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始まる学園生活③


咄嗟に僕は反応できなかった。そりゃそうだ、普通男だったら胸に手が伸びてきたってそんな払うような反応はそうそうしないだろう。


そうこうしているうちに彼の手はそのままするすると伸び、膨らんだ僕の胸に触れる──ことはなかった。


彼の体が急に後ろに引かれたのだ。


「ちょ、誰だよっ……」


苛立たし気に彼が振り返ると、そこには束本が立っていた。冷たい瞳を浮かべて。

その視線に若干ひるみながらも、彼は苦情を口にする。


「いきなり何するんだよ束本、危ないじゃないか」


そんな彼に対して束本はあきれ顔で言った。


「何するも何も、痴漢行為を見かけたら普通止めるでしょう」

「ちかっ……いや、俺は詰め物でも入ってるかと思って……」

「それで本物だったらどうするつもりだったの? 犯罪だよ?」

「犯罪って、別に男同士じゃないか……」

「今の那岐が男の子に見えるの? 男の子だったら触ったの?」

「いやだって……」


更に言い返そうとして、彼は言葉を止めた。周囲の女子生徒の一部が束本同様の冷たい視線を向けている事に気づいたからだ。


あー、しばらくこいつ女子からこんな目で見られるかもなー。


同情はしないけど。


多分、詰め物なんて言いがかりをつけて触りたかったんだろう。僕は男だし、触った後に「嘘っ、本物だったのかよ!」とかいっておどけて謝るつもりだったんだろう。姑息な奴である。


そうして、微妙な空気になった中、男の向こう側から束本が手招きした。


「那岐、ちょっと来て」


彼女の言葉に僕をかこっている周囲のクラスメイトを見たら、彼らは道を開けるように左右に別れた。モーゼかな? 多分この空気で僕をかこったままにして、クラスの女子に冷めた目で見られるのが嫌なんだろう。


とにかく道ができたので立ち上がると、束本が僕の手を掴んで引いてきたので、引かれるに任せる。そうしてクラスの反対側、女子の密度が高い場所に移動すると、彼女は僕の耳に口を寄せて囁いた。


「那岐、しばらく一人にならない方がいいかも? 私とかお姉さん、或いは信頼できる友達と一緒にいた方がいいかも」

「なんで?」

「多分さっきみたいなの他にも出るかも? 男だからって触ってきたり、変に絡んできたり、そもそもガード甘いし」

「えっ、ガード甘いってどういうこと?」


その問いに答えたのは束本の友人の別の女生徒だった。


「伏谷君、脚広げて座ってたじゃない。あれじゃ見る位置によっては丸見えだよ?」

「いや、今日僕ズボンだし……」

「少ししたら制服になるんでしょ? そしたらスカートになるんだよね? その時座り方注意できる?」

「うっ……」


正直座る時に座り方なんていちいち考えていない。だからちゃんと意識していない限り、足は開いて座っちゃうだろうな……


「私たちが一緒にいれば、注意してあげれるよ」


彼女の言葉に、束本がこくこくと頷く。


「それに、さっき胸に手を伸ばされたのに振り払おうともしなかったよね那岐。ノーガードだよ」

「まぁ別に触られてもって感じではあるし……」

「男同士が気安く触るわけじゃないんだよ? 明らかにいやらしい気持ちをもって触られると想像したら、もし那岐が男でもいやでしょ?」

「……ごもっともです、ごめんなさい」


確かにそういう感情を持って触られると考えると、死ぬほど嫌すぎた。

認めて自分の浅はかな考えを謝罪する僕に、束本とその友人たちはうんうん頷く。


「というわけで、しばらくは私達と一緒に行動するといいよ。そうすればそういう手出しをしてくることもないだろうし」

「……ありがたいけど、そうすると男性の友人とは疎遠になりそうだなぁ」

「別に普通に教室で話す分にはいいんじゃない? さっきのアレがあるから教室内で同じような事する奴はいないだろうし。それに」

「それに?」

「その外見でいつも男の子に囲まれていると、侍らかしてると思われて一部の女の子から嫉妬されるかも?」


……それが一番嫌な事かもしれない。








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