いつもはクラスメイトが一緒にいてくれるんですけど」
「君の外見だとか弱い女の子にしか見えないからな。ああいう不埒な連中もある程度は出てくるだろう」
「俺らの学年だと伏谷に怒られるから、その心配はないけどなー?」
燐堂さんの言葉に、隣の男子がそう言って笑う。あ、やっぱりそういう事なんですね。
先輩方に絡まれるとそれこそ対応に困るので、この点に関しては本当に那美様々だ。
「それで君はその恰好でどこへ? 訓練をするわけじゃないよな?」
「あ、はい。えっと……」
知り合いならともかく、ちゃんとした面識もない相手にトイレに行くためにわざわざここまで来ているというのもアレな気がしたので、とっさに頭を回転させて理由を考える。
「……ちょっと友人に借りる予定の物があって。それを受け取ったら帰るつもりでした」
「そうか。えっと、俺たちはこのまま訓練棟に行くけど、不安なら一緒に行くか?」
「あ、いえ大丈夫です。連絡もしてあるので」
実際はトイレに行くだけなので、ついてこられても困ります。
「それじゃ気をつけてなー」
「また囲まれたら助けを呼ぶんだぞー」
「はい、本当にありがとうございました」
もう一度頭を下げて、立ち去っていく三人を見送る。その背中が見えなくなった所で、僕は勢いよく駆けだした。
そうそういないとは思うけれどまたあんな面倒な連中に囲まれるのはごめん被るし、後そもそも結構な足止めを喰らったおかげでもよおしレベルが上がっている。急がねば。
それにしても今回は不注意だった。以前の自分と違って目立つし絡まれやすい状況なんだから、行動はきちんと考えないとなー。今回みたいに丁度よく助けが入ってくるとは限らないわけだし。特に学園ならまだしも、街に出る時とかはいろいろ注意しないといけないな。那美や束本に注意するべきところとかないか確認しておこうかな。
とりあえずトイレを済ませたら、帰りは近道だし視線もないからと人通りが少ないところは選ばないで、きちんと人通りの多いところ選んで帰ろう。視線は集まるけど、あーいう連中に絡まれるよりは百倍マシだ。




