フォールダウン
「本当にあいつなんなんだろうなー。無能の癖に」
「開発しかできることがない癖に、その開発すらロクに結果残してないんだろ。なんでコノ学校来てるんだろうな」
「やる気ないならとっととやめりゃいいのにな。Dランクにはなれたけどそれ以上は無理だろ。役立たずにもほどがあるぜ」
「それでいてAやS級にはすり寄ってるんだからな、ほんと身の程知らずだよ」
教室の中、明らかに僕が居ることを認識したうえでわざと聞こえるようにしゃべる数名のクラスメイト。
こういった嘲りは、今に始まったことじゃない。中高一貫の学園に入って初年度はおいておくにしても二年目からは多かれ少なかれ言われてきたから今更だ。勿論そんな事を言ってくるのはごく一部ではあるけれど。
その言葉と嘲笑を聞いた数名のクラスメイトが俺に痛ましげな視線を送ってくるが、別にあまり気にしていないから大丈夫だよ?
だって、言ってることの大部分は事実だしねー?
◇◆
フォールダウンという現象がある。
ここ──地球の存在する世界とは異なる時空に存在するもの──俗にいう異世界が、地球の一部に上書きされるもの……いや、まるっきりその世界に書き換わる訳ではないので融合という表現の方が正しいかな。
異世界がこの世界に落ちてきたということで、フォールダウンという呼び名になったらしい。
初めて観測されたのは今から大体70年ほど前の事。最初はイタリアの首都、ローマだった。それから大体十数年毎にドイツのシュヴァルツヴァルト、オーストラリア、そして4番目にこの事象が確認されたのが日本だった。
東京、ではなく地方の大都市。天津原と呼ばれるその街に落ちてきたのは、ウィザストという……魔女の世界。
そのフォールダウンによってやってきたのは数名の異世界人と、魔術だ。
魔術といえど、使えるのは"魔術器官"と呼ばれる特殊な器官をもつ異世界人だけ。そのわずかな異世界人も保護され、世話役兼監視が付き(この時点で、やってきた異世界人に「害意」がない限り粗雑に扱ってはいけないというルールが世界的に決定されていた)、住人たちは自分達の生活にほぼ影響がでないと思い安堵できたのだ。──ほんの数年は。
世界が重なるなどという異常な事象が発生しているのに、影響がでないなんてことありえなかった。
異変は、三つ発生した。
一つ目は、少しずつ異形の存在が出現するようになったこと。異世界の怪物……ではなく。この世界、日本での物語の中の存在。伝承の中の妖怪や、西洋発祥である怪物さえも出現が確認された。そいつらは語モノと名付けられた。
二つ目は、ゲートと呼ばれる"異世界との狭間"の空間への門の発生。ただこれは元々発生が予想されていた。これまでのフォールダウンでも確認されていたからだ。尚、一つ目の事象に関してはこのゲートの影響で発生しているので一つにくくってもいいかもしれない。
そして三つ目は──人の体に発生した。
ウィザストが落ちてきた年より大体一年程以降に生まれた新生児、その一部に本来の人間が持たない器官が確認されたのだ。
そう、"魔術器官"が。
そしてそれらが確認されてからおよそ10年後。国が推進するプロジェクトの一画……むしろ中核を担うともいえるプロジェクトとして立ち上がった。
「魔術師養成計画」である。
"魔術器官"を持つということは、やってきた異世界人同様、魔術が使えるということだ。ただ、異世界ウィザストの魔術は技術であり、学ばなければ使うことはできない。
そのため、国は異世界人達に技術の供与を依頼し、そして"魔術器官"を持つ子供たちを養成する場所を作り出した。
それが、"天津原魔術学園"である。