エルフの国は、スーパー・ハード:4
金髪のショートヘアーが、パタパタと騒ぐ。
レックの前には、《《4つ》》の水球が生まれていた。今までは3つで、ようやく制御できるようになったと思っていた、
それが、限界だと感じていた。
《《4つ》》になっていた。
「あれ、オレって、チートしてる?」
レックの頭の中では、宴会だ。
前世の浪人生と手を取り合って、ダンスを踊っていた。もちろん、スキル会得の効果音もピロリロリン――と、鳴り響いている。
――スキル・第4の水球を、会得しました
アニメやゲームではない、世知辛い現実だと思っていた今日この頃、まさかと言うパワーアップだった。
調子に乗るには、十分だ。
「このまま、6つまで増えちゃう?――いっちゃう?」
さらに、集中した。
コハル姉さんは、6つくらい生み出してもおかしくないといっていた。ならば、この調子で増えるのではと、期待したくなるのだ。
ヤバイのだ。
目の前には、ロードといっても当然の、オーガの団体さんが接近中だ。
10メートルオーバーの皆様である、双眼鏡でもシルエットが限界の距離から、すでに達磨さんが転んだ――という距離である。
すぐに、パンチが飛んでくる距離になるだろう。手数は、いくらでも欲しいのが、人情と言うもの。
その前に――
「トルネぇ~ドっ!」
まずは、放った。
この瞬間にも、オーガの皆様は攻撃中だ。雨あられと、岩石や丸太が降りつづけて、バリアがなければ即死の空間である。
岩石の数は、激減した。
レックの攻撃が、オーガの皆様に届いたようだ。ひるんだのか、絶滅してくれればと期待しつつ、レックは震え上がった。
怒号が、響いた。
「「「「「ぐがぁあああああああっ、ぐがぁああああっ、ぐがぁああああっ!」」」」」
大変、お怒りだった。
かなり数が減ったと思うが、巨大なオーガの皆様なのだ。例え一匹だけでも、生き残っていれば脅威である。
「はぁ、はぁ………あと、どれだけ――」
トルネードのため、視界はとても悪くなっている。土煙に、木材の破片にと舞い上がり、視界は悪い。
突如、後ろから表れる恐怖は、バリアがやわらげてくれる。もっとも頼りにしているのは、エルフ姉妹である。
警告くらい、してくれると思うのだが………
「………あれ?」
双眼鏡のように、遠くを見つめ、違和感に気付いた。
おかしいと、レックは周囲を見渡そうとして、まさかと集中する。
「スキル、探知っ!」
まだまだ、オーガの皆様は遠くにいらっしゃるはずだ。そう思って、双眼鏡モードしか使っていなかった。
だが、予感があった。
エルフの皆様のように、はるか彼方の大発生を探知できるわけもない。むしろ、裸眼の範囲限定といっていい。
単調な攻撃で、油断をしていた。そこに思わぬ展開が――そんなフラグは、探知魔法が回収してくれた。
レックは、冷や汗だ。
「マジかよ………」
ゴブさんが、すぐそこだ。
サイズは、山賊の皆様と言っても過言ではない、2メートル近いゴブリンの団体様だ。いつの間にか接近されていたのだ。
周囲への警戒を怠ったレックのミスである。巨大なオーガの皆様に集中していて、まったく気付かなかった。
混乱した頭で、とりあえずチャージしていると――
「あぁ~あ、タイムリミットかぁ~」
「勇者(笑)さま、残念でしたぁ~………エサだよ、エサ」
エルフ姉妹が、あきれた声援を出してきた。
レックも、同じ気持ちだった。
「あぁ~………言ってましたもんねぇ~、油断するとエサになるって、《《家畜のエサになる》》って」
見事に、餌食になっていた。
ゴブさんの断末魔が、森にこだまする。
「「「「「「ぐぎゃぁああああっ」」」」」
悲鳴を、上げていた。
レックが、ハンドガンの乱れ撃ちをしたからでもない。新たな技で、ゴブリンの皆様をミンチにしたわけでもない。
ここは、エルフの国の牧場である。
ワニの養殖場のように、豚に当たるのだろう、太めのイグアナと言う印象のドラゴンの皆様が、襲いかかっていた。
エルフ姉妹は言っていた。オーガの皆様も、こいつらのエサだと。ならば、ゴブリンなど、抵抗できるわけもない。
レックは両手を合わせ、冥福を祈った。
「オレのレーザーで“ちょんぱ”されるのと、巨大イグアナの群れにエサになるのと、どっちが残酷なのだろうか………おっと~、キノコの登場だっ」
レックの気分は、ナレーターだ。
たくましいことだ、エサの気配に、キノコの皆様が表れた。
移動速度は速くない、それでも、10メートルサイズのキノコの人は、人間がスタスタと歩く速度を超えて、移動できるようだ。
オーガの皆様の血のニオイに、よってきたのだろう。トカゲ牧場の近くに、キノコの養殖場でもあったのかもしれない。
レックは、ゆっくりと立ち上がった。
そして、どこかへ向けて、お辞儀をした。
「えぇ~、勇者(笑)の戦いの途中でありますが、一部お見苦しいシーンが出たこと、お詫び申し上げます」
ワニの池に、ニワトリを投げ込んだシーンだと、レックは思った。
盛大に水しぶきが上がるシーンが、大規模に再現されていた。哀れなる、ゴブさんの虐殺シーンである。
いや、巨大キノコも混じった、大怪獣決戦と言う様相だ。
エルフ姉妹は、ツッコミを入れてきた。
「えぇ~、勇者(笑)さまがびみょうなため、ここは――」
「そうですね、ここまで接近されれば――」
危機は、去っていないはずだ。オーガの皆様も、絶賛突撃中である。突進の地響きは、徐々に近づいている。
あと、十秒もないかもしれない。
轟音は、空からも近づいてきた。
「らうね~ら、ゴーっ!」
スーパー・ロボットのエルフちゃんも、参戦だ。
後ろでは、お怒りモードのエルフちゃんが、対抗心を燃やしていた。
「もぉ~、見ててよっ!――いくよっ」
お久しぶりのガラケーが、輝いた。
「ルーン・クリスタルパワぁ~、め~く、あぁあああっぷ」
気合は、十分のようだ。
ガラケーにたくさん付属の宝石も輝いて、様々なアーマーが現れた。そういえば、本日はセーラー服ではなかったと思うが、輝きの間に、なにかが起こった。
セーラー服が、瞬間装着されるらしい。
上空でも、なにかが起こった。
「みんなの力を一つにっ!!」
レックは、思った。
「だから、みんなって誰だよっ!」
つい、叫んでしまった。
5対合体のモーションを、真上でリアルタイムだ。ここはエルフの牧場である。とても広い空き地であり、上空に浮かぶシルエットが、しっかりと見えた。
映画でも、一番の見せ場だろう。主人公のピンチに、仲間が次々と現れるのだ。
背後では、決め台詞が叫んでいた。
「天がよぶ、森が呼ぶ、私が呼ぶ。力と正義のセーラー服アーマー戦士、アーマー・マシンガン、ここに参上っ!」
コハル姉さんの、久々の変身だ。
両手には、見た目12歳のコハル姉さんでは扱いきれない、ヘビー・マシンガンがツーハンドだ。
輝かしい名場面のはずだが――
上空から、轟音が近づいてきた。
「5体合体、グレート・ラウネーラ、参上っ!」
10メートルサイズのロボットが、現れた。
両肩や腕や足がアニマルな、日曜の朝が懐かしい、スーパー・ロボットがゆっくりと着地した。
熱風が、周囲に満ちた。
逆噴射のギミックも、冴えている。むしろ暴力だ、味方への気遣いよりも、見た目の派手さを選んだに違いない。
牧場のドラゴンさんたちが、心配だったが――
「さっすが、エルフの国ッスね」
とっても、賢かった。
着地予想地点から、すでに逃げ延びていた。そういえば、レックめがけて、岩石や丸太が雨あられと降り注いでいても、無事だったのだ。
さすがは、エルフの国の家畜である。
逃げ遅れたゴブさんたちは、灰も残るまい。着地のシーンではお約束、炎の逆噴射であった。
そのままの勢いで、ラウネーラは叫んだ。
「私が来たからには、勇者(笑)に指一本、触れさせないよっ」
スピーカーから、男前のセリフが放たれた。
レックは思わず、叫んだ。
「ヤダ、かっこいい――」
レックは、乙女のしぐさで、スーパー・ロボットを見つめていた。もはや、新たな技を試そうとか、そういった気持ちは吹き飛んだ。
気分は、守られるヒロインだ。
コハル姉さんは、お怒りだ。
「もぉおおおっ、ラウネーラが来たら、いつも、こうなんだからあああっ」
見せ場が、取られたのだ。アーマー・マシンガンちゃんは両手を天に掲げて、ヘビー・マシンガンを乱射していた。
流れ弾が、グレート・ラウネーラ様に当たらないか、心配だ。
忍者が、現れた。
「ふ――コハルもまだまだね、忍びは、忍んでこそだから」
派手なピンクのしのび装束で、どの口が言うのか。おひさしぶりの、忍者スタイルの登場だ。
オユキ姉さんが、くのいち姿で、レックの隣に控えていた。
主は、レックなのだろうか。
「はい、お着替えね?」
パステルブルーの、お着替えが現れた。
ガサゴソと、レックのランドセルの中に入れていた衣装を取り出していた。どうやら、最初から、そのつもりだったようだ。
くのいちファッションを手にして、レックはつぶやいた。
「なんでやねん」
なぜか、関西弁だった。




