縛りプレイ、パート2
まるで、台風のようだ。
日本人を前世に持つレックには、とても分かりやすい例えであった。同じ前世が日本人のテクノ師団の隊長さんは、語ってくれた。
本当に、台風のようだと。
大発生が、一度で終わるわけがない。過ぎ去ったと思えば、新たな台風が発生して、接近中なのだ。
ファミリーを引き連れて、続々と登場なのだ。
とはいえ――
「はぁ~………レーザー、禁止かぁ~………」
縛りプレイ、パート2であった。
レックは、バイクを転がしながら、ため息をついていた。
ガンマンコートを目深に、ゴーグルもしっかりとして、表情も言葉も、ほとんど相手に伝わらない。
それは幸いだ、隣を走る馬の人は、ご機嫌なのだ。
「はっはっはっはぁ~………いい天気だなぁ~、えぇ、相棒っ」
ケンタウロスのゴルックさんが、ご機嫌だった。
バイクへの愛が、ちょっとばかり重いというか、傷一つでもつけば、馬キックを炸裂するケンタウロスである。
今は、幸せそうだ。
相棒のバイクのロボットと、二人?仲良く走っているのだ。
ドス、ドス、ドス――と、地面を蹴って走るバイクのロボットと、パカラッ、パカラッ、パカラッ――と、馬モードで走るケンタウロスという図である。
バイクの意味が、あるのだろうか。
「あ、いた――」
レックが、声を上げた。
時速にして20キロという速さか、バイクでの移動にしてはゆっくり過ぎる、自転車のほうが早いという感想だ。
その理由が、目の前だった。
「あれが――」
「そうだ、できれば――ということだが、モンスターから村を守る依頼だと思って欲しいそうだ」
村が、見えてきた。
レックでは、気付くことができなかっただろう。道がないにもかかわらず、突然と、村が現れた。
新規に開拓されたものではなく、どこか、宿場町のような印象がある。
周囲の草原が、目印で、小さな畑もあった。
しかし、作物を育てるための村ではないと分かる。牧場もなく、なにか、特殊な産業のための村のようだ。
ファンタジーっぽい生産物ならいいと思いつつ、今は依頼が優先だ。
草原の真ん中で、レックたちは止まった。
「お出迎え範囲………ここしかないと?」
「あぁ、後ろは村だしな、植林された樹木が傷つくのも、できれば避けたい。いい香料が取れる樹皮か、樹液かは忘れたが………とにかく、そういったものらしい」
「結界があれば――あぁ、だからか」
「そうだ。モンスターは、派手なものに向かってくる。もちろん、魔力の気配ってことで、結界なんて、餌食だぜ?」
矛盾である。
そして、そのために国がモンスターに襲われやすいのだ。人間の住まいは、魔法の結界によって守られている。
人間の力だけでは、維持できるわけがない。この世界の仕組みを利用した、便利システムである。
まさにファンタジーだと、レックはちょっと感動していた。
おかげで、複雑だ。城塞都市がファンタジー風景としてお約束であったが、その必要がないのだ。
「とにかく、この草原だけだ。さっきみたいなレーザーだと、みんなまとめて、大変なことになるからな………って、聞いてるのか?」
レックは、足元に並べた武器を見ていた。
とりあえず、木々も傷つけて欲しくないなら、木々を真っ二つのレーザーなど、撃てるわけがない。
なのに、おびき寄せるために、遠くの敵を打てと言うのだから、無茶なのだ。その無茶のための武器は、もちろん、ある。
スナイパー・ライフルである。
「こっちへ引き付けるのはスナイパーで、あとは巻き添えに注意って作戦ッスよね?ちゃんと聞いてますよ………」
弾丸を込めると、森へと向けた。
命中率は、あまりよくない。それでも、こちらにひきつければ成功なので、考えないことにしたい。
ホースで水をまくように、レーザーを振りまくレックである。
百発百中で、モンスター以外に、一切の印傷をつけてはいけない。そんな上級者ルールでは、スコアは限りなく低いレックである。
命中補正くらい、あってほしかった。
「転生主人公………ステータス先生、見てやすか?」
空の彼方のステータス先生に、レックは祈った。
存在しないと分かっていても、祈ってしまうのである。転生した主人公であれば、チートがし放題だ。
そんな甘い期待など、初日に捨て去っていた。それでも、願うのだ。
チートが、したいと。
「いや、レーザーを撃てるから、もうチート………?」
「帰ったら、ランク・アップだって?ベテランのシルバーとして、憧れと嫉妬の世界へようこそってか?」
がっ、はっは――と、馬の人は大声で笑った。
普通なら、モンスターに気付かれる、静かにしろ――と、お願いするシーンである。今回は、モンスターが近くに来てくれないと困るのだ。
豪快に、大騒ぎをしていた。
いや、このケンタウロスは、普段から大騒ぎをしていそうだ。
最初には、テクノ師団らしい服装の、アリのフルフェイスのヘルメットをかぶっていたが、全ては腕時計のアイテムに収納されている。
コハル姉さんのケータイと同様に、アイテムを収納する機能があるのだろう。そして、相棒のバイクへと命令する、大切なヒーロー・アイテムだ。
認めたくない現実だった。
「それじゃ、引き付けますよぉ~」
作戦会議の間に、レックはサブマシンガンの準備も終えている。マガジンに弾を込める作業など、とても退屈で、お話を聞くには十分な時間が取れた。
改めて、スナイパーを構えた。
「お待たせしました、ぴっちゃ~、張り切っていきましょうぉ~」
スナイパーの人も、お久しぶりだった。




