魔法少女、レック
マジカル・ウェポン
攻撃魔法を扱えるほど、魔力がない。そんな冒険者の希望と言っても過言ではない、マジカルなウェポンである。
魔法の、ビーム・ガンだと、レックは思っている。
リボルバーだけで森へ向かった日々が懐かしい。予算に余裕があれば、中級魔法に匹敵する威力の武器まである。
だが、そこまでだ。
本来、魔法攻撃の代用に過ぎない。では、本来の魔法使いは、どのようなアイテムを手にしていたのか。
レックは、手にした杖を掲げた。
「これが、マジック・アイテム………」
ステッキだった。
魔女っ子にはお約束のアイテムであり、様々な不思議が飛び出す、魔法のステッキであった。
可愛らしくハートマークが、凶悪だ。
どこかの美少女が手にしていれば、可愛らしいだろう。しかし、レックは15歳の少年である。
ミニスカートが問題ない太ももでも、男子なのだ。
断固として、抗議した。
「へへへ………あのぉ~、あっしにはちょっと――」
下っ端パワーは、常時展開だ。
趣味に合わない――などと、口に出来るわけもない。レックが気を失っている間、お部屋を貸してくれたマッチョ様のお店に戻っていた。
報告会は、つつがなく終わった。
もう、旅立ってもいいはずだ。
しかし、レックたちはアイテムショップに、逆戻りしていた。魔法のアイテムが必要だと、皆様が連行したのだ。
レックの限界が、はっきりとしたのだ。
「でもねぇ~、レックも自覚してるんでしょ?上級魔法は使えるけど………」
「ふっ、新たなる試練か………それでこそ、勇者(笑)だね」
「ふふふ、安心して、品揃えには自信があるのよ?」
次の段階に、進もう。
エルフちゃんたちと、マッチョな魔法少女が、かしましい。
なお、テクノ師団のおっさんは、ここにはいない。出番は終わったと、早々にお帰りになったのだ。
魔女っ子マッチョさんが、指をあごに置いて、小首をかしげた。
「でも、そうねぇ~、レックちゃんは金髪なんだし、すこしくらい派手なほうがいいと思ったけどぉ~………」
きゃるるん――と、どす、どす――と、ミニスカートがゆれた。
お店には、様々なアイテムが並べられている。どれも、魔法の力で防御力を高めたり、使用者の魔法を補助したりと、多種多様である。
そんなアイテムを作るためには、かなりの魔力が必要だ。
ふざけた服装は、心から魔法少女になり、恩恵をアイテムに与える。そのための儀式だと思えば、何を気にする必要があろう。
自分が身につけるため、気にするのだ。
レックの手に、新たな杖が渡された。
「はい、新しい杖よ」
悪化した。
ハートをあしらったステッキに、羽の生えたハートのステッキへと、ランク・アップを果たしていた。
カラーは、派手なピンク色だ。
どこかで見た忍者さんと言うエルフさんも、お気に入りのカラーであった。今のレックの姿を見て、ニコニコと、近づいてくるだろう。
妹様が、カシャリ――と、何かした。
「レック、とりあえずそのままでいいから、はい、ぽ~ず」
コハル姉さんが、なにかを手にしていた。
もちろん、ケータイである。トランシーバーと間違えてはいけない、ファンタジーな世界で、なぜか存在するガラケーである。
ただし、ややSFだ。
操作画面は空中に浮かび上がった、立体映像である。レックの今の姿も、立体的に、後世に残ることだろう。
エルフのことだ、本当に長く、長く残るだろう………
「………あのぉ~、コハル姉さん?」
撮影会が、始まったようだ。
レックの金髪は、ツインテールだ。リボンは可愛らしいフリルに、すこし贅沢に、金具の装飾品もハートマークである。
ミニスカートも、ただのミニスカートではない。赤に近いピンクカラーに、フリルもたっぷりと、黄金の輝きが、星の形のきらめきだ。
ちょっと、ハデではないか。
いいや、魔法少女であれば、このくらい当然のファッションである。馬鹿に出来ないのは、星型の装飾品は、全て防御アイテムであること。
夢とフリルがたっぷりの魔女っ子さんが、微笑んだ。
「いいわねぇ、エルフのみんなにも見て欲しいし――待ってて?」
どす、どす、どす――と、マッチョが店の奥へと消えた。
フラッシュの余波を浴びたのか、スカートや胸元に縫いつけられた、星型のアイテムが、ほんのりと輝いている。
レックの相棒、エーセフと同じ、ややSFのバイクでおなじみのバリアである。
どす、どす、どす――と、衣装を手にしたマッチョが戻ってきた。
「ほらほら、これも着てみて?」
スカートは、確定らしい。
ふわりと、広がりのあるものから、両サイドに分裂しているもの、ロングもあるが、どれも色合いが派手と言うか、なんと言うか………
歴代魔女っ子シリーズの、登場だ。
「えっと、それ、何着あるんで――」
「いいわね、全部着せちゃえ」
さすがは、エルフだ。
しかし、興味を示さないエルフもいる。フリルがたっぷりの衣装を前にしても、平然としていた。
銀に輝く金髪が、さらさらと風になびく。
室内なのに、不思議である。プラチナブロンドのロングヘアーをなびかせて、あさってを向いていた。
「メカ意外に、興味はない」
違った。
重症だっただけだ。街中であるにもかかわらず、ぴっちりとした、ライダースーツというか、パイロットスーツの姿である
ロボット関係以外には、興味がないようだ。
レックは、助かったと思ったが………
「あるわよ、これ――」
魔女っ子アリスちゃんが、なにかを取り出した。
本名はドッドという、山賊のお頭であるほうが自然という筋肉は、魔女っ子スタイルでは隠し切れない。
転生者のため、色々、こじらせていた。
ラウネーラちゃんは、お気に召したようだ。
「へぇ~、そんなのもあるんだ」
「えぇ、女の子のパイロットも戦隊ヒーローも、色々いたのよ?」
ライダースーツ+スカート+メカだった。
カチューシャがヘッドセットに、メカニカルなショルダーパックに、きらきらと黄金の輝きは、ピンクに輝くアーマーのパーツが、まぶしく補強する。
ファンシーナイトとでも言うのか、しかし、ライダースーツのようにも見える。様々に融合して、ジャンル分けは、不可能だった。
これを、ファッションと言うのか、汚染と言うのか、レックは判断することが出来なかった。
ただ、叫びたかった。
日本人め――と
しかし………
「あの~、あっしはガンマンコートが気に入ってやして――」
小物パワーの、出番だ。
間違えても、ご機嫌を損ねてはならない。武器を扱う店主には、逆らってはならないのだ。そして、エルフたちにもだ。
もちろん、偉い人にもだ。
この世界は、逆らえぬ人々で、いっぱいだ。
「でも、防御力はほとんどないでしょ?」
「そうそう、攻撃の余波で気を失っちゃうくらいだから………」
「そうねぇ~、映像見たけど、レックの新しい魔法で、水風船?は、悪くないと思ったけどねぇ~………あのくらいで消えちゃうなら、心配かな?」
味方は、いなかった。
レックを着せ替え人形にしよう。そんな本音が透けて見える、みなさま、やわらかな笑みで、こちらを見ていた。
逃げるなよ――と
「えっと、あの、えっと………」
一歩、後ろに下がるレック。
何かに、ぶつかった。お客様でもやってきたのかと、反射的に謝罪の言葉を口にしたのだが………
「あぁ、すいやせん、気付きませ――」
言葉が、止まった。
お相手は、ギラギラと鎧をまとった、まさに騎士――というスタイルの青年であった。これが、何もない状況であれば、思っただろう。
騎士さま、キター
魔女っ子スタイルの今では、なんとも微妙だった。
それは、騎士様も同じ気持ちであるのか、無言でレックを見下ろして、まっすぐと前へと向き直った。
やさしい騎士様だ、見なかったことにしてくれたようだ。
姿勢を正した。
「国王陛下からのお言葉を伝えます。新たに転生した冒険者レックを招きたいと、今回のモンスター大発生への参加にたいする感謝の言葉と共に、もちろん、お仲間のシルバー・ランクの皆様も――」
長々としたお言葉に、レックは固まった。
王都への旅立ちが、決定された。




