変身したのは、バイクだった
レックは、思わず目を閉じた。
それは、自殺行為だ。レックが目を閉じている間にも、モンスターの皆様は、レックたちをめがけて、突撃中だ。
大発生の、中心地なのだ。
その中の一つであり、助っ人として、ライダーさんがやってきたわけだが。
「………変身?」
魔法の輝きは、バイクの各所にあるクリスタルからだった。
バリアのほかにも、アイテム・ボックスの機能を持つものもある。コハル姉さんのケータイの場合は、ヘビー・マシンガンを収納、そのほかにアーマーや、お着替えに色々が満載だろう。
異世界を前世に持つライダーさんは、バイクに工夫をしていたようだ。
「あ、あれは――強化パーツ?」
パーツが色々と、現れた。
コハル姉さんの場合は、自らが装着するアーマーである。そしてヘビー・マシンガンをセットに、『アーマー・マシンガン』へと、変身するのだ。
変身したのは、バイクだった。
これはそう、バイクからロボットへの、華麗なる変身である。
自慢げに、ライダーさんが腕を組んでいた。
「どうだ、日本人の転生者なら、懐かしいってところか?」
レックは、黙って見つめていた。
それが、感動によるものだと解釈されたのだろう。アリのフルフェイスヘルメットのライダーさんは、ふっと笑った。
「ロボットに、変身………っすか」
ライダーではなく、バイクが変身だった。
そして、バイクのパーツだと分かるのは、タイヤだけだ。
そもそも、バイクの構造で、ロボットのように戦っていいとは思えない。むしろ、登場シーンのように、バリアで突撃が有効だ。
わざわざ人型ロボットにした理由は、完全に遊びである。
やるな、異世界人――と、前世の浪人生は、あごに手を置いた。
ゴーレムパーツの足は、やや短いが、前世には好印象だ。かっこいいロボットの足と言うよりも、むしろ、現実的にロボットを動かす印象を与えるのだ。
腕は細く、これも完璧な人型を目指すより、いい――と言う出来だ。
そう、試作タイプだ。
「あのぉ~、モンスターたちが――」
アニメではない、ヒーローが変身、ロボットが変形と言う時間を、素直に見守ってくれるわけがない。
余裕があった距離は、すでにサブマシンガンの乱射範囲だ。先ほどのバイクの突撃レベルの攻撃力がなければ、ピンチだ。
ライダーさんは、余裕だった。
「見せてやる、そっちの言葉でオート・マタっていうのか、アバターって言うのか………俺の世界ギョールの妙技を」
魔法の気配が、高まった。
ライダーさんから、あふれ出る魔力に、レックは少しさがった。
クリスタルは、あくまで補助に過ぎない。スーパー・ロボットのエルフちゃんと同じく、ロボットの動力源は、操縦者自信のようだ。
前世などは、リアル変身ロボットだと興奮していたが、聞く耳を持ってはいけない。こういうときの前世は、うるさいのだ。
そして、ライダーもうるさかった。
「いっけぇえええええっ!」
腕輪に向かって、叫んでいた。
完全自立ではなく、音声認識なのだろうか。そういうプログラムがあるのか、そういえば、スーパー・ロボットのエルフちゃんも、サポートロボは、自動だった。
魔力で、操り人形のように操っているようにも見えるが………
「………タックル?」
モンスターと、ぶつかった。
5メートル近くの巨体が、ザコの群れを粉砕していく。これは、一方的なミンチと言えるだろうが………
バイクで突撃のほうが、効率がよさそうだ。
両肩にバイクのタイヤがあり、タックルで役立ってくれるのか。しかし、タイヤしかバイクの面影がない、変身ロボットなのだ。
「うわぁ~………」
残念ながら、攻撃力は、残念だった。
いや、モンスターの数が少なければ、後ろから見物して、ロボットの活躍を楽しめたかもしれない。
移動速度は、バイクと比べれば残念だ、走る速さだ。そしてパンチやタックルも、あくまで走る早さで、腕が届く範囲だ。
せめて、ビームくらい発射して欲しいが、ミサイルでもバルカンでも、何でもいいが、一切の飛び道具はなかった。
言い方を選ばなくてよいなら、言いたかった。
ダメじゃん――と
賢明なレックは、口にすることはなかった。エルフちゃんのスーパー・ロボットと比べて、全てにおいて見劣りがしても、それは本人の前で口にしてはならないのだ。
浸っておいでなのだ。
「見ろよ、モンスターの大群を前にしても、一歩も引かずに戦う、勇ましい姿を――」
ご機嫌に、自分の相棒の活躍を見つめていらっしゃった。
表情は分からないが、とても満足をしておいでなのだ。フルフェイスの、アリ頭のヘルメットの下の表情は、きっとそうなのだ。
だからこそ分かる、ご機嫌を損ねる余計な一言は、命に関わると。少しでも傷をつけるような出来事があれば、決して許してくれないと。
プライドであるのか、浸っている時間の邪魔であるのか、それとも――
怒りのオーラが、レックを振るわせた。
「おのれ………オレの大事なバイクに――」
ガゴ――と、小さな音が聞こえた。
どうやら、ロボットの表面は、バリアで守られているようだった。しかし、攻撃を受け続ければ、いずれ弱まり、消える。
まだ弱まっただけであったが、音がしたのだ。
ガゴ――………と
それは、鈍く金属が傷つけられる、独特な音だった。まだ、わずかなダメージらしい、ロボットは元気に戦っていた。
それでも、小さな違和感は、耳に届いてしまった。
持ち主は、お怒りだ。
静かな怒りは、いずれ大爆発だ。すでに圧力で、レックは震えている。おもむろに、ヘルメットを脱ぐと、放り投げた。
爆発だ。
「貴様は、オレを怒らせたぁああああっ!」
魔力が、爆発した。
怒りに任せてか、ライダーさんを覆っていたテクノ師団のアーマーも、吹き飛んだ。
レックは、念のためにスフィア・バリアで全身を覆っていた。おかげで問題ないはずでも、思わず両手で、顔を守るように縮こまった。
守る面積が少ないほど、バリアは強度を増す。そんな理屈など吹き飛んで、ただ、お怒りの爆発が、恐ろしかった。
そして、恐る恐る目を開けると――
「け、ケンタウロス?」
お久しぶりの、ケンタウロスの姿だった。
レックにバイクを売ってくれたバイク屋さんとは違う。別のケンタウロスのようだが、レックの心に浮かんだのは、同じ感情だった。
走れよ。
馬が生えているだろ、走れよ――だった。
ライダーは、突撃した。
「ぅをおおおおおおおおお」
怒りのオーラをみなぎらせて、突撃した。
その轟音は、もしかすると、大型バイクを走らせている時と同等、いや、それ以上かもしれなかった。
怒りの地響きが、レックを振るわせた。
「馬、すげぇ~」
馬は、走った。




