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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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使ってみよう、マジック・アイテム 1



 不思議を探して、旅立とう。


 レックがバイクを購入した理由である。

 元々、刺激を求めて、生まれ故郷を飛び出した少年なのだ。魔力が跳ね上がり、懐も豊かになったのだ。

 前世の記憶がよみがえったその夜に、決めたのだ。


 だが――


「なぁ、相棒………なかなか、出番がないな」


 宝石を握って、つぶやいた。

 思えば、エルフの国へ向かった日々が、一人旅としての唯一のものだ。そのまま、バイクを転がして不思議を探すつもりだった。


 探せ、ファンタジー。


 ややSFと言うこの世界において、いまだ残されているはずの、古きよきファンタジーを探そうと、旅立ったのだ。


 神秘の種族が、腰に手を当てていた。


「レック、さっさと構えなさいっ」


 金髪のツインテールが、今日もまぶしい。

 ミニスカートも、やはり、コハル姉さんはセーラー服がよく似合う。一番見慣れた姿だからか、本人が、一番ノリノリになるお召し物だからか、分からない。


 ファッションとは、そういうものだ。


 その人物の一部となり、その人物を形成する。では、今のレックの姿は、いったいどういうことだろう。


 魔女っ子だった。


「ねぇ~、ボク、帰っていい?」

「ラウネーラも呼ばれてるんだよ。出来れば――って所だけど、たのむよ。きっと厄介ごとだぜ、経験者だから、分かろうぜ?」

「そうねぇ~、転生者って珍しさから、お呼びがかかる………ってことも、けど、同時に大発生の知らせなのよねぇ~」


 経験者達が、朗らかに語り合っていた。

 エルフのラウネーラちゃんに、テクノ師団のおっさんに、魔女っ子マッチョが、草原でそろっていた。


 本日も、良いお天気だ。このまま、のんびりとピクニックとしゃれ込みたい。つい先日まで、モンスターの大発生におびえていたとは、とても思えない。


 しかし、この世界では日常なのだ。

 しかも、台風のように、一度過ぎて終わりでもない。台風が一族を引き連れておいでになるように、モンスターが大発生をする場所や回数は、たくさんなのだ。


 つまり――


「ご依頼のための呼び出し――だろうな、間違いなく」


 テクノ師団のおっさんが、笑った。

 レックは少ししか見ていないが、『大火炎パンチ』の実力は、大型飛行モンスターを相手に、引けを取らないオラオラオラ――だった。

『爆炎の剣』のファイターである、ゼファーリアの姉さんの、パワーアップバージョンと言うべき、すごいおっさんだった。


 レックは、恨めしそうに見つめた。


「冒険者って、自由なる身分じゃ」

「はっ、はっ、はぁ~………あきらめろ、シルバー・ランクも<中級>ともなれば、ギルドマスターと同等の身分だ。扱いは騎士様だ」


 笑っていた。

 銀色ヘアーのおっさんで、中佐殿――と、レックが心の中でお呼びするおっさんは、しがない中間管理職だと、判明した。


 騎士様とは、一般の人々より上の身分である。

 哀愁あいしゅうが漂うおっさんの態度から、期待をするべきではないと、草々に悟ることが出来た。

 人生、あきらめめが肝心かんじんだ。

 背中が、語るのだ。


 エルフたちは、楽しそうだ。


「とりあえず、レックの魔法は水鉄砲だけだからね。もっと単純なものから、試していくわよ。そうでないと、ベル坊みたいになるわよ」

「コハルちゃん、オレもいい年なんだから、その呼び方は………」

「ふふふ、ベルちゃんも練習する?ステッキの予備は、たくさんあるわよ?」


 マジック・アイテムを手にすることなく、繊細な魔法は難しいと言う。

 しかし、基本は自分で魔力を練り上げることから始まる。魔法のアイテムは、その補佐に過ぎないのだ。

 ある程度扱えるようになって、ようやく、アイテムの出番だ。


 近年は、マジカル・ウェポンシリーズが流通しているため、魔法のアイテムの必要性は、少なくなっているように思えるのだが………


 店長のマッチョな魔女っ子は、微笑んだ。


「もともと、中級魔法クラスの人でないと、アイテムを手にしても効果は薄いからね。お値段もそれなりにするし、マジカル・ウェポンとはうまく住み分けているわけよ」


 店長としての、魔女っ子マッチョさんの感想だった。


 かわいく、きゃるるん――と、杖を構えると、微笑んだ。


「まずは、みてて?」


 練習用の初歩的なものから、カルミー姉さんクラスが手にした、大きな杖まで多彩である。

 魔女っ子マッチョの手にするほど、可愛らしいアイテムも、たくさんだ。ハートのステッキが、神々しく輝いた。


 レックは、驚いた。


「げっ――」


 岩が、破裂した。

 ハートマークの輝きが、のんびりと突撃をした。そう思って見つめていると、岩に直撃、砕けたのだ。

 カノン系に、爆裂のイメージが追加された魔法であった。


 テクノ師団のおっさんが、解説してくれた。


「威力で言えば、ファイアー・ボールとか、ウォーター・ボールとか言うタイプだ………一応は、無属性だろうがな」


 ハートタイプであるため、ハート属性かもしれない。

 しかし、炎でも水でもない魔力の塊のため、一応は属性がないとなっている。魔法の分類とは、本当に大変だ。そのために、膨大な学習が必要と思われて、事実、使い分けるためにも知識が必要だ。


 水鉄砲のレックには、遠い話だ。

 金髪のセーラー服様が、腰に手を当てていた。


「レック、ちゃんと見てたの?」


 えらそうだった。

 エルフの国では、レックに魔法の修行を付けてくれたエルフちゃんである。逆らえるわけもなく、逆らうつもりもないレックである。

 愛想笑いで、ごまかした。


「へへへ………なんとも、鮮やかなお手並みで」


 ボールは、分かる。


 魔力を圧縮するイメージで、さらに圧縮して瞬間的に解放、爆発と言うイメージは、レックには簡単に出来そうだ。


 実際に出来るかは、別問題だ。

 ハートマークにするイメージは、不思議だった。


 そして、不思議だった。

 レックの目線で気付いたのか、魔女っ子のマッチョさんは、くすくすと笑った。目を閉じて、女子中学生なのだと思い込めば、すこしあざとい。


 マッチョであるため、迫力があった。


「ベル君はね、熱血だったのよ。エルフの国でも、純粋に魔力を高めるだけだし、エルフには、本来それだけで十分だしね?」


「けっ、エルフの修行方法が通用する人間なんて、いるかって話だ」


 魔力が強い上、イメージの力がこの世界の人間の追従を許さないため、勇者たちは、まずその個性を伸ばされるのだ。


『大火炎パンチ』は、そうして生まれた。


 本人は、剣を空に向けてファイアー・ソードをしたかったらしい。そして、遠くへ向けてスラッシュで、必殺技で、トドメなのだ。


 そうして、突撃野郎になっていた。


「基本の魔法が出来たら、次は応用と、次の魔法………なのに、ベル坊ッたら、オレは最強っ!――とか言っちゃってさ、仲間も一緒に――」

「あぁ~、あぁ~、聞こえない、聞こえない」

「今からでも、ファイアー・ボールくらい覚えたら?遠距離攻撃、ないんでしょ?」


『大火炎パンチ』のおっさんが、勉強嫌いな悪ガキに見えてきた。

 レックは、まだ未来がある。何十年も冒険者をしていても発展しない人もいる。自分は違う、やれば出来る子、できる子レックと、前世が応援していた。


 いまのところ、水鉄砲の派生で、かなり進んでいるのだ。

『大火炎パンチ』のおっさんは、そこでつまづいたのだ。


 あるいは、面倒だったのか………


「アイテムに魔力を載せて、力を制御………」


 理屈は、簡単だ。

 前世が腕を組んで、おまえなら、できる――と、えらそうだった。

 すでに、6つの水球を発生できるレックである。これが、某・宇宙世紀のように、遠くへと飛ばし、そして攻撃してくれれば、最高だ。


 今のところは、レックの周囲に限定される。ただ、応用はありがたい。スフィア・バリアへと変化してくれるのだ。

 それが、6つだ。


 では、他の道は?


 単純に、二桁の水球を生み出し、ウォーター・ボールとして乱射することは出来るのではないか、イメージは簡単にできそうだ。


 ためしに、1つだけ生み出してみる。


「ウォーター・ボールっ」


 レックは、叫んだ。



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