解決策は、レベル・ダウン
指が、震える。
レックは、スナイパー・ライフルで、モンスターを狙い撃っていた。こちらへ引き付けることが目的だ。例え、木々を傷つけてしまっても、モンスターに当たったのは4発のうち、1発だけであっても、こちらに気付いてもらえたのだ。
成功なのだ。
スコープを覗きながら、レックはつぶやいた。
「レーザー、撃ちたい、レーザー………」
思い通りに倒せないため、イライラと震えていた。
レーザーなら、簡単になぎ払えるのだ。そして、木々もその他も巻き添えで、大変な被害になるだろう。
禁断症状のように、震えていた。
縛りプレイのほかにも、要因があるのだ。
「いやぁ~、相変わらずのノーコンぶりですねぇ~、解説の山田さん」
スナイパーの人が、相変わらずうるさかった。
このまま、放り投げたい誘惑に駆られる。そう思ったのは、初めてではないのだ。レックは、この人格をプログラムしたのは、絶対に日本人だと思った。
そして、誓った。
ぶっ飛ばす――と
「モンスターがこっちに気付いた………それでいいんだよ」
強がりを、言い放った。
久々の出番であるが、ライフルは、ここまでだ。足元には、ライフルの弾が置かれているが、手にする気分ではなかった。
ケンタウロスのゴルックさんが、レックの肩を叩いた。
「よぉ~し――俺たち先に突撃する、レックは反対側をたのむぞ」
「へ~い」
下っ端パワーで、お返事をした。
この返事が届く前に、ひづめの音が響く。パカラッ、パカラッ――と、ドス、ドス、ドス――と、走っていく。
モンスターとの遭遇まで、もうしばらくかかるだろう。レックは、去り行く土煙を、ぼんやりと見つめていた。
レックはサブマシンガンへと持ち替えて、待ち構える。
「はぁ~、レーザーが使えたら、サクサクいけるのに………」
レックのレーザーは、レーザーと名乗るほどに、貫通力に優れている。
そして、威力も高い。中級魔法の、カノン系に匹敵するほどで、並みを超えるサイズのオークでも、一撃で倒せた。
まして、現在接近中のザコの大群など、サクサクと倒せる自信があった。
それが、縛りプレイの理由だ。
近くには、村がある。
すでに住人は避難した後であるが、帰ってくる場所を壊しては大変だ。木々もまた、植林されている樹液が必要な、大切な資源である。
少々ライフルで傷つけてしまったが、誤差だろう。すでにモンスターが踏み荒らしているし、なにより、モンスターを討伐しなければ、村人達は戻ってくることが出来ない。
ふと、レックは思いつく。
「レーザーじゃなくて、水鉄砲じゃね?」
最初は、じわじわと手のひらに水がにじんだ。
転生した、魔力が上がった、なら、いままで使えなかった魔法が使えるようになるのではないのかと、試したのだ。
レックは、思い出したわけだ。
どこかへと向けて、両手を合わせた。
「ゴードンの旦那、あの時は、マジ、すんませんっ――した」
改めて、マジ、スミマセンでした――と、心から謝罪をした。思いつくままに、空へ向けて魔法を放ったために、悲劇が起きた。
思ったよりお湯が熱く、勢いが余って、周囲に熱湯の雨が降り注いだのだ。
熱湯の雨を浴びたゴードンの旦那は、カルミー姉さんのイタズラだと思って怒鳴り込んで………
そして、犬神家となったわけだ。
いくつになっても、女性は女性である、言葉には気をつけようと、本当に気をつけようと、レックは心に誓ったものだ。
下っ端パワーに、小物パワーに、レックは慢心を戒める力を常に抱いているのだ。腰を低くして、もみ手をするザコこそ、レックなのだ。
調子に乗りやすい性格ゆえに、芽生えた力だった。
「さぁ、やってみよぉ~」
やってみた。
もちろん、馬の人と相棒のロボット様がいる方向とは、反対方向だ。
水球の1つに意識を向ける。
最初に放った、魔法らしい魔法である。今のレーザーのように圧縮する以前の、ただ、熱水を空へと向けて放った魔法である。
以前より魔力の出力が上がっている、万が一を考えて、空へと向けて放った。
ぼんやりと、その結果を眺めた。
「おぉ~………お怒りだぁ~」
熱湯の雨が、降っていた。
熱湯をかけられたモンスターたちは、悲鳴を上げていた。そして、お怒りの感情のままに、レックへと向けて突撃をしてきた。
この光景はまさに、ゴードンの旦那が犬神家したきっかけ、誤解のきっかけと言う、熱湯の雨だった。
レックは改めて、心で手を合わせる。
馬の人は、笑っていた。
「ナイス、挑発っ!」
ロボットの相棒と共に、サムズアップをしていた。
魔力により、視力も強化されている。森の付近まで走っていた馬の人と、それなりに距離があっても分かったのだ。
いい笑顔と、サムズアップと分かるのだ。
すでに戦闘に入ったが、余裕であった。
レックは、今度はまっすぐと放った。
「スキル・放水車っ」
やってみたら、出来ていた。
弧を描く角度から、空へ向けた感覚から、レックは確信した。まっすぐ前へ向けても、問題ないと。
放水車だと。
距離が近ければ、木々をへし折る威力かもしれない。しかし、レックは草原の中心に陣取っているのだ、どこへ向けても、近づくモンスターだけが被害者だ。
見事に、吹き飛んでいた。
まるで、丸太で殴られたように、ハデに吹き飛んでいた。
「射程はハンドガンの攻撃範囲より狭いけど、広範囲………いけるかな」
草原は水浸しになってしまうが、ぬかるんだ地面は、モンスターにも大変、苦労するだろう。
しかし、ザコの皆様は、なぎ倒されていた。
名前は放水であるが、威力はかなり強い。丸太でなぎ払ったような影響によって、つぶれていた。
脳内では、ぴろりろりん――と、効果音が響いていた。
スキル・放水車を取得しました。
称号・水浸しを取得しました。
「水浸しって、なんだよ………」
レックは、頭の中の自分へと、ツッコミを入れていた。
前世の業は、どこまでも深いのだ。そのうちに、本気で眼帯に包帯に、そして、静まるのだ、オレの右手~ ――と、叫びそうだ。
いや、レックの能力に関わる中二は、まだ先のこと。縛りプレイを開放するための呪文のようなものなのだ。
「………けど、かなり迷惑じゃね」
炎の海よりは、マシだろう。
レックはそう思いながら、改めて魔力を集中する。
レーザーであれば、既に全滅していてもおかしくないモンスターの軍勢は、怒りの叫びと共に、立ち上がった。
倒せた数は、レーザーと比べるまでもなく、少ない。丸太でなぎ払ったような攻撃であっても、放水車なのだ。
大群を倒すには、連射が必要だ。
「射程が短いから………バリアもあるけど、連射できるかな」
周りを見渡して、冷や汗をかく。
自らの放った熱水によって、気温は徐々に上がっている。水蒸気が視界を遮るというオマケも、無視できない。
探知魔法もあるが、その余裕もない。
レックは、さらに魔力を高める。
「へっ、おれっちはザコだけどよ、レーザーを《《6つ》》同時に、いけるだぜ、サクサクやってやんよっ!」
エルフの予言だった。
コハル姉さんは、レックの魔力であれば、可能だと語っていた。それは、エルフの国を出るまでに、実現されていたわけだ。
水鉄砲の派生ばかりであるが、使えるのなら、それでいいのだ。レベルダウンをすることで、魔法攻撃が、可能になったのだ。
バリアを維持したまま、連続攻撃が可能になったのだ。
「たこ殴りだぁ~っ」
6つの放水が、モンスターを襲った。
まるで、タコが暴れている光景であった。




