次の目的は、マジック・アイテム
モンスターの、大発生。
大量のモンスターの発生および、襲撃のことである。
普段はモンスターを近づけない結界が、逆に数千、数万と言うモンスターの大群を引き付ける目印になってしまう。
放置すれば町が、国が滅びる災害だ。
レックは、叫んだ。
「フラグしやがったぁ~っ」
前世の浪人生が、腕を組んで微笑んでいた。
それが、転生主人公の定めなのだと、勇者の定めなのだと。
前世に引きずられてはならない。テクノ師団の隊長というオッサンの言葉が、何度となく思い出される。
勇者として、役割を受けて生まれたわけではない。自分の人生を、自分で選ぶことが出来るのだと。
ちゃっかり、能力だけは利用される悲しさである。勇者として特権があるわけではない、長いものには、まかれると言う意味だったのだ。
偉い人には、逆らえぬのだ。
馬の人は、腕を組んで、懐かしそうだ。
「フラグ………そういえば、若いときのベルの野郎も、よく叫んでいたな」
ベル………とは、誰だろう。
レックの疑問に、馬の人は遠くを指差した。ほら、あいつのことだ――と、指差しポーズである。
ロボットの人も、同じポーズで、指差していた。
探知魔法を使っているのか、レックよりもはるかに、遠くの風景を把握できるに違いない。
振り向いた。
「あぁ~、お迎えっすね」
ヘリだった。
ローターがなく、しかし、バラバラバラ――と、派手なローターの爆音が響いている。これは、パトカーのサイレンのようなものなのだろう。この世界にエンジンがあるのか不思議だが、バイクの仕組みも、ファンタジーだ。
むしろ、SFだ。
転倒防止バリア搭載で、ヘルメットが必要ないバイクである。おかげで、前世ではバイクに乗ったことのないレックも、あまり恐れる必要はなかった。
クリスタルが側面で輝き、ファンタジー技術なのだ。
轟音が、近づいてきた。
「おぉ~………さすがッスね、ヘリの音より先に、ヘリを見つけるなんて」
ちょっと、うらやましかった。
エルフのように、キロ単位の遠くの情報を手に入れることが出来るのだろうか。なら、レックはレーザーを、今よりうまく使えるはずだ。
レーザーを本気で乱射すれば、どれほどの被害になるのか、レックに知る術が無いのだ。命じられた戦場で、命じられるままに大暴れをしたのが、エルフの国の日々だった。
こちらでは、威力を落として大暴れだった。
「ところでよ、レック」
ゴルックと言う馬の人が、レックを見つめる。
戦いに巻き込んだという、謝罪の言葉か。いいや、油断をするなと言う、先輩からの助言かもしれない。
お手柔らかに願いたい。
レックがそのように思っていると、困ったような顔であった。とてもいやな予感が、もうフラグはいやだ、もうフラグはいやだ――と、レックを一歩、後ろに下がらせる。
ちょっと、違った。
「おまえ、なんでマジック・アイテムを使わないんだ?」
素朴な、疑問だった
戦いのスタイルはそれぞれで、戦いの最中に崩すことは、危険だ。レックが、縛りプレイで困ったように、困るのだ。
とつぜん、魔法の杖や剣を与えられても、使えるわけもない。
レックは、回答に迷った。
「え、だって、オレにはマジカル・ウェポンが――」
口にして、気付く。
レーザーは、強力な魔法である。
レックのオリジナルであり、ちょっと自慢であった。そして、さらに威力が向上している。スフィア・バリアと言う派生も、トルネードと言う、合わせ技も手にしている。
基本は水鉄砲である。
威力を落とした『放水車』も、新たに手に入れた。バリエーションも、そろってきたと思ったレックだった。
基本を、忘れていたようだ。
「あぁ~、そうだ、魔力が強いなら、マジック・アイテムじゃないかぁあああっ」
叫んだ。
夕日に向かって、叫んだ。
ヘリのシルエットが、ちょっとカッコイイ。映画であれば、エンディングのシーンであるが、これから、もう一仕事が待っている。
労働基準法、どこ?――
前世の浪人生が、気の毒そうにレックを見つめて、腹立たしい。殴ることなど出来ない、レックの頭の中の出来事である。
前世と言う、今の自分と異なる人格を飼っているゆえの、呪いである。
朝にヘリのお迎えで、バイクで何ヶ所も水浸しにするために走り続け、お疲れなのだ。
まだ、休ませてくれないようだ。
馬のお人は、レックの先ほどの答えに、ちょっと驚いていた。
「なんだ、マジック・アイテムのことを忘れていたのか………エルフじゃないんだ、アイテムで制御したほうが、魔法の制御が楽だろうに………」
ちょっと、あきれていた。
そして、原因も判明する。
ずっと、エルフの国で過ごしていたのだ。とても濃い日常で、魔法の基本を教わっていた日々を、遠く感じた。
スーパー・ロボットのエルフちゃんに、巨大化するドワーフに、もちろん日本人の転生者が、いらぬ知恵を授けて進化している。
レックもまた、オリジナルの水鉄砲魔法で、とても強くなった気がしていたが、強い魔力を制御するためのアイテムは、古くから存在するのだ。
ハンドガンなどのマジカル・ウェポンシリーズは、あくまで魔力の少ない底辺冒険者の底上げが目的であり、趣味を除いて、専用の装備があって、普通なのだ。
「そうだった、カルミー姉さんの魔法の杖に、ゴードンの旦那の剣に、アーマーに………みんな、専用装備だったよ。ゼファーリアの姉さんのナックルとかさぁ~」
マジカル・ウェポンを手にしていたのは、ガンマンの兄貴だけだ。
レックがお世話になったシルバー・ランク冒険者パーティー『爆炎の剣』の皆様は、一人を除いて、専用装備の持ち主だ。
それは、マジック・アイテムと呼ばれている。
レックも、自分専用のマジック・アイテムによって、制御が困難な色々を制御することが出来たのではないか。
熱湯の海に沈む必要なく、新たな魔法を手に出来たのではないか。
それこそ、コハル姉さんがずっと疑問に思っていた、イノシシのロースと事件の謎が、解決されたかもしれない。
レックの魔法は水鉄砲である。
しかし、イノシシはローストされていた、転生した、最初の攻撃によるものだ。
炎のはずだ。
しかし、レックは常に水鉄砲であった。本当の力はまだ、目覚めていないのではないか、その疑問をずっと抱いていたのだ。
使える魔法が優先で、かなり放置していたのだが………
「そうか、最後のピースはマジック・アイテムだったんだ。エルフの国では、何で――」
「いや、エルフだからな。あいつら自体がマジック・アイテムだぜ?」
忘れていた。
森とセットで力を発揮するエルフは、魔法のアイテムを必要としない種族である。故に、特産品として人間達に売りさばき、金貨の山を手にしている。
そのため、盲点だったのだ。
アイテムを使うという発想自体、エルフには存在しないのだ。変わり者が、珍しいからと手にしているだけで、必要ないためだ。
よって、レックに最初に与えられるべき、練習用の杖さえ、渡されなかったのだ。杖を持つ必要なく、強力な攻撃魔法を扱えたのだから。
レックは、うなだれる。
「お約束だろ、魔法学園に入学して、杖とか、魔法のアイテムを支給されるってさぁ」
指輪かもしれないし、ややSFな、ビーム・ガンのようなアイテムかもしれない。
見た目はマジカル・ウェポンシリーズに類似で、使い慣れた魔法使い向けに、多種多様かもしれない。
今までは、魔力と懐具合によって、マジック・アイテムに見向きもしなかったレックだが、調べるべきだったのだ。
魔力と懐具合は、転生してから、レベルアップしたのだから。
「まぁ、帰ってから考えるんだな………相棒っ」
馬の人が命じると、ロボットの人は、そのまま魔法の宝石に収納された。わざわざ、バイクの姿にしていた意味など、あったのだろうか
レックはツッコミを封じると、自分の相棒に命じた。
「エーセフも、戻ってくれ」
自動収納機能はない、レックは、相棒のバイクの頭にある宝石に触れた。
一種の封印魔法で、レックのアイテム・ボックスもまた、この能力の一種らしい。真空ラップとも例えられる、マヨネーズ伯爵の都において、様々な食材が手に入った理由である。
一体どのような戦場が待っているのか、全ての選択肢は、すでにレックの中には存在しない。
ヘリの轟音が近づいてきた。




