ヘリだけで、十分じゃね?
レックは、大興奮だ。
「すげぇ~、すげぇ、すげぇ、やっぱこれだ、これなんだよっ」
バルカンが、火を噴いていた。
ヘリに載せられ、次の戦場へ向かうレックは、SF映画のワンシーンに涙していた。
また、レーザー砲台として使われるのか。レックはそう思っていたが、目の前では他のヘリが、すでに戦っていたのだ。
なぜか分かった、バルカン砲で戦っていると。3本の砲身がバラバラと忙しく回転し、強力な弾丸をばら撒いていると。
もちろん、見た目だけで、中身はマジカル・ウェポンであろう。魔法のビームが乱射されている。威力はカノン系に匹敵し、オーク程度の中型モンスターであれば、一撃でミンチになるかもしれない。
数機のヘリが編隊を組んで、魔法のビームをばら撒いていた。
10メートルサイズの巨大モンスターか、あるいはそれが大量発生しているに違いない。いくらでも手が欲しいはずだ。
レックが、朝から連れて行かれた現場だ。
弾丸の節約のため、レックが砲台として連行された理由である。無限に弾丸があるわけでなく、大発生を前に、魔力ポーションさえあれば回復するレックは、とても便利であるのだ。
人員の不足、技術と色々の制限から、レックは地上攻撃に移っていたが………
「ノルマ、終わったのに――」
目の前の攻撃は、ややSFのバトルシーンである。ファンタジーを愛する浪人生だった前世でも、SF作品も愛していたのだ。
どちらも楽しめるこの世界は、実はおいしいのではないかと、喜んでいたのだ。
そう思うことで、現実逃避をしていた。
レックが心の中で、中佐殿――と、お呼びしている銀色ヘアーの隊長のおっさんが、レックの肩を叩いていた。
「ははは、レック君、相手様の都合に応えるのが、雇われる者の定めなのだよ」
どこか、社会人を気取っていた。
日本人を前世に持つ者同士と言うことで、レックに分かる皮肉で、慰めているつもりかもしれない。
そして、こちら側の都合など、モンスターの大発生と言う災害は、気を使ってくれるはずもないのだ。
もう疲れたから、次の発生は来月にしてくれ――
そのような設定は、存在しないのだ。ゲームイベントでさえ、プレイヤーの都合をすべて見ているわけではない。
まして、この世界に運営は存在しないのだ。
「ほれ、差し入れだ」
レックの目の前に、栄養ドリンクがちらついた。
サービスのいいことだ、一度に2本のサービスだ。名前は下級ポーションと言う、お値段も効果も、栄養ドリンクと近しい、労働者の最後の希望である。
レックは、無言で受け取ると、同時にふたを開けた。
ヤケである、同時にがぶ飲みした。
「はっ、はっは~、いい飲みっぷりだ。この後は、酒で乾杯ってか?」
馬の人は、いつの間にかプロテクトスーツに戻っていた。
背も、かなり縮んだが、それでも銀色ヘアーの隊長さんよりも、頭半分以上背が高い。ケンタウロスと言う種族は、人間モードでも巨体だった。
隊長さんは、笑った。
「おいおいゴルック、日本人は二十歳まで酒を飲んではいけないのだよ。勝利の酒の代わりに、ポーションの追加ってことだ」
「なんだ、ベル坊、まぁ~だ前世に縛られてるのか?」
おっさん達は、笑い合っていた。
と言うか、レックが心で中佐殿――と、心でお呼びするおっさんは、ベルと言う名前らしい。
略称と言うものだろう。間違えても、新参者の上、年下のレックが口にしていい呼び名ではないはずだ。
しかし、言いたかった。
ネット小説その他において、異世界に転生、あるいは転移した主人公は、その世界のルールにしたがって生きるべきではないのか――と
言ってみた。
「そこは、郷に従えってヤツでは………」
飲んでみたい。
その気持ちは、あまり強いというわけではない。エルフの国では、酒乱のエルフの姉さんに絡まれて、大変だったのだ。
着せ替え人形は、勘弁して欲しいのだ。
しかし、一人だけ飲めないのは、ちょっと悔しい気持ちもある。そのために、反論を少しばかり、口にしたわけだ。
隊長殿は、いい笑顔だった。
レックは、とてもいやな予感に震えて、即座に前言を撤回するフラグだと、すでに自分の中で突っ込みを入れていた。
にこやかに、オッサンは窓を指差す。
「そろそろだ、火の海は勘弁と言うことで、オレの能力は禁止だ」
「はっ、ベル坊は、いい年をして、まだ『大火炎パンチ』しか出来ないのか?」
お話は、戦いの後のようだ。
そして、昔馴染みの馬の人は、楽しそうに突っかかっていた。
間違えてもベル坊とお呼びすることが出来ないが、『大火炎パンチ』とは、とっても分かりやすい名前を考えたものだ。古きよき、昭和のヒーローが、呼んでいる。
レーザーとしか命名できていない自分を見つめて、即座にブーメランを食らったレックである。
ツッコミを口にする暇もないほど、即座のブーメランである。
代わりに、口にした。
「あのぉ~………ヘリの攻撃だけで、十分なのでは――」
大発生の場所は、一つや二つではない。
そのため、数が足りないために、高ランクの冒険者パーティーへ依頼をする。レックのように、強力な攻撃魔法を持つ冒険者は、ヘリで連行される。
それは分かるが、ここにヘリが集まっているということは、最終段階、消化試合のようなものだと思ったのだ。
ヘリから、一方的に攻撃をするだけで十分に思えたのだ。
『大火炎パンチ』の隊長さんは、笑った。
「はっ、はっはぁ~………甘いなぁ、あれは、足止めだ」
フラグだった。
新たな、そして、最悪のフラグだった。
「テクノ師団は、確かに強力な攻撃力を持っている。武器に金を惜しまないおかげで、シルバーランクの攻撃力を、全員が手に出来ているさ」
前置きが、フラグを確定させる。
レックは、逃げましょうよ――と、お伺いを口にするタイミングを、必死に探っている。
その隙は、なかった。
「せいぜい、中級魔法なんだよ。ヤバイ相手には、通じないんだよ」
一箇所に集中すれば、上級魔法に匹敵する攻撃力を持つ。上級魔法の中には、中級魔法の乱れうちも含まれる。
攻撃範囲と、戦いの後の惨劇が、でかい爆発と変わらないのだ。
だが、でかい威力を集中させねばならない、そんなレベルのモンスターを、レックは覚えている。
具体的には、エルフの国の、森林伐採である。
オマケで、10メートルサイズの皆様も、スラッシュしたレックである。オークのボスの3兄弟や、さらにたくましき、オーガの群れとの戦いの記憶である。
レーザーでも、そこそこ戦えた。
そう、そこそこ――だった
「………えっと、10メートルってサイズでも、集中したら――」
レックの脳裏には、レーザーに耐えたオークのボス3兄弟との戦いが、フラッシュバックしていた。
レーザーは、中級魔法に匹敵する威力があり、大抵のモンスターなら、かすっただけで討伐できる。
そのため、ホースで水をまくように、適当に左右にレーザーを乱射するだけで、勝利できたのだ。
オークのボス3兄弟は、かすった程度では、かすり傷だった。そのために集中攻撃の必要があり、オーガの皆様は、さらに強固だった。
中級魔法の乱射程度で、倒せるだろうか。
「ボウズ、聞いたぜ、10メートルサイズのオーガの群れを単独撃破………いやぁ、さっすがは勇者(笑)さまだよなぁ~………オレのときは、エルフの水魔法がセットでないと、大変だったけどよ」
「そうだったな、なにせ『大火炎パンチ』だものな」
おっさん達は、思い出話に花が咲く。
その間に、ヘリは現場へと、近づいていく。
おかげで、見えてきた。ヘリの小さな窓から、ヘリの皆様が攻撃を集中している存在が、見えてきた。
てっきり、モンスターの群れを追い詰めて、トドメを刺しているシーンだと思っていた。
――違っていた。
「………ドラゴン?」
尻尾が、見えていた。




