縛りプレイは、サブマシンガン
去り行くヘリを見上げて、レックは叫んだ。
「ばっきゃろぉ~っ!」
両手にサブマシンガンを装備して、ヤケだった。
ヘリが立ち去ってから叫ぶあたりが、レックである。ヤケになった今でなお、偉い人には逆らえぬのだ。
モンスターに囲まれていて、余裕だった。
そして、少し余裕がある。着陸のために、レックがレーザーをばら撒いたのだ。周囲には、熱水レーザーを振りまいた後遺症として、水蒸気が上がっていた。
レックが一人、取り残されていた。
「固定砲台の次は………あぁ、地面に設置かよ………」
お手伝いの仕上げは、置き去りだった。
何箇所か、レックの魔法で大きく数を減らした。冒険者ギルドから送られる皆様の戦いを、楽にする作戦なのだ。
危険な場所には、テクノ師団が向かう。レックはその前に、あとをよろしく――と、ザコの大群が突撃中の草原に、置き去りを食らったわけだ。
ばかやろう――
立ち去るヘリを見上げて、叫ぶくらいは許してくれるだろう。数本の下級ポーションをサービスしてくれただけ、親切と割り切るしかない。
それに――
「援軍も合流するからって………レーザーが禁止って、縛りプレイかよ」
前世の浪人生が、震えていた。
ゲーマーと言うのはおこがましい、回復アイテム禁止、あるいは強力な武器の禁止、ゲームによって縛りの内容は様々だ。
試してみて、速攻あきらめた前世である。それに比べれば、サブマシンガン縛りなど、イージーモードなのだ。
レックは、構えた。
「汚物は、消毒だぁあああああっ」
ヤケだった。
ぞろぞろやってくる雑魚へ向け、サブマシンガンを乱射した。
パララララ――
軽い射撃音が、現実感を失わせる。本来、実弾を伴わない魔法のビーム・ガンのような武装である。発射音は、効果音なのだ。
その意味で、ややSFの武装だ。
マジカル・ウェポンと言う名称も、魔法攻撃に等しいための名称である。魔法の薬のにおいが充満する、独特の空間だ。
マガジンを、即座に入れ替える。
「もう弾切れ………連射、ヤバイな」
予備のマガジンは、20本ほど購入している。
ツー・ハンド×10回分のリロードで、600発だ。ゲームでは、普通に消費する弾数である。弾数無限と言うアイテムもあったが、ゲームのように使い切るに違いない。いくら倒しても、次々と押し寄せてくるのだ。
………足りないかもしれない。
「これが終わったら、絶対旅に出てやる。もう、仕事なんてするもんかっ」
フラグだと、レックは自覚していた。
前世の浪人生も、自分で、フラグを立てやがった――と、ニヤニヤしていて、腹立たしい。自分で自分にツッコミを入れるレックは、まだ余裕があるようだ。
チートが欲しいと願って、目立つのはヤバイと思っていた、その矛盾の答えである。
この戦いが終わっても、自由に旅立ちが出来る保障はない。
新たな面倒ごとを、押し付けられるに違いない。そして、その問題が解決すれば、次の厄介ごとが待っているに決まっているのだ。
不思議を探しに、バイクの一人旅に出かけよう――
異世界に転生した感動で、バイクを購入した過去が懐かしい。まだ数ヶ月前の出来事であるが、とても昔に思える。気楽なバイクの一人旅に、インスタントラーメンをすすり、立ち寄った街で名物を味わい………
鋭い牙が、真横だった。
「げっ、ウルフさん――」
モンスター・ウルフの接近に、レックはあわてた。
一応は、ザコに分類されるモンスターでも、あとわずかと言う距離に接近されれば、脅威である。
エルフの国では、並みの冒険者では太刀打ちできないイベントを生き延びたレックである。
個人の実力は、まだブロンズだと戒めつつ、それは本当だと実感した。
「や、やばかったぁ~」
とっさの乱射で倒すことは出来た、これも、ハード・モードというエルフの国の日々を生き延びたおかげであろう。
しかし、弾切れだった。
「リロード――っ」
アイテム・ボックスからマガジンが現れ、空中で器用に受け取ると、装てんする。この早さは、ちょっと自慢したい。
教えてくれた『爆炎の剣』のガンマン、ガルフの兄貴に感謝であった。
脳内で、ぴろりろり~ん――と、効果音が響いた。
スキル・リロード――を取得しました。
称号・無駄撃ちガンマン――を、取得しました。
レックの脳内では、余計な称号まで追加されていた。
ガルフの兄貴のように、待たせたな、相棒――と、気取るようになるのか、それは遠い未来の話にしたい。
今は、数分先の未来すら、不安だった。
たまたま、一匹のウルフに近づかれただけで、ちょっとパニックだった。これが集団になれば、まずい。
適度にばら撒きつつ、焦る。
「さっきのはヤバかった………修行の成果かな、気付けたけど――」
ドキドキだった。
エルフの国では、勇者(笑)として歓迎され、連れまわされ、モンスターの討伐もした。それも、並みの冒険者では手が出ないレベルのハード・モードばかりであった。
小石を投げるような勢いで、砲撃並みの、丸太に岩の、雨あられであった。バリアがなければ、とても危険だ。
今も、小石くらいなら飛んできそうだ。サブマシンガンで撃ち落とすような芸当を、レックが出来るわけもない。
そう、バリアがなければ、危険である。
おかげで、レックは思い出した。
「バリアって、使っていい?」
すっかりと、忘れていた。モンスターの大群を前に、自分でも気づかないうちにパニックになっていたのだろう。
レックは、オリジナルの魔法、スフィア・バリアを扱えるのだ。
効率は恐ろしく悪いらしいが、だからいい――とは、エルフのお姉さんの言葉である。くのいちコスプレ愛好家で、レックもコスプレ仲間である。
本当に、色々な経験をした、エルフの国の日々であった。
レックは、両手をクロスさせた。
「スキル、スフィア・バリアっ!」
即座に、展開した。
熱水レーザーと同じ魔力を消費する水球は、レンズよりも平たく広がり、バリアとしても役立ってくれる。複数発生させることが出来るため、全身を覆うバリアとして、通用するのだ。
なお、両手をクロスさせることに、意味はない。
しかし、魔法とは精神力に大きく左右される、多少おかしなポーズや言動など、誰もが陥る罠なのだ。
この世界の皆様は、多少なりとも中二なのだ。
「これで安心して………はいはい、リロードっ――」
何度目のリロードだろうか、しかし、余裕が出てきた。
これでレーザーを放てるなら、かなり削れるはずだ。むしろ、レーザーのチャージの間、わずかな時間を守るためのサブマシンガンにすべきだ。
縛りプレイの、歯がゆさだった。
弾切れと言う姿を思うと、冷や汗をかく。
バリアに肉薄するゴブリンにスライムに、モンスター・ウルフに、モンスター・イノシシにと、目線を独り占めだ。
モンスターに囲まれながら、マガジンに弾を込める姿は、シュールである。
精神的に、かなり追い詰められることは必死だ。生きて戻っても、すぐとなりに、ウルフやイノシシやゴブリンやスライムにと、ザコ・モンスターの姿が見え、うなり声がいつも響く幻影に、悩まされそうだ。
レックの耳には、バイクの音が響いていた。
「やれやれ、さっそく幻聴が聞こえてきやがった。バイクに乗りたいって欲求が、脳を錯覚させるって言うんだろ………分かってますよ、こっちには前世日本人の――?」
モンスターのうなり声に混じって、バイクの音がした。
バイクでの一人旅に出かけたい。そんな欲求が、ありもしないバイクの音を聞かせているのだ。
レックは前世日本人の常識として、そう思い込んだ。
周りには、モンスターしかいないのだ。
なのに――
「………間違いない、この轟音は、懐かしき日曜朝のときめきは、まさか」
ギュルウウウウン――
今度は、はっきりと聞こえた。
ややSFなこの世界のバイクも、モーターの爆音はしっかりと再現されている。タイプも様々に、レックの相棒のような小型なものから、巨人専用と言う印象のある、大型バイクまである。
モンスターの地平に混じって、大型シルエットが、迫ってきた。
ピンチになると駆けつける姿はまさに、日曜朝の、あのヒーローである。
「まさかっ――仮○ライダー様っ」
バイク野郎が、現れた。




