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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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使ってみよう、マジック・アイテム 2


 チートがしたい。


 レックはかつて、そう思っていた。

 転生したのだ。

 ならば、何らかの不思議な力が備わっていたり、並外れていたりしても、おかしくないのだ。


 そう思っていた時期は、短かった。


 ステータス先生は、存在していなかった。おかげで、自分の能力は手探りで探し当てる必要があった。

 そして、スキルや魔法は、全て努力と経験とひらめきと言う、当たり前と言えば当たり前の手段でしか、取得できない世界だった。


 草原で、魔法のステッキを握り締めていた。


「………あれ?」


 シャボン玉のように頼りなく、なにかが浮かんでいた。

 水球は、発生した。

 そこまでは、いつものことだ。レーザーと呼ぶ魔法は、高圧水鉄砲で、威力はカノン系に匹敵する、レーザーだ。


 威力が強すぎるため、他の魔法を手に入れようと、練習のためにここにいた。

 ただ………


「えっと………ボウズ、あせるな」

「ふふふ………使い勝手が、ちょっと違ったかしら?」

「はぁ~、レックも手遅れだったか」

「あはは、昔のベル君みたいだね?」


 経験者達は、笑っていた。

 レックは、笑えなかった。『大火炎パンチ』のおっさんは、テクノ師団の隊長と言う地位にまで上り詰めている。

 なら、凄腕のはずだ。

 なのに、魔法については、どこか気まずそうだ。『大火炎パンチ』の威力はすさまじく、巨大モンスターも、単独で討伐が可能らしい。


 どうやら、『大火炎パンチ』しか、扱えないようだ。

 レックも、レーザーと言う水鉄砲しか、使えないと言うのだろうか。バリエーションは、それなりに豊富になってきた。


 だが、まだ、他の魔法が使えていない。探知魔法や、通信のための魔法も、あるといえばあるのだが………

 ステッキを持つ手が、震えた。


「すでに、成長限界と言う絶望が目の前にあるというのか………」


 器用貧乏でもいい、もう少し、魔法使いらしい魔法が欲しかった。


 第一歩に向けて、祈った。


「進んでくれよ、このまままっすぐ………ゆっくりでいいからさぁ」


 ウォーター・ボールが、右へふわふわ、左へふわふわと、頼りない。

 まさか、戻ってきて爆発するのではないか、そんな不安も覚えるふわふわだ。むしろ、シャボン玉だ。


 いいや、シャボン玉なら威力はなく、それでいいかもしれない。転生した主人公の魔力は膨大である。

 ちょっとした魔法のつもりで、大爆発がお約束だ。


 なのに、微妙であった。


「そう、そのまままっすぐ、そうだ、いい子だ、そうだ、そうだぁ~」


 ペットにしつけをする気分だ。

 そぉ~れ、拾ってこぉ~い――と、頭の中の浪人生は、なにかを投げる演技をしていた。真剣に、魔法を見つめる気持ちは失せているようだ。


 レックは、うなだれる。


「ただの水の固まりでもいいッス、そのまま、安全な距離まで行ってくだせぇ」


 お願いしていた。

 自らが生み出した水の塊へと向けて、お願いしていた。そういえば、遠くへと飛ばす魔法は、様々だと思い出す。

 水鉄砲は、圧力を一部解放して、放出する魔法だ。


 一方、ウォーター・ボールは、魔力の塊を撃ち出している。レーザーとは異なる、レックには苦手な方式かもしれない。


 見物の皆様は、感想を語り合っていた。


「形には、なってるよね?」

「シャボン玉かな?」

「まぁ、こっちに飛んでこなけりゃいいさ」

「一応、バリアの準備、しとく?」


 退屈してきたようだ。

 しかし、レックは今までになく集中の気分だ。ステッキを使うことが、これほど難しいとは思わなかった。

 ステッキさえ手にすれば、魔法が使えるようになる。


 それは、甘かったのだ。


 エルフなどは、ステッキを必要とせず、多くの魔法を生み出し、操っている。それも、片手間に、ついでに、自然に――である。

 エルフと同じ気分で修行を受ければ、人間であるレックでは、習得できないのも当然だ。そう思って、ステッキさえあれば――と、思ったのだ。


 力任せに、オラオラオラ――している『大火炎パンチ』のおっさんの気持ちが、ちょっと分かってきた。


 レックは、思わず声を上げた。


「あっ」

「「「「「あぁ~あ」」」」」


 テクノ師団のおっさんに、魔女っ子マッチョのアリスちゃん殿に、エルフたちが同時に、あきらめの声を上げた。


 言われなくとも、見えている。

 レックの生み出したウォーター・ボールらしき水の固まりは、目標に届くはるかに手前で、その姿を水へと変えた。

 ウォーター・ボールは、魔力を圧縮された爆発物である。それが、ウォーター・ボールと言う危険な魔法なのだが、一応は、中級魔法に分類されているのだが………


 ただの、水の塊だったようだ。


「まぁ、あれだ………事故がなくて、良かったな」

「そうよ、魔法の練習なんて、何ヶ月もかけるのが普通ですもの。魔女っ子たちも、きっと影ですごい努力を――」

「ねぇ、レックって水球を6つ出せるようになったんでしょ、なら、もうちょっと――」

「ふっ、試練に立ち向かうときか………」


 応援のつもりか、感心が薄いだけか、4人それぞれに、微妙だった。

 反発しないレックは、大人だった。


 いや――


「へへへ、わかってやすよステータス先生。あっしは、ザコなんッス。分かってましたとも。ステータス先生に見捨てられても、仕方なかったんッスよ」


 ステッキを抱きしめて、うずくまっていた。

 まだ、転生初日のダメージが、残っているらしい。転生した主人公である。ならば、すごいスキルがあるはずだ、ステータス先生に願おう。


 ステータス・オープン――


 この単語で、自分の知らない能力がずらりと並び、人々の願望を一身に受ける、主人公の苦難が始まるのだ。


 そんなことはなかった、結果は、目の前の水溜りであった。


「王都へ出発まで、ひとつでもいい、ひとつでも………」


 草原で魔法の練習が出来る日数は、限られている。国王陛下から、直接お言葉をいただけるのだ。

 前世の日本では考えられない、かなり大雑把な日程だった。


 それは当然で、中世ファンタジーの異世界では、ややSFに文明が発展していても、限界がある。

 通信装置や、テクノ師団のヘリなどのおかげで、ややSFと感じているだけだ。一般の生活は、異世界ファンタジーらしく、中世のヨーロッパがぴったりのイメージだ。

 生活用のアイテムのおかげで、かなり便利だが………


 鉄道は、不可能らしい。

 モンスターの大発生が、理由である。いつ、どこで発生するか不明であれば、大陸を覆いつくす交通網は、不可能なのだ。


 踏み潰されても修復が簡単な街道が、せいぜいなのだ。


 と、言うことで――


「出発まであと5日。それまでに、何か出来るといいわね?」

「ははは、がんばれよ、勇者(笑)さま~」

「ふっ、期待しているよ、ボクのライバル」


 見物の皆様は、ピクニック気分だった。




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