エルフの国は、スーパー・ハード:3
レックは、震えていた。
パステルブルーのランドセルも、震えていた。
本日の装いは、ランドセルというエルフ姉妹である。レックも当然、ランドセル姿であり、さらに当然のように、ミニスカ姿である。
ハンモックに、ひらがなで『ゆうしゃ』と記されていないだけ、マシだったのだろうか、小学生は私服が普通なのだが………
ハンモックであって、なにがおかしい。ミニスカートが大きく震えて、レックはビビリまくっていた。
「ははは、やってやる、やってやるっ」
ヤケだった。
裸眼ではまだ厳しい距離だが、魔法の力のおかげで、視力は双眼鏡レベルだ。ロードと言う、10メートルサイズの巨大なオーガの皆様が、レックめがけて突進だ。
しかし、目の前には、すでに3つの水球が生じているのだ。すぐに――
コハル姉さんが、のんびりと教えてくれた。
「ほらほら、バリア、バリア~」
「へぇ~、バリア、張れるようになったの?」
オユキ姉さんものんびりだが、口にすると同時に、バリアを生み出していた。以前のオークとの戦いにおいては、レックもバリアに包まれて、安心であった。
岩石や丸太が、雨あられと降り続いても、安心してレーザーを放てたものだ。
本日のレックは、範囲外だ。
「ぐっ、バリアっ」
レックは、あわててしゃがんだ。
そして、腕を左右に広げる。
攻撃モードから、無防備宣言をしたようにも見える。しかし同時に、3つの水球は大きく姿を変えた。球体から楕円に、平面へと瞬間的に広がった。
レックの、防御体制だった。
「た、たのんますよ、バリアさん。たのんす、たのんます………」
熱水レーザーの魔力をそのまま、平たくしたバリアである。
巨大な虫眼鏡が3枚、重なるようにレックの前方向に集まった。範囲は狭いが、3角形のテントが頭上に展開された。これで、何とかなるだろう。
スキル・スフィアバリアと自称する、水球の変化である。
呪文のように、繰り返しバリアさんにお願いをしていたレックは、その効果を味わうこととなる。
「たのんま゛ま゛ま゛ぁあああ――」
コハル姉さん曰く、とても効率の悪いバリアだという。
オユキ姉さん曰く、だからこそ、いい――という。
岩石や丸太の雨あられが、周囲に降り注いだ。前回はコハル姉さんのバリアで安心だったが、初めて自分で食らうのだ。
レックは、涙目だった。
エルフ姉妹は、のんびりだ。
「またも勇者(笑)の新たな技です。今までバリアを張ることができなかった勇者(笑)レックは、ようやくバリアを得ることになったわけですが――」
「なんとも強引と言うか、本当にバリアと呼んでいい代物なのか、微妙なところですね。しかし、だからこそ勇者(笑)だと、私は言いたいです」
またも、評価は高かった。
そして、評価が高いために、本日のレックはバリアの範囲から外されたわけである。遠くからの岩石や大木の雨あられ程度なら、自力でバリアできると認められたのだ。
これは、喜んでいい場面なのだ。
ただ――
「ぐっ………安全って、分かっていても――」
恐怖は、別である。
10メートルを超えるオーガの群れは、投げつける色々も、かなり強烈であった。
カノン系と、同等以上の攻撃の嵐であろう、轟音が続いていた。油断をすれば、その瞬間に意識が吹っ飛び、一巻の終わりだ。
身震いしつつ、レックはバリアを維持する。
その上で――
「ふふふ………バリアのままでは攻撃できないと、だれが決めたっ!」
余裕の笑みだった。
ビビリのレックだったが、すでに調子に乗り始めた。さすがにヤバイと思っていたが、思ったほどの攻撃ではなかった。
虫眼鏡が重なった部分が激しく渦巻き始めた。
トルネードの、渦巻きであった。
「行ける、行けるぞ………バリアは弱まってない、なら、いけるっ!」
涙目で、ヤケと教えている。
バリアを張ったまま攻撃をする。それは基本であると、コハル姉さんは厳しかった。巨大なバリアを張ったまま、両手でヘビー・マシンガンを撃ちまくったエルフちゃんである。竜巻ジャベリンもまた、バリアを張りながら、たくさん生み出すエルフちゃんである。
では、レックにはどのような攻撃手段があるだろうか。
解説が始まった。
「おやおや、レック選手、ついに壊れたか?」
「初めて自分で攻撃を防いでいるわけですからねぇ~………ボウヤには早かったということでしょうか?」
ちょっと、ひどかった。
前世の浪人生は、言い方っ!――と叫んでいたが、もちろん、レックの脳内から出ることのない響きである。
しかし、これは芸人で言う“フリ”である。
ピンチに見せかけて、実は――
「トルネードっ!」
レックは、叫んだ。
最初のトルネードに比べても、威力が劣るようには見えない、熱水トルネードが放たれた。
そして、バリアは激しく輝いたままだ。
オーガの攻撃は、岩石や木材の雨である。威力は砲撃の雨といっても過言ではなく、一瞬でもバリアを解除すれば、ゲーム・オーバーである。
コハル姉さん達エルフはともかく、レックには絶体絶命のはずだった。
ニヤリ――と、笑みを浮かべた。
「バリアモードでは、なぜか、水球は消えないのだよ――」
不思議であった。
水球に込められる威力は、確かに大きくなった。最初の熱水レーザーの数倍と思われる、それは、発射される時間や威力からの推測だ。
それが、3つである。全力で放てば、息も絶え絶えの、全力疾走の後と言う有様のはずだが………
レックは、なぜか余裕だった。
解説が始まった。
「おや、先ほどは倒れそうだったのに………どういうことでしょうか、コハル師匠さん」
「はいはい、実は、私にも謎なんですが………そもそも、勇者(笑)レックの魔力は、あのトルネードを連射しても余裕だと思われます」
「あぁ、映画のエンディングの、アイテム・ボックスのシーンですね?」
「はい、第一回の魔力値計測大会で、皆さんが大バクチをしたのも――」
オユキ姉さんの質問に、コハル姉さんが答えていく。
レックも気になったので、耳を澄ませる。どうせ、上映会はリピートをし続けるのだ。録音されているだろうか異説は、何度でも聴くことが出来るだろう。
それでも、気になってしまうのだ。
再び攻撃できる魔力がたまるまで、レックは聞き耳を立てていた。
「アイテム・ボックスは本人の魔力に頼っていますからね。いくら効率がいいと言っても、オーク100匹が入るアイテム・ボックスであれば………」
「なるほど、魔力もそれだけ膨大。勇者(笑)は、まだ、自分の力を使い切れていないわけですか」
「そうなんです。なので、バリアのための水球を3つ維持しつつ、新たに3つの水球を生み出して攻撃――と言う方法も、取れるはずなんです」
なるほど――と、大げさに納得の解説のエルフ姉妹。
レックもまた、納得だった。
エルフの皆様は、レックの魔力がエルフ並であると思っていた。その根拠は、アイテム・ボックスだったようだ。
レックは、大声を上げた。
「はいはぁ~い、次の攻撃、いっきまぁ~すっ」
ちょっと、投げやりだった。
もう少し、しゃれた言い回しが出来ないだろうか。レックはそう思いつつ、十分にチャージされたトルネードが、再び発射された。
横一文字に、ゆっくりと切り裂いていった。まだまだ遠くのオーガの皆様であるが、レックの強化された視力でも、十分だ。
巨体であるため、かなり遠くでも、良く見える。
「うげ………最前列が、真っ二つ?」
こちらに突進中の皆様が、達磨さんが転んだ――状態になって、ちょっとグロテスクであった。接近により、くっきりと姿が見えるようになったために、悪夢に出そうだ。
あぁ、都市伝説のように出てこないで欲しい、ホラーは勘弁だ。
グロも、苦手だ。
そして、不思議だった。
「そうだよなぁ~………トルネードを撃って息切れするなら、いまも息切れしてるはずなのに………なんでだろ」
念のため、アイテム・ボックスから栄養ドリンクを手にする。
コハル姉さんお手製の高級ポーションである。本来は、ルペウス金貨がたくさん飛んでいくのだが、栄養ドリンクの代わりである。
疲労回復なんでもありの、気分のリラックスも出来る優れものだ。
レックの魔力がエルフ並なら、息切れの必要もないはずだが………
「コハル姉さんは、竜巻ジャベリンを連射だもんな。しかも、バリアして」
上級魔法なのだろう。中級のジャベリンに色々アレンジと言うか、凶悪さをたっぷりと加えた魔法だった。
エルフ並と言う言葉が、脳裏をよぎる。
怒りの雄たけびが、はらわたを揺さぶる。
「「「「「ぐがぁあああああああっ、ぐがぁああああっ」」」」」
先ほどは恐怖に支配されかけたが、まったく違うことを考え始めたおかげで、かなり余裕になってしまった。
巨大モンスターの、大発生。
それは、国が滅ぶ災害のはずだが、どこか余裕になっているのは、エルフの国の場合は、日常だからと思う。
巨大すぎる木々に覆われているのは、魔力があふれすぎている土地の影響である。ならば、自然と発生するモンスターも数が多く、しかも巨大だ。
エルフとは、そんな環境でのんびりと過ごすことが出来る種族なのだ。
「バケモノたちが、ただのエサ………やっぱ、ファンタジーに出てくる悪魔とか色々、エルフの別の顔ってだけだったりして――」
冷静にチャージをしつつ、つぶやいた。
「もう一個、いけちゃう?」
両腕を前に伸ばしている。
ハンドガンを握っている、その先に輝く水球は、3つだ。握りこぶしサイズで、見た目だけであれば、中級魔法のウォーター・カノンと言うものらしい。
込められた魔力の圧力は桁違いで、レーザーの照射時間は数秒である。それは、カノン系の攻撃を連射しているに等しいらしい。
貫通力があるため、ジャベリン系の攻撃が近いとも言われた。
《《4つ目》》が、現れた。
「おぉ、いけた――」
「なんと、勇者(笑)はここに来て、新たに水球を生み出しました」
「いやぁ~、戦いで成長するとは、さすが勇者(笑)といえましょう」
エルフ姉妹も、ご満悦だ。




