戦いの準備なら、武器ショップだ
カラン、カラン――
ややうるさい鈴の音が、お客の入店を知らせている。コンビニでは電子音であるが、この世界にそのようなものはない。
両開きの扉が、ガラガラと余韻を残して、揺らめいた。
レックは、格好をつけた。
「よぉ、また来たぜ?」
ガンマンが、やってきた。
レックには、見えていた。賞金稼ぎやゴロツキが、いっせいにこちらを睨むシーンが、幻視されていた。
前世の浪人生の、なんとも罪深いことだ。
そして、本日においては、本当に睨まれた。
「なんだ、ガキか」
「おいおい、ボウヤは帰りな」
「ははは、ビビってやがる――」
西部劇スタイルの、常連達のようだ。お髭はカールして、ズボンの後ろは、ひらひらとしている。
ホンモノのガンマンスタイルだと、レックは思った。
リボルバーの早撃ちは、マシンガンに匹敵するかもしれない。しかし、レックも引くわけには行かない。モンスターの討伐を前に、武器を新たに必要としたのだ。
『――3日後だ、準備をよろしくな?』
ギルドでの、命令だった。
お願いというか、むさいオッサン達の圧力に、逆らえるだろうか。中佐殿――と、レックが心で読んでいるテクノ師団の隊長さんの、お誘いだった。
もちろん、レックは了承した。
そして、そのために武器ショップに足を運んだわけである。強力な攻撃魔法を扱えるといっても、エルフのサポートがあってこそだ。
なら、近づかれても攻撃の手数を増やせるように、マジカル・ウェポンの出番だろう。
そう、サブマシンガンだ。
ザコの大発生では、必要だと思ったのだ。決して、武器のフルコンプを目指したわけではない。
オッサンたちに、囲まれた。
「ほぉ~、金髪にガンマンコートのチビ――新たなシルバーってのは、お前か」
「なに、こんなガキが………っち、魔法使いか」
「そうだ、魔法使いなら、マジカル・アイテムショップへ行きやがれ」
散々だった。
しかし、気持ちは分かる。レックも転生主人公を気取る前は、そちら側の気分であった。ザコの気持ちは、強い人にはわからんのです――と、ふてくされるボウヤだった。
下っ端パワーの出番だ。
「へへへ、いやぁ~、マジカル・ウェポンはシルバー・ランクになっても――」
焦りながらも、レックは考える。
シルバー・ランクでもマジカル・ウェポンを扱う冒険者が、どれほどいるだろうかと、ヘビー・マシンガンを乱射するエルフちゃんのことは、例外とすべきだ。
では、誰がいる?
レックの知るシルバー・ランク冒険者といえば、散々お世話になった『爆炎の剣』の皆様である。
マジック・アイテムという分かりやすい魔法の杖を持つカルミー姉さんは置いて、ゴードンの旦那は剣を、こぶしが凶器のゼファーリアの姉さんに………
ハンドガンを持っていたのは、ガルフの兄貴が、お一人だけだった。魔力が少なく、しかも、威力の低いハンドガンを、ツー・ハンドだった。
「ガルフの兄貴、すごかったんだな………ハンドガンだけで、巨大スライムを倒したんだから………」
思わず、つぶやいた。
魔力に頼りきったレックは、サポートあってこそ――である。
技術的には、調子に乗っては命に関わるザコなのだ。気分は、ブロンズの中級のままでいたほうが、安全なレックである。
武器ショップのオヤジが、のっそりと現れた。
「なんだ、いつぞやの………テクノ師団の言っていたボウズか」
集まっていたオッサンたちが、一歩下がる。
気にいらないヤツに武器を売らない――そんな頑固親父と言う話は、マジカル・ウェポンに限った話ではない。
ご機嫌を損ねては、まずい相手であった。
それに――
「なんだ、へなちょこガルフを知ってるのか?」
「なら、シルバーも分かるか………」
「――ってか、ハンドガンだけで、巨大スライムを倒したって、すげぇな、おい」
突然、おっさんたちの態度も柔らかくなった。
武器ショップのオヤジの登場だけでなく、『爆炎の剣』の名前を出したことも、よかったのかもしれない。
知らないところで助けられたと、レックは心で感謝を述べていた。
態度は、下っ端だ。
「へへへ、冒険者になりたての頃から、荷物もちになってやして、魔法とか、武器とかもそのときに………へっへっへ――」
話が通じる空気になってきた。
武器ショップのオヤジが、レックを見た。
「そんで、また壊したのか?それとも、ビーム・サーベルが欲しくなったのか?」
レックは、しばらく反応に困った。
ここへ来た目的は、まずはサブマシンガンである。
「へ、へへ………いやぁ、サブマシンガンを………」
口にしながら、ビーム・サーベルも購入すべきだと思った。
すっかりと忘れていたが、目の前に近づかれて、弾切れと言うタイミングで、欲しかった武器だ。
パイナップルと呼ばれる手榴弾もありがたいが、味方への巻き添えを考えれば、ビーム・サーベルがよさそうだ。
「なら、手に合わせたサイズ――30発入りのヤツがいいだろう………もう少しでかくなりゃ、そんときに考えればいい」
棚から出しながら、思い出したようにレックに話しかけてきた。
手のひらサイズの、サブマシンガンだ
数は、2つだ。
「へなちょこガルフめ………えらくなったもんだ」
「――ったく、イヤになるぜ、才能ってヤツは」
「死ななきゃ勝ちさ、強敵を押し付けられるよりも、ザコでいい、ザコで」
さすがだ――とか、生意気な――など、皆さん、思い思いに戦いの様子を思い描いて、そして、楽しそうだ。
かつては、武器の使い方を教えた相手かもしれない。
暖かな空気は、ここまでだった。
レックは、カウンターにコインを置いた。
それが、金貨だっただけだ。しかも――
「このガキ、金貨で買い物だと?」
「しかも、20ルペウス金貨だぁあああ?」
「20セス銅貨の山なら分かるが――」
不用意な言動が災いを呼ぶのは、どの世界も同じらしい。
レックは不用意に20ルペウス金貨を出してしまった。かつては拝むことすら出来なかったというのに、忘れていた。
エルフの国で、たくさん手に入ったため、感覚が麻痺していた。底辺冒険者には、1年分の生活費に匹敵する大金なのだ。
少市民という生活でも、3ヶ月分の生活費に相当する高額コインだ。それを、ポン――と、懐から出したのだから、注目は当然だった。
輪になって、オッサンたちは、ヒソヒソと現実逃避だ。
「まさか、どっかの貴族の関係者か?隠し子か?」
「いや、貴族の若様なら、《《こんな店》》で買い物するかよ」
「《《こんな店》》で、20ルペウス金貨を拝めるとは………」
余計な一言が災いを呼ぶのは、いくつになっても同じらしい。武器ショップのオヤジが、仁王立ちだ。
ビーム・サーベルを両手に持って、仁王立ちだ。
「てめぇら、《《こんな店》》とはなんだっ――刀のさびにしてくれるっ!」
大乱闘が、発生した。
なお、ビーム・サーベルはさびることはない――そんなツッコミを入れる人物は、どこにもいなかった。




