空と地上で、大決戦
レックは、上空を見つめた。
「ファイアー・バードかぁ~………」
鳥だった。
そして、燃えていた。
足元を見た。
「サラマンダー………いや、ロック・サラマンダーってところかな」
岩石フェイスが、水風船をガジガジする犬に見えてきた。
数十メートルサイズのサラマンダーは、トカゲだと思えば、さほど恐れることもなさそうだ。
今のところ、レックのスフィア・バリアのバリエーション、水風船を噛み砕くだけだ。そして、レックの魔力と精神力がある限り、簡単に再生するのだ。
これは、持久戦だ。
気になるのは、上空だ。
「ヘリの部隊と、空を飛ぶモンスター………怪獣映画かよ」
バルカンが、乱射されていた。
すでに、レックの目の前にいたヘリも小さな陰となった。上空も、数百メートルまで上昇、さらに上昇して戦闘中だ。
見たところ、ここからファイアー・バードを遠ざける作戦のようだ。フレンドリー・ファイアーは、レックにも大変だ。
レックがヘリを誤射しても、大変だ。
しかし――
「おれ、一人………?」
岩石フェイスが、笑った気がした。
先ほどまで、ヘリ部隊で足止めをしていた巨大モンスターである。たしかに、これ一匹だけで、モンスターの大群に匹敵する被害が出るだろう。
しかも、中級魔法でさえ、足止めにしかならないレベルだ。
レックも、笑った。
「やってやんよぉ~――げっ!」
火を吐いた。
いや、そうではない、ヘリでの会話を思い出す。毒ガスかもしれないと、とりあえずヘリに被害はなかったが………
レックは、ここから動けないのだ。
水風船に囲まれているため、何とか無事であるが、生きた心地はしなかった。目の前が砂粒の嵐で、真っ黒だ。
そして、レックは無傷だ。
6つの水風船の、内側であるために、無事なのだ。
「解除、したらやばいな………地上に戻りたかったけど――」
レーザーを放っても、水風船が縮むというオチは、回避された。
強固なバリアではないが、弾力性が面白く、水風船のようだ。しかも、数十メートルという、巨大サイズだ。
巨大ロック・サラマンダーでさえ、噛み千切るのが大変というサイズだ。
疑問が、突如として胸の中で渦巻き始める。
「ふんがー………って、なんだったんだ?」
通信終了で、ふんがー………だった。
レックに、古いネタが通じると思ったらしい。とっても気になって、もはやファイアー・バードとの戦いの行方より、そちらが気になった。
もっと気にすべきは、目の前の岩石フェイスのトカゲなのだが………
魔力を、あげてみた。
「あ、いける?」
もしかして――と、動かしてみた。
「おぉ~………」
動いた。
自分でも、動くと思っていなかったが、水風船モードで、動いた。
巨大ロボットを操縦していると言うか、水風船の上を歩いて移動していると言うか、むしろ、サーカスの光景だ。
あるいは、お子様ランドだ。
「悪いな、おまえに暴れられちゃ、まずいんだ――」
レック、勝利宣言である。
まだ早い、それはフラグだ――と、前世の浪人生がレックを止めようと、腕を伸ばしていた。
一体何のつもりなのだろうか、しかし、フラグは全て回収されるわけではない。レックは、さらに魔力を高めた。
トルネードを放つ気配が、感じられる。
6つの巨大なる水風船に囲まれたレックである。上下左右、すべてを水風船に囲まれているこの状態は、無敵なのだ。
そう、いつでもトルネードを放てるフォーメーションなのだ。
破られない、バリアつきだ。
「いくぜっ」
岩石フェイスは、変わらずに水風船に夢中である。逃げることはない、魔力の強いものに引き寄せられる習性があるのだ。
食べようとしているのか、敵対する存在と認識、攻撃しようとしているのか………
レックは、叫んだ。
「トルネードっ!」
巨大な竜巻のような水鉄砲が、炸裂した。
水風船が、数十メートルサイズなのだ。いつもの数十センチとは、桁違いのサイズである。もしかして、トルネードもけたが一つ、二つは上の威力になるのではないか。
大災害だ。
しかし、見てみたい。そんな気分だったが………
「あぁ、いつもどおりか………」
ちょっと、残念だった。
しかし、それでも上級魔法と分類される威力である。正面から直撃の岩石フェイスには、致命的だろう。
水蒸気が立ち上っているため、目視は出来ない。そして、レックの探知魔法では、探知範囲外である。色々と出来るようになったのだから、探知範囲もパワーアップしてほしかったが、初期モードの、目視範囲だ。
煙が消えるのを、待つしかない。
そのため、口にしてしまった。
「………やったか?」
フラグだ。
前世の浪人生は、やめろ、やってないフラグだ――と、叫んでいたが、口にしてしまったのだ。
レックは、笑う。
「フラグが必ず回収されるなんて、ラノベじゃあるまいし――」
煙が、動いた。
フラグは、しっかりと回収されるのだ。岩石フェイスが、突撃してきた。
「ちっきしょぉおおお、フラグったぁああああっ」
叫んだ。
同時に、トルネードを、改めて放つ。
複数の水鉄砲の合わせ業であり、回転の威力も追加して、威力はレーザーのけたを一つ上げた、凶悪なものだ。
貫通力に回転力が加わり、破壊力はさらに上がっている。しかし、岩石フェイスには、一撃だけでは即死というものではなかったらしい。
お怒りには、なったようだが――
「げっ、外した?」
至近距離である。
なのに、トカゲではなく、背景の森を砕いてしまった。木々が空中へと飛び上がり、破片となって、雨あられと舞い落ちる。
一応は、地面へと向けた攻撃であると、すこし安心だ。
「上のほう、大丈夫だよな」
余波も、レックを中心とした、数十メートルの範囲のはずだ。
パニックになり、上空へ向けて放っていれば大変だったと、すこし反省をするレック。いくら戦いの場を遠ざけてくれたといっても、上空にいる仲間の存在を忘れていたのだ。
まぁ、すでに数百メートルから、いいや、ヘリの移動速度である。はるかに遠くの空中戦に、忙しいはずだ。
気になって、上空のファイアー・バード戦いを見つめて――
「へ?」
オラオラオラ――という叫び声が、聞こえてきそうだ。
めまぐるしく、ファイアー・バードと言うモンスターのシルエットが、チカチカと輝いていた。
ヘリのシルエットは、フラッシュの輝きで、一瞬だけ見える程度だ。それだけ、ファイアー・バードと言うモンスターが巨大なのだろう。
しかし、そんなモンスターをオラオラオラ――しているのは、誰だろう。
『大火炎パンチ』という単語が、オラオラオラ――と、結びつく。
「あぁ、中佐殿っすか――」
あちらは、大丈夫なようだ。




