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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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ヘリでは、ムリだった


 攻撃魔法のランクは、大きく分けて下級、中級、上級の3つである。


 ショット系が、分かりやすい。

 弓矢の速度で、数キロの重さの石を投げつける威力である。ただの獣や、人間サイズのモンスターなら、十分に対応できる。

 中級魔法のカノン系は、投げる石のサイズが、数十キロという、威力は砲撃だ。乱射されれば、頑丈な城壁でも崩壊するだろう。


 テクノ師団のヘリの攻撃力は、中級魔法に匹敵するという。


 だが――


「ドラゴン?」


 レックは、つぶやいた。

 ヘリが近づいたことで分かる、先行していたヘリ部隊は、足止めしか出来ていない状況だ。

 木々の隙間から、巨大な尻尾が現れた。


 ややSFだと思っていたが、やはり、ファンタジーなのだ。テンプレと叫ぶべきかもしれない、最後の最後で、有名どころである、ドラゴンの登場なのだ。

 シルエットだけで分かる、巨大な尻尾が暴れているのだ。


 レックは、恐る恐ると、振り向く。


「あの………尻尾が――」


 レック、涙目である。

 お尻尾だけで、木々をへし折っていた。

 その程度は、レックの攻撃魔法でも、簡単だ。しかも、100メートルを超えるエルフの国の木々も伐採していたのだ、今更――というサイズに過ぎない。


 何かが、光った。


「………レーザー?」

「っていうより、火炎か?」

「いや、オレのパンチと違う感じだ。なら、毒ガスってことも………」


 馬の人と、『大火炎パンチ』の隊長さんが、冷静だ。

 推定されるドラゴンのサイズは、尻尾だけで20メートルを超えている、胴体より長いとしても、数十メートルサイズの巨大モンスターと言うことだ。


 今こそ、プラチナブロンドのエルフちゃんの出番だ。スーパー・ロボットで、ラウネーラ登場――を、して欲しかった。

 白銀に輝く金髪と言う、きらきらと輝く主人公は、あのエルフなのだ。


 なぜ、いないのかと恨めしかった。


「スーパー・ロボットって、テクノ師団のお手製でしょ?なんか、ヘリの5体合体って切り札とか、ないんッスか?」


 期待した。

 出し惜しみをしないで欲しい、まさか、ドラゴンを相手にされるとは思っていなかった。消化試合で、取りこぼしを防ぐため、熱湯の海を作ってもよかった。

 今なら、そう思う。


 しかし――


「あのなぁ、エルフの中でも、エリザベートのババ――お姉様に匹敵するやつが、どれだけいると思うんだ。ラウネーラの魔力は、それ以上だぞ?」

「そうだぞ、ボウズ。こいつの『大火炎パンチ』は、いったい誰のおかげで完成したと思うよ?こいつが、地獄の業火さえそよ風と言わしめた――」


 おっさん達は、遠い目をしていた。

 レックも、遠い目をしていた。


「おっさんズ、そろってトラウマってやがる………」


 何があったのだろう。レックは、着せ替え人形になった記憶しかなく、また、エリザベート様――お姉さまは、エルフ4姉妹として楽しまれた、上品な長女なのだ。

 母親ではなく、姉と言い張って、誰が逆らえようか。


 地獄の業火さえ、生ぬるい――


 見渡す限り、森、森、森――というエルフの国に、絶対に存在してはいけないエルフであろう。

 しかし、大火災で滅亡した形跡がないので、しっかりと能力をコントロールしているようだ。

 つまり、魔力と技術は、人間の及ぶところではないはずだ。


 スーパー・ロボットの制御は、つまりはそういうことらしい。技術があっても、燃料と言う魔力は、パイロットの自家製なのだ。


 ………でっかい、きぐるみのイメージで、SF気分が薄れ始めたレックであった。

 子供が、大きなぬいぐるみを後ろから操って、ロボットごっこなのだ。目の前のドラゴンも、ご近所のトカゲと言う感覚に違いない。


 レックは、岩石のような面構えを見て、微笑んだ。


「おまえ、なんでエルフの国に生まれなかった?きっと、たっくさん遊んでもらえたのによぅ?」


 現実逃避だった。

 レックがこの場に呼ばれた理由が、分かった。自慢して回ったわけではないが、上級魔法を使える、数少ない冒険者の仲間入りをしているのだ。


 しかも、水系統だ。

 森林大火災を恐れずに巨大モンスターに対抗できるのは、レックの最強の攻撃魔法『トルネード』だけなのだ。

 バルカンを乱射しているヘリ部隊は、前座に過ぎない。真打登場――と、主人公気分で、レックの出番なのだ。


 前世は、吠えた。


 主人公、キタぁあああああ――


「ってことだ、よろしくな、ボウズ」

「さすが、日本人の転生者は勇者(笑)ばかりだな。コイツの『大火炎パンチ』を超えるのか、録画しといてやらなきゃな」


 最後に、余計なセリフがあった気がするが、気にするレックではない。

 これから、まだお顔の見えないドラゴン様の前に、引き据えられるのだ。にえにされる乙女の気分だが、レックは女装していない。


 ここが、エルフの国でないことが、幸いだ。


 あのエルフたちならば、間違いなくレックは生け贄の乙女スタイルに、お化粧もしっかりと、録画のための装置もたくさん用意されるに違いない。


 ガンマンコートを翻して、レックは叫んだ。


「男レック、出るぜっ!」


 ヤケだった。



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