テクノ師団のおっさんと、待ち合わせ
『――3日後だ、準備をよろしくな?』
ギルドでの、出来事だった。
お願いというか、中佐殿――と、レックが心で呼んでいる、テクノ師団の隊長さんのお誘いだった。
断れるレックではない、その『――3日後』という本日、待ち合わせの場所にいた。
「どうみても、祠――だよなぁ~………」
待ち合わせは、小さな祠の前であった。
祠――と、レックが脳内変換しているだけで、この世界では少し意味合いが異なる。
見た目は石組みの神殿のミニチュアというか、しかし、この世界では信仰心ではなく、実益を伴った、ありがたい石組みだった。
銀髪の、中佐殿――と、レックが心で呼んでいるテクノ師団の隊長さんは、答えた。
「あぁ、日本人感覚では、そうだな。でっかい神殿を中心に、結界が町を守るんだが――なんか、雰囲気違うよな。ファンタジーはやっぱ、城壁都市じゃないと」
待ち合わせの相手は、オッサンだった。
前世の浪人生でも、こんな悲しい待ち合わせは知らない。異世界での出会いは、散々だと涙をする日々、初めてのデートは、おっさんが相手だった。
モンスターの血肉がはじけ飛び、下手をすれば自分達の血肉も宙を舞う、殺伐としたお出かけ日和だ。
現実逃避がしたくなっても、許して欲しいレックだった。
「コハル姉さんに聞いたけど、蚊取り線香みたいなものって………それで、並みのモンスターは近寄らないから、すごい――ってことッスか?」
「まぁ、石組みの城壁と同等か………神殿の連中がその気になれば、強度とか修復とか、色々出来るって話だからな――城壁以上だろ?」
バリアは、障壁と翻訳される。
見えないレンガブロックの壁である。その強度は、机を構えた程度のものから、レックやエルフたちのように、岩石の雨あられを防ぎきるものまで、様々だ。
結界は、蚊取り線香だ。
「午前三時の、あの鳴き声――思い出しただけで、イラつくぜっ」
「殺虫剤で息苦しくなってでもいい、殺したい――でも、死なないんッスよね~」
共に、前世ではずいぶんと悩まされたようだ。
そして、日本人同士だから通じる、一部通じないのは、世代間ギャップで、それは仕方ない。
しかし、通じるものがある、蚊取り線香と言う結界の有無は、大きな違いであるのだと。バルサンにすれば、人間もヤバイのだ。
モンスターも、逃げ出すのだ。
ザコなら、皆殺しだ。
「だからこそ、ヤバイんだよな~――モンスターの密度が大発生だと、効果が薄いんだとさ。何千、何万ってモンスターが町を練り歩くイメージ、分かるか?」
「エルフのみなさんは、宴会でしたけどね――イメージ、ぶち壊しッス」
共に、笑った。
どうやら、中佐殿――と、レックが心で呼ぶ隊長さんも、かつてエルフの国で遊ばれた経験があるようだ。
なら、オッサン一人で何とかして欲しい、しかし、運命は目の前だ。
轟音が、近づいてきた。
パララララララ――
前世では、ヘリコプターだと見上げた轟音だ。
授業中であっても、頭上をヘリコプターが通り過ぎれば、クラスメイトは皆様そろって、窓ガラスから上を見上げたものだ。退屈な日常の刺激として、席に戻れと言う教師の声も、遠くに響いていた。
レックは、ヘリを見上げた。
「あのぉ~………いまさらッスけど――」
目の前には、アリ頭の皆様がおいでだった。
武装も、武器ショップでは目にしていない、クリスタルがいくつも側面にちりばめられた、ビーム・ライフルと言う印象の、SF武器だ。
コハル姉さんのヘビー・マシンガンに比べれば小さいが、威力は匹敵しそうに見えて、怖い。
おっさんが、笑っていた。
「ははははは、コハルちゃんから聞いたぞ?上級魔法に匹敵、しかも、オリジナルだって言うじゃないか――転生者は、そうでなくっちゃなぁ~」
ガハハ――と、レックの肩を叩いていた。
銀髪ショートヘアーで、中佐殿――と、レックが心で名づけたおっさんだ。そして、レックと同じく日本人を前世に持つ、転生者だ。
先輩として、レックに忠告もしてくれていた。
恨めしそうに、思い出す。
「前世にとらわれちゃいけないって………隊長さんが言ってくれたんでしょ、オレっち、底辺冒険者なんっすよ?」
「ははは、シルバーだろ?」
目の前の光景は、激ヤバだった。
特殊部隊による、敵の本拠地への急襲作戦。その、出発シーンにしか、見えなかったのだ。
あるいは、精鋭部隊――
最新のSFで武装しているテクノ師団は、この世界では精鋭部隊で、特殊部隊に当たるはずだ。攻撃力も、武装によって、並みの冒険者を上回る。
シルバー・ランクの集団と言っても、過言ではないらしい。そんな皆様が出撃するということは、激ヤバだった。
「ゾクゾクするだろ――特殊部隊の、出撃シーンだっ!」
レックは、天を見上げた。
「外の世界でも、ハードモード――ッスか」
轟音は、テクノ師団の接近をお知らせする、サイレンである。
実際にはローターで、大きな羽を回転させているわけではない。むしろ、SF映画やアニメで登場する、浮遊する“何か”なのだ。
ローターの代わりに、クリスタルの輝きがまぶしいサイレンのようなものを輝かせて、バリアのように機体を覆っている。
武器も強力だ。
ヘビー・マシンガンをいくつも内蔵しており、巨大オークの100や200程度なら、このヘリ一機で殲滅できるはずだ。
なぜ、レックが必要なのか――
「弾丸は、節約したいよな?」
ライフルの弾丸は、お高い。一発で、軽い食事が出来るお値段である。ヘビー・マシンガンではもう少しいい食事が出来そうだ。
数百発とばら撒くコハル姉さんが、おかしいだけだ。
予算と言う現実と戦うおっさん達にとっては、本当に、切実な問題なのだ。
レックが要る理由だと、いい笑顔だった。
「………?」
レックは、自分を指差した。
誰か、気にかけて欲しい、自称・ザコである。攻撃力がトルネードと言う、上級魔法に匹敵しているため、説得は不可能だ。
ハッチが、開かれた。
「任せたぜ」
レックの背中は、バンバン――と、叩かれた。
サブマシンガンを購入する意味があったのか、そんな疑問はとりあえず、口にしないことにしたレックである。
それは、フラグなのだ。
口にすれば、単独でモンスターの発生地点に放り出されるに決まっている。いや、砲台として使われた後に、放り出される可能性も残っているのだ。
そんなフラグは立てたくないと思うレックは、無言だった




