自分を認識
「誰だこれ」
鏡に映る姿を見て、そう呟く声も誰の声だって感じるくらい高く感じるけど、さすがに聞きなれてきて顔程の違和感は感じない。
両手で頬に触れる。……その感触は確実にあるのに、鏡に映った顔が自分の物とはとても思えなかった。
……ものすごく今更ではあるんだけど。僕がこの姿になってから大分時間がたってるし。
実はあの後、2時間くらいで目が覚めた。……お腹がすいちゃって。
確認したら、もう金曜日の夜だったんだよね。
束本が倒れたのは水曜の夜。そこからほぼ寝ずに検証を続けて、僕が倒れたのは木曜の夕方近くだったらしい。そこからずっと寝ていた事になるから、ほぼ丸一日寝ていたことになる。そりゃお腹もすくよね。
起きたら押すようにメモされたボタンを押したら医療担当のスタッフさんが来てくれたので、部屋にご飯を用意して頂いた。んで、そのご飯を平らげてからトイレにやってきて……初めて自分の顔をはっきりと確認したわけだ。
僕が女の子になってからは丸二日。内一日は寝てたにしてももう一日は動きまわってたわけで、多分窓に映った姿は目に入ってたはずだし、何なら今みたいにトイレの鏡の前にもたったハズなんだけど。
あの時はとにかく束本を救う事しか考えてなかったから意識できてなかったのかな。というか、頭の大部分を解呪の方に回している状態じゃ、鏡に映った姿を自分と認識できなかったのかも。
……なにせ、外見が予測したものと全く違ったので。
予想では、男の時の外見のままか、あるいは実姉である那美に似ると思っていた。だけど今鏡に映っている姿はどちらとも違う。
那美は身内のひいき目を抜いても間違いなく美形に類されると思うけど、美人と可愛いどちらに類するかと言われれば美人よりになるだろう。それに対し鏡に映る姿は間違いなく可愛い扱いされる姿だ。ついでにいうと那美の髪質はさらさらの黒髪ストレートヘアーだけど、今の僕の髪はやや栗色がかったふわふわ感のある髪だ。後何か所か寝ぐせで髪が跳ねてるので癖っ毛かもしれない。
うん、本当に誰だこれ……と思うんだけど、なぜか妙に既視感があるんだよな。親戚にこんな子いなかったよな? 後で那美に聞いてみようか。
というか、那美、僕を弟と認めてくれるかなぁ……彼女はまだ狭間から帰ってきていないけど、数日ぶりに戻ったら、ねぇ。
僕は鏡を見る視線を少し下げる。
そこには、患者衣を押し上げる立派な膨らみがあった。ちなみに下は本来あるべきものがなくなっていた。
……正直そっちの方が今は違和感を感じている。本来存在しないものが存在するより、本来あるべきものが存在しない方が僕は違和感を感じるらしい。
ちなみに今僕がいるトイレは女子トイレだけど、その前に無意識に男子トイレに入っちゃって先客の職員さんに怒られた。今まではそっち入ってたんだから間違えるのは許して欲しい。というかこんな姿になったからってためらいもなく女子トイレに入れないよ、普通。いざ用を足すときもいろいろ考えちゃったしさぁ。
そういえば、当然解呪の検証中もトイレくらいはいってたはずなんだけど、その時僕どっち入ってたんだろう? あまり記憶がないけど……なんとなく、男性用便器があった気がする。まぁ、考え事してたら普段行きなれた方に行くよね。
しかしまぁ、本当に女の子になったんだなぁって改めて実感したよ。トイレで実感するのってアレだけどさ。
そういえば何故か、そう何故か今僕は女物の下着をつけてるんだけど、だれが着せたの? というか用意したの? JMAの方で用意しているもんなの?
その下着に包まれた胸をしたから持ち上げてみる。
……別にやましい気持ちは起こらない。自分のだからね。
それにしてもこれ、那美よりちょっと大きくないか?
「那岐がこんな所でえっちな事してる」
「!?」
突然かけられた声に振り向くと、そこには束本が立っていた。別に呆れた風ではないいつも通りの表情だけど……なんとなく目が冷たい気がする! っていうかまた明日っていったじゃない! なんでこんなピンポイントで会うの!?
「那岐」
「なっ、なっ、何?」
「女の子の体に興味があるのはわかるけど、もう少し人目につかない所でやった方がいいと思うよ?」
「誤解だぁーーーー!」




