約束のただいま
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もうダメだ。
自分はここで死ぬだろう。
それでも厄災と呼ばれたあいつを討てた。
これで祈りを捧げる彼女の負担も減るし、これからの彼女の未来を守れたと思えば悪くない最期かもしれない。
「英雄になんてならなくていいから。」
最期の時に身を任せるように目を閉じれば、出陣の前の日にそう言って泣いた彼女を思い出す。
「あなたは私と逃げてはくれないのでしょう?」
逃げられるわけがない。
この国を守る要としての矜持もあるし、何より逃げれば心優しい彼女はこの先ずっと罪悪感に苛まれるだろう。
「武功をあげなくてもいいから。どんな姿になってもいいから。」
あぁ、そうだ。
こんな所で目を閉じている場合ではない。
自分は彼女と約束したじゃないか。
「お願い、私のもとに帰ってきてーーー」
必ず、帰る、と。
片腕を失い、体中傷だらけだ。
顔にも攻撃を受け、片目はどうなっているかもわからない。
それでも、彼女のもとに帰ると決めたのだ。
ズズっと言うことを聞かない足を引き摺り歩き出す。
バランスが取れずに何度も転んだけれど、ただ必死に前へと進む。
せめて近くの村まで辿り着ければ、撤収させた部下の誰かしらが残っているだろう。
子供の歩みより遅く、いくつかの夜を越えた。
厄災を討ったためか、自分を襲うものがいなかったのは幸いだった。
それでもそろそろ意識が朦朧としてくる。
目が霞んで、前が見えにくい。
足も折れた剣を支えに、立っているだけで精一杯だ。
あぁ、帰りたい。
帰りたいんだ。
彼女のもとに、帰りたい。
膝をつけばもう二度と立ち上がれない気がするのに、グシャリと倒れ込んでしまう。
あぁ、どこか遠くで彼女が自分を呼ぶ声がする。
…泣かないで。
きっとあなたのもとへ帰るから…
ふと目を覚ました。
自分は死んだのではないのか?
「目が覚めた?」
「な、んで、」
「あなたが心配でこの村まで来てたのよ。流石にここから先へは行かせてはもらえなかったけど。」
身体を起こそうとするも、重たくて動かない。
「回復魔法はかけたけど、まだ安静にしてて。血液を失いすぎて危なかったのよ?」
「…そうか。」
「左腕は…治せなかった。ごめんなさい。」
「いや、謝ることじゃない。わかってたさ。」
「ねぇ、」
「ん?」
彼女の顔がくしゃりと歪む。
「っ、帰ってきてくれて、あり、がとう…」
横になったままの自分の右手を両手で握りしめ泣きじゃくる彼女を慰めたくて、力が入らないなりに握り返す。
「…あのまま死ぬのだろうと思ったよ。腕を失い、もう騎士には戻れない。自分には剣しかないと思っていたし、このまま無様な姿を晒すなら、と。何より立ち上がれる気がしなかった。…それでも…あなたに会いたいと思ったんだ。」
帰らなければ、あなたが泣くのではないかと思った。
守りたいと思ったあなたを、自分のせいで泣かせたくないと思った。
これから先のあなたの未来を、自分ではない誰かが守っていくのは嫌だと思った。
何より、もう一度あなたを抱きしめたいと思った。
「帰ってこられてよかったと、本当に思ってる。もう一度、あなたに会えた。」
自分の言葉に彼女は泣きながらも笑ってくれた。
「うん、っ、おかえり、なさい。」
「あぁ、ただいま。」
体が動かない自分の代わりに、彼女が強く抱きしめてくれた。
ありがとうございました




