魔法少女は、トランスマッチョ
魔法少女
夢と希望をキュートにお届けする、可愛らしい女の子のヒーロー様である。時代によってお召し物や扱う魔法は、少々異なる。
レックがよく知る魔法少女は、ヘビー・マシンガンを両手にツー・ハンドをするミニスカートのエルフちゃんである。
アーマーを装備したセーラー服の『アーマー・マシンガン』なのだ。
他にも、アーマー戦士がいても不思議はない。エルフの国は、コスプレ天国のような印象である。
異世界である日本から文化が入って、最先端が流行し始めるまでに、一つや二つ、古い世代が混ざって流行しても、おかしくはない。
レックは、悲鳴を上げた。
「魔法少女だああああああっ!」
魔法少女だった。
かわいくフリルがたっぷりの、淡い緑色なミニスカートが、くるりと回転する。
大木を思わせる、ムキムキマッチョがとってもまぶしい、並みのモンスターであれば、一撃で蹴り殺せるだろう。
大胆にも、おへそが見えるファッションだ。
ムキムキに割れた腹筋が、攻撃的だ。
ムキムキというマッチョが、魔女っ子スタイルで、現れた
フリルがたっぷりのスカートに、きゃるるん――と、片足を後ろに跳ね上げて、半回転してのポーズの練習など、年季を感じさせる。
レックは、シーツを頭からかぶった。
「ゆ、夢だ、夢だ、これは、夢なんだぁああああ」
悪夢だった
悪夢が、現れた
しかし、現実だ。
コハル姉さんのコスプレを笑っていたのは、笑っていられるからだ。実際の年齢など、人間と比べることが間違いだ、エルフなのだ。
そして、お子様だ。
エルフにとってお子様なら、お子様で良いではないか。可愛らしくコスプレをしても、新たなお召し物だと、笑っていられるのだ。
魔法少女のコスプレも、可愛らしいのだ。
レックは、恐怖していた。
「そんな、そんな、流行だからって、流行だからって………」
人間は、否定するところから、現実を認識し始めると聞く。そんな馬鹿なことがあるかと、まずは否定するらしい。
そしてあきらめて、徐々に現実だと認識していくのだ。
異世界に転生した。
その事実は、否定する隙もなく、素直に受け入れたレックである。それであっても、前世の浪人生とタッグを組んだ、柔軟な思想のレックであっても、否定したい事の一つや二つは、存在するらしい。
悪夢が、声をかけてきた。
「あら~、怖い夢を見たのね?大丈夫、お姉さんが守ってあげるからぁ~」
ドス、ドス――という足音と共に、やさしく声をかけられた。
ドスを手にして、怒鳴り込んでくれたほうが、まだマシだった。日本刀を短くカットしたような、包丁より細長く日本刀に見える武器である。
やくざ映画でお見かけする、しかし、目の前の悪夢は、それ以上だ。
ぬ~――と、シーツがめくられた。
「ばぁ~――」
マッチョなスマイルが、レックの眼前で微笑んだ。
その年齢は40を過ぎて間違いない。体格は、隊長殿よりもはるかに優れている。まともに戦おうとする人間は、同じバケモノくらいであろう。
国境の町のギルドマスターや、エルフの国の解体職人の兄貴達と、いい勝負だ。
ただし、魔法少女だ。
「あわ、あわわわわわ………」
レックは、涙目だ。
頭をナデナデされて、大丈夫?――と、可愛らしく問いかけられた。しかも、小首をかしげるしぐさも、セットだ。
これは、美人なお姉さんが相手であれば、ドキッとするシーンだ。コハル姉さんのように、見た目お子様にされれば、ほほえましいだろう。
2メートルオーバーのマッチョにされれば、恐怖だ。
お姿は、魔法少女だ。
レックの心理キャパをマイナスゾーンに揺さぶっていた。哀れなる少年が、アワワワと、恐怖に震える意外に、なにが出来よう。
前世の浪人生も、腰を抜かしていた。
最近は良く見るようになった設定だと、確かにマッチョやオッサンが魔法少女をする話もあるけど――と、震えていた。
目の前では、とても迫力があった。
「ふふふ、照れてるのかしら?でもね、お姉さんは、あなたよりも年下でもあるのよ………前世は――だけどね?」
かわいくウィンクをして、立ち上がる。
立ち去ってくれるのか。
そんな、はかない希望によって見上げたレックは、重要な単語を聞き逃していた。
レックは、ぼんやりとつぶやいた。
「前世?」
頭が、すこしずつ驚きから回復されていく。
ゆっくりと、レックの頭に入った情報が、魔法少女のコスプレをしたマッチョなおじ様の衝撃から、別の場所で動き始める。
マッチョが、魔法少女が――と、前世の浪人生は頭を抱えているが、無視だ。
オッサンが、微妙な顔だ。
「ドッド――じゃない、アリスちゃんよぉ、前世を気にするのは、そろそろ止めてもいいだろう。転生してから、いったい何十年――」
銀色のショートヘアーのオッサンは、黙った。
レックが心の中で、中佐殿――と、お呼びしているオッサンは、テクノ師団の隊長殿であり、レックと同じく日本人を前世に持つ転生者だ。
冒険者としても、転生者としても、レックの先輩に当たる。
そのため、同族意識や、おっさん教師に抱く気安さのようなものを抱いていたレックであった。
無条件の尊敬――といえば、やや言いすぎだろうか。
そのオッサンが、固まっていた。
「いや、何でもないんだよ、アリスちゃんは、永遠の中学生だ」
言い直した。
前世で、女子生徒に集団で囲まれて、言い方――と、糾弾されたオッサン教師のように、哀れに見えた。
オッサンの立場は、弱いのだ。
相手がマッチョであっても、女子として扱わねばならないらしい。女子中学生であったのが何十年前か知らないが………
レックは、隣のエルフちゃんたちを見詰めた。
「ん?ボクに何か御用?」
「ん~、どうしたのかな、ボウヤ?」
見た目12歳のエルフちゃんたちは、そろってレックに顔を近づけた。
男子に遠慮をしないお年頃。そのような可愛らしいものではなく、正体不明のプレッシャーを感じていた。
レックは、ベッドに倒れこんだ。
「ボク、子供だからわかんない――」
いま思いつく、最強の言葉であった。




