天津原魔術学院
本日は後19時にも投稿します。
天津原魔術学園は、俗にいう中高一貫の学校だ。入学資格は魔術器官を持つということのみ。入学試験もない。ただし成績不良による留年や素行不良による退学があるけど。
ちなみに魔術器官を持っていても、絶対に通わなければいけないというわけではない。入学せずに、普通の子供たちと同じ学校へ進学する事も可能だ。ただし、その場合は魔術にかかわる事はできなくなる。後から転入する事は可能だけどね。
入学しないメリットとしては第一に、自分が魔術器官を持っていることが公になりにくいということだろう。本来この世界の人間が持たない魔術器官を持つ人間を化け物のように見る人間は一定数いるので。それから、フォールダウン地域を持たない他国の人間に研究のために拉致される可能性もある。日本国内にいる間はまず大丈夫だろうけど、海外旅行に行くとリスクが大きい。フォールダウン地域発祥の能力は、各国の条約ならなにやらでいろいろ縛られていてどこでも好きに使えるわけではないので。勿論緊急避難として使う場合は仕方ないだろうけど、それでもいろいろ面倒な事になるのだ。
それともう一つは、一定レベルの実力者になると与えられる義務だろう。
前述の語モノ、そしてゲートから繋がる"狭間"。前者の存在は近代兵器が有効ではなく、後者に至ってはその中ではそもそも近代兵器は作動しない場合が多い。そんな怪物たちの討伐と狭間の探索。隠さず言えば命の危険がある義務。
勿論報酬はもらえる。特に上位の実力者のみに与えられる狭間の任務、その中でも"世界の核"と呼ばれる狭間の中に存在するそれを獲得した際の成功報酬は非常に大きい。いわゆるハイリスクハイリターンという奴だ。だけどこの平和な国でそんなリスクを負いたくない人間は少なくない。そういった人間にはかかわらないのが吉だ。
逆にいえば、魔術学園に通っているのはそういった義務を理解して入学した者だということ。なのに4年も通っていまだに支援系の技術しか身に着けておらず前線に立てるランクにすらなっていない自分は、臆病者や無能者と思われても仕方ないと思っている。
ちなみに自分──伏谷 那岐がそんな低ランクに留まっている理由はどちらに分類されるかといえば後者だろう。
実は僕は、成績自体は悪くないのだ。筆記に関する成績は学年上位に位置している。問題は実技だった。
一括りに呼ばれる魔術器官だが、その器官が担う能力は大きく分けて5つある。
処理速度:魔術の起動にかかる時間に影響する。また複雑な魔術式は、この能力が高くないと使えない。
処理能力:複数の魔術を並行して扱える量に影響する。広範囲に効果を与える魔術式は、この能力が高くないと使えない。
記憶量:構築した魔術式を覚えておける量に影響する。
総魔力:魔術を行使するために必要となる魔力を蓄積しておける量に影響する。
回復量:使用した魔力が回復する速度に影響する。
僕の能力としては回復量は平均的かちょっと下くらい、記憶量と処理速度は高めで処理能力に関してはかなり高い能力値らしい。ここまで見れば非常に優秀なスペックだ。
問題は総魔力だ。僕はこの数値が限りなく低い。学園内でも恐らくトップクラスに低いだろう。
どんな優秀なエンジンでも燃料がなければただのガラクタだ。そして僕はその燃料がないエンジンなのである。
魔術師としての実力を指し示す魔術士ランク。FからSまで7段階あるランクの中で、僕のランクはDランク。Fランクは学園に入学したばかりでまだ魔術のなんたるかや様々なルールを学んでいない見習いに与えられるランクで、Eランクは一応魔術の訓練での使用を許された魔術士の中では最低ランクの実力だ。支援役としてすら、実戦参加が許されないランク。僕はその上のDランク……支援役としてのみ実戦参加を許されているランクになる。
4年生でこのランクにいるのはそれほど珍しいことはないけど、学園の実技の試験で攻撃系魔術を使用しない僕はこれより上のランクに行くことはないだろう。正直、こっち方面に関しては見下されてみられても仕方ないとは思っている。というかそういう視線はもう慣れた。