パラサイトマン(三十と一夜の第80回)
昼に起きてテレビを点けると、「疫病が蔓延しているので、自宅におりましょう」とアナウンサーが神妙な面持ちで煽っている。言われるまでもなく最初から、ぼくはそうしている。
以前と言っていることがまるでちがっているので、肯定されたという喜びなどまるでない。あからさまな掌返しに、反吐が出る。さんざんぱら、ぼくの人権人格を否定してきたのに。
疫病が流行するまえから、ぼくは日陰者......否、まるで犯罪者であるかのように詰られつづけてきた。親に寄生する穀潰し。社会不適合者。禁治産者。社会のゴミクズ。NEET。
ぼくはただノイローゼに陥り、家のなかへ引きこもるようになった。過重労働、対人地獄。罪なくしてぼくは追いやられ、外界を拒絶した。罪と云えるのは、無力であったことだけ。
拒絶した外界からの誹謗中傷が、ぼくをさらに追いこむ。関係ないだろ、放っておいてくれ......ますますぼくは、外へ出られなくなる。弱すぎるぼくだけが、籠るぼくを肯定する。
疫病が流行しているから、家に籠れとか......家から出られないことを罪悪のように言っていた連中が、ふざけるのも大概にしたらいい。家だけがぼくの居場所で、それ以外にない。
唯一の居場所ですら外界に染めようといういまの風潮には、違和感と憤りしかない。たかが疫病ごときで家に引きこもろうという臆病者どもに、ぼくを糾弾する資格などあるものか。
ぼくの苦悩、ぼくの味わった地獄はこんなものではなかった。ぬるま湯で調子こいていたカスどもが、えらそうにぼくを否定してきたわけだ。反吐が出る。一生怯えて生きるがいい。