表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
82/262

まるで、台風一過



 草原に、ポツリとレックは残されていた。


「台風の目ってヤツか………」


 なぜか、そう思った。

 レックが心の中で、中佐殿――とお呼びしているテクノ師団の隊長さんが、原因だ。ヘリで、語ったのだ。


 前世で例えれば、台風だ――と


 モンスターの大発生を前に、笑っていた。

 笑い事でないからこそ、笑っているのだろう、下手をすれば、国を捨てねばならない災害なのだ。


 魔力が集まり、集まり続けて、大発生につながる。それは、一度発生すれば終わりというものではない、そのために、ギャグが放たれた。


 草原に向けて、レックは叫んだ。


「だれが、うまいことを言えと――」


 レーザーも、はなった。

 もちろん、ケンタウロスのライダーさんとは、反対方向へ向けている。フレンドリーファイアーは、これで避けられる。

 そう、傷一つ、つけてはならないのだ。


 バイクのお方には、絶対にだ。


 傷をつけたモンスターの皆様は、その怒りを買ったのだ。

 怒りの突撃を受け、巻き添えでかなりの被害を与えている。もはや、あの集団は生きてはいまい。


 チャージをしつつ、レックは振り向く。


「異世界ギョール、関係ねぇ~」


 バイクが変身したロボットは、両腕を上げて、ポーズをつけていた。

 異世界ギョールの妙技とやらは、とてつもなく人間くさい演技をしている。われ、ここにあり――とでも、叫んでいるのだろうか。それとも、オレが相手だ――と、威嚇いかくをしているのだろうか。


 相手になるには馬の人だ、問題あるまい。


「レーザーっ!」


 ちょっと、ヤケだった。

 これから、あと3ヶ所を回ることが、なぜか決定されている。この仕事が終われば、絶対に旅立ってやるという決意を込めて、叫んだ。


 フラグだ――


 頭の中の前世が、物知り顔で笑っている。

 殴ってやりたい、それは、水面に映る己を殴るようで、とてもむなしい。馬の人に負けないように、レックはレーザーを乱射した。


「台風一過だろ、分かってるよ、一族でやってくる、ご一家って意味だろっ」


 オヤジに、オフクロに、兄貴に姉貴に、オジキに――


 ヘリの中にて、前世を日本人に持つもの同士で、テクノ師団のオッサンと語り合ったものである。

 ギャグである。


 台風の親分さんが、一家を引き連れてお出ましだ。『台風《《一過》》』という言葉は正しくない、一度だけ、通り過ぎて終わりになったためしがない。『台風《《一家》》』という表現が正しいだろうと、笑い合ったものだ。


 何度も来るのだと、笑いあったのだ。

 ヤケになって、当然だった。


「………はぁ、はぁ………おわったか」


 フラグだ――


 またもや、前世が笑みを浮かべた。ニヤニヤと口元をゆがめて、また、言いやがったな――と、笑ってやがるのだ。


 その通りである。

 ひづめの音が、近づいてきた。


 ぱっか、ぱっか――と、馬の人が近づいてきた。


「よぉ、そっちも終わったか」


 レックは、振り向く。

 探知魔法は使っていない、そもそも、レックの探知魔法は、目視範囲よりも狭い範囲である。目視よりも詳細に、目をこらし、耳をそばだてても見落とす動きを察知できる。その意味で、大変ありがたい魔法なのだが………


 その気が、起きなかった。

 少々の見逃しは、もう、いいや――と


「ザコが少々残ってても、気にするな。ヤバイヤツを逃さなければいいさ」


 機嫌よく、笑っていた。

 後ろでは、バイクのロボット様が、腕を組んでいた。おまえ、なにもやっていないだろう――という、心のツッコミを、レックは必死で飲み込んだ。

 バイクへの愛が重いケンタウロスなのだ。プライドを傷つけることすら、口にしてはならない。


 レックの目線に、ケンタウロスは気付いた。


「ん?………あぁ、こいつのことか?」


 レックは、冷や汗だ。

 心でバカにしていることがバレれば、馬キックの餌食となる。馬キックは、巨大モンスターのイノシシをミンチにしたのだ。

 レックがトラウマを抱えたボスのモンスター・イノシシを、ミンチにしたのだ。


 レックの笑みは、引きつった。


「えっと………」


 なんと答えればいいのか、レックの中の下っ端パワーは、相談していた。

 下手な言葉は、死を招くのだ。


 そのための、沈黙だった。


「あぁ~、そうか、そうか――おれはテクノ師団のゴルックだ。よろしくな」


 巨大な手が、差し出された。

 握手の求めに、レックは硬い笑みのまま、手を握る。


「へ、へへへ………レックっす」


 しがない冒険者――

 いつもなら、そのように自己紹介をしたはずだ。しかし、シルバーランクとなった今は、もはや不可能だ。

 ザコなので――と、危険から逃げる手は、こうして奪われる。


 下っ端として生きてきたレックは、下っ端でなくなった今、困っていた。


 心は下っ端なのに、冒険者のランクは違ってしまったのだ。レックの心を置いて、上位者の仲間入りである、シルバーなのだ。


 それに――


「シルバー同士、そして、転生者同士、仲良く――っと、オレの前世は、ギョールだ。さっき言ったが、オートマタって言うか、アバターを操るって言うか、そんなとこだ」


 後ろでは、バイクのロボット様が、腕を上げていた。

 テクノ師団のゴルックのオッサンの、相棒が変身したロボットだ。

 両腕を天に向けるポーズが、お気に入りだろうか。強さをアピールしている、実際に、大型モンスターと互角に戦える力は、あるのだろう。


 少しでも傷がつけば、大変だ。


 馬が、お怒りだ。


「操る………ゴーレムとか、そのあたりの技術って、もしかして――」


 異世界から、技術が持ち込まれる。

 もちろん、技術者が転生しない限りは、ヒントに留まるだろうが、元からあった技術と融合して、発展につながる。


 日本人も、ずいぶんと貢献したようだ。

 文化の影響としては、食糧事情に調味料に、服装や名前や………エルフの国が、なんとも微妙である。

 セーラー服のコハル姉さんの故郷など、古きよき昭和であった。


 ケンタウロスの人は、ギョールと言う世界の出身だった。


「――ロボットって言うのか、操れれば、それでいいさ」


 豪快な人だった。

 細かなことにこだわらないという、とても付き合いやすい馬の人のようだ。バイク様に傷さえつけなければ、気のいいオッサンなのだ。

 ゴルックという馬の人は、バイクを愛するあまり、そして、前世の再現をしたいあまりに、テクノ師団と関わったのかもしれない。

 最新技術を手にする身分など、限られるのだ。


 あとは、商品として扱う――


 レックは、馬の足を見つめながら、思い出した。


「バイク………バイク屋さんも、ケンタウロス――」


 共通点があれば、つい、口に出てしまう。知ってる、知ってる――と、無意識に思いついてしまうのだ。


 それが、よかったようだ。


「おぉ、そうだった。聞いたぜ、相棒に名前をつけて――いやぁ、わかってるねぇ~」


 豪快に、ゴルックという馬の人は笑った。

 個人情報保護法など、この世界にはないのだ。おかげで共通点があり、仲良くなれそうなのだから。

 仲間を見つけて、とってもうれしそうだ。


 レックも、笑った。


「へへへ、エーセフって言うんです」


 あと、3ヶ所も台風――ではない、モンスターの大発生と戦うのだ。仲良く出来そうであれば、とてもありがたい。

 わざわざ、この馬の人と合流する意味も、すぐに分かるだろう。単純に、レーザーを乱射して終わり。


 それで終わりであれば、楽なのだから。


「とりあえず、モンスターのクリスタルは、回収しようや。そうだ、レックの相棒にも、挨拶をしないとな?」


 ゴルックという馬の人の言うとおり、地上の移動には、バイクである。レックのバイクは、山道でも、岩道でも問題ないタイプなのだ。

 小さくても、パワフルなバイクである。


 レックは宝石を取り出すと、腕を振り上げた。


「こいっ、エーセフっ!」


 投げた。

 ケンタウロスのバイク屋さんからは、やってはいけないと言われていた。しかし、バイク屋の兄さんもまた、宝石を放り投げて、相棒を呼び出したのだ。

 かっこよければ、それでいいのだ。


 宝石に封印された、小型バイクが表れた。


「………久しぶりだな、相棒」


 山道や岩道でも問題ないタイプの、小型のバイクである。

 本当に、どれだけ触れていないのか、レックは寂しく、とても懐かしく、バイクの背中をなでていた。

 お久しぶりの、バイクである。


「ははは、バイク野郎め」


 ケンタウロスのゴルックさんは、ご機嫌だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ