プロローグ
●第三者視点
語モノ。
それはこの世界のものではない力によって現れた、この世界産まれの異形の怪物だ。
その姿は例外はあるが、大部分は日本古来の異形の存在……妖怪と酷似している。
彼らは二十数年前、ある事象が起きたことにより姿を現した。
以来、この日本の特定地域限定ではあるがそれこそ数えきれないほどの数の出現が確認されている。
……まぁ、その妖怪擬き達がそれこそ物語の通りなら、必ずしも害ある存在ではなかっただろう。伝承や物語では人の益となる異形だって数多くいるのだから。
だが、彼らが物語に酷似しているのはその姿と特性だけ。彼らは出現すると必ず周囲に害を起こす。物を破壊し、人を襲うのだ。過去には犠牲者だって数多く出ている。
だから、人間は彼らと戦う必要があった。
「《凍てつく棘よ》!」
住宅街のはずなのに、まるで周囲から生活の気配が感じられない死んだ街の一画。一人の男性の声が響き渡ると同時に、激しい衝突音が静寂の中に響く。
陽はとうに落ち、周囲は宵闇に包まれている。──そのハズなのに、辺りはまるで昼間のように明るく照らされていた。その原因は、先ほど声を響かせた男……ではなくその前に存在するそれにあった。
その姿は木製の水車のような車輪……それを包み込むように燃え盛る炎のせいだ。
輪入道。妖怪等に知識があるものであればそう呼ぶであろう異形の存在が、現代の街の中にそびえたっていた。
その周囲を覆う蒸気を見て、男は舌打ちする。
「やはり氷じゃダメか……ならこれはどうだ、<<切り裂く刃よ>>!」
男の声と共に、今度は周囲に突風が巻き起こり、直後再び激突音が響く。だが──
「うげっ!?」
輪入道はその一撃をモノともせず、男に向けて突進してきた。自身の体よりも大きい体躯の突進を男は既の所で回避する、が。
「……っ」
本体部分は回避できたものの、その巨躯を包む炎自体は回避できなかったらしい。輪入道が通り過ぎた後、男は右腕を引き顔をしかめる。その腕を包んでいたはずの衣服はあっさりと炭化し、その下にあった肌も炭化とは言わないまでも焼けただれていた。
「くそっ、他の連中はまだかっ……」
明らかにダメージは軽くはない。だが男は逃げ出すそぶりは見せなかった。
この辺りは住宅街だ。そんな場所でこんな怪物に好き放題に暴れられたら、大火災に発展しかねない。
ここは放棄区域だから問題ないが、火災が広がれば人の住む地帯まで影響が出る可能性がある。──最悪な事に、今日は風も強い。だから怪物を自分へとひきつけておくためにも、逃げ出すわけにはいかなかった。できるのは他の魔術士達が早く来ることを祈るだけだった。
そうして、男がギリギリまで耐える覚悟を決めたその時の事だ。
「支援入ります! 《領域展開》!」
これまで男と輪入道しか存在しなかったこの場所に別の声が響く。
「《痛覚軽減》《自動治癒》《炎耐性》!」
同時に、大きな杖を持った一つの人影が飛び込んできた。そしてその声が響くと男の腕を苛んでいた痛みが薄らいでいく。その効果と、そして駆け込んできた姿を見て男は目を見開いた。
「君は……!」
「ひとまず防御系の支援だけを入れました! 後少しで他の魔術士も来るのでもう少し耐えてください!」
「そうか……君が噂の! 聞いた通りの力と姿だな!」
男が思わずガン見してそう言葉を放つと、相手は顔を赤く染めて眉を吊り上げた。
「姿の話はしないでください! って、ちょっと! 人の事拝んでないでちゃんと前見て戦って~!」