戦いは、終わった?
ブロロロロ――
バイクの音が、心地よい。振動も全身を震わせて、先ほどのモンスター・スープの海が余韻を持って、吐き気を催す。
スープの香りがあれば、致命的だっただろう、レックは息を吐く。
「空気が、うまい………」
戦いは、終わった。
草原がモンスターの残骸の海となった。それは、例えと言うには、見た目どおりに残骸の海だった。
3回もスープの海をおかわりしたのだ、もう、十分だ。
しかも、あつあつだ
そろそろ冷えてきた頃かもしれない。しかし、確かめるまで、現場にたたずむつもりもなかった。回収したモンスターの素材も、真空ラップと言うアイテム・ボックス空間では、ゆっくりと冷えていることだろう。
買い取り現場が地獄になることは、決定だ。
ケンタウロスが、パカラッ、パカラッ――と、走っていた。
「よぉ~し、あの辺りだっ――」
さすがはケンタウロスだ。ゆっくりのスピードであっても、バイクの横を走りながらも、一切疲れる様子がない。
隣には、バイクの面影を残すロボットが、ドスッ、ドスッ――と、走っていた。バイクの意味があったのか、本当に、レックも疑問であった。
口には出来ないが………
ゴルックさんという馬の人は、豪快なオッサンだ。
細かなことを気にしない、礼儀を知らない村人出身のレックのような若者には、付き合いやすいオッサンだ。
バイク様にさえ、気をつければいいのだ。
とても大切にしていらっしゃる。もしも傷つけようものなら、馬のキックの嵐が、それは恐ろしいのだ。
フレンドリー・ファイアーはそもそも注意すべき事態であったが、バイク様へ向けての誤射は、さらに気をつけるべき戦いの連続であった。
幸い、その戦いは、終わった。
ブロロッロロン――
ゆっくりとバイクを転がし、隣の馬も、走る速度を緩めた。
「ここッスか?」
ブルブルとバイクは振動を放ちつつ、停車した。
隣の馬の人は、汗一つかいていないように見える。生体として、馬は汗をかかないのだったか、どうでもいいことを思い出したレックだった。
ロボットの人は、いったい何の意味があるのだろうか、腰に手を置いて、どこかを見つめていた。
戦いは、終わった――
そんな感慨にふけっているのか。しかし、素直に感慨に浸れないレックは、微妙であった。
「相棒が通信を送っている………どうだ、いいだろう。一心同体って言うのか、もう一人の自分って言うのか、日本人の言葉で、アバターっていうだったか………まぁ、つまりはそういうことだ」
どういうことだ。
そんな質問を、レックは口にする事はない。そして、すっかりと忘れていた、目の前の馬の人は、異世界の前世を持つのだ。
名前を、『ギョール』と言うらしい
自らの分身のように、人工知能搭載のロボットを操る日々は、魔法の力も手伝って、前世では再現不可能なはずだ。
ゲームの中でさえ、コントローラーが必須だ。レックも日本人を前世に、アバターと言う言葉の意味は分かる。
『ギョール』という名前の異世界出身の、ゴルックと言う馬の人は、相棒のロボットを、とても大切にしている。
レックは、愛想笑いだ。
「へへへ、すごいでやんすねぇ~」
小物パワーは、ありがたいことだ。レックが村人として生まれて、アイテム・ボックスの能力を開花させて飛び出して、その間に身につけた能力だ。
『ギョール』関係ねぇ~――
ロボット、意味あるのかっ――
レックの本音を、うまく隠してくれているのだ。おかげで、ゴルックという馬の人は、始終ご機嫌であった。
戦いは、終わったのだ。
「いやぁ~、これでオレっちも旅に出られると――」
口が、滑った。
テクノ師団のご命令の場所は、全て片付けたはずだ。しかし、まだ戦っている人々がいるかもしれない。大発生という災害を前に、余裕をかましている冒険者が、どれほどいるだろうか。
余裕なら、手伝え――
ヘリの皆様は、とってもいい笑顔で、レックの肩を叩くだろう。
よろしく――と
「ははは、自由なる一人旅か――おっと、相棒と旅立つ――って言うほうが正しいよなぁ~、いいぞ、若者は、そうでなくてはなぁ~」
ガハハ――と、馬の人はご機嫌だ。
戦いが終わって、ハイになっているわけではない。ゴルックと言う馬の人は、こういうオッサンなのだ。
いつ、馬を解除するのか、上半身裸で、下半身が馬の状態のおっさんは、笑っていた。このまま、森へとお帰りになるのだろうか。
いや、ケンタウロスは草原の民のはずである。地獄の池の番人と言う設定もあった気がするが、今、思い出すことではない。
戦いは、終わったのだ。それで、いいではないかと――
ロボットの人が、身をかがめてきた。
「ん?どうした、相棒――」
頭をつき合わせて、ナイショ話をする。
そのまま、頭突きをして、マッスルファイトが行われるように感じたのは、レックの気のせいである。
5メートルほどのロボットの人の頭の部位は、バイクのヘッドライトが、ちょっとカッコイイのだ。
通信装置もセットのようだ。
「おう、オレだ――あぁ、そうだ。近場の3ヶ所は――なに?」
レックは、フラグだと思った。
先ほど、一人旅に出る――と口を滑らせた、フラグってしまった自分に教えたかった。おい、それはフラグだ―-と
ゴルックという馬の人は、にっこりと振り向いた。
「――ったく、悪いな、ボウズ………ヘリが到着すれば、一ヶ所追加だ」
フラグは、回収された。




