エルフの国は、スーパー・ハード:2
マッチョなオヤジが、現れた。
オーガを見て、レックが最初に抱いた感想である。
地獄の鬼たちがあふれ出たという恐怖を覚えさせて………オヤジという感想となったわけだ。
「ギルマスの親戚か、兄貴達のオジキか………」
心当たりが、たくさんあった。
解体職人のエルフたちは、地獄の門番といわれても納得のマッチョであった。2メートルを超える長身は分かるが、横幅も含めて、エルフのイメージがぶち壊しだった。
むしろ、悪魔とか、鬼とか、そういった種族であって欲しかった。
見慣れた姿であろう、エルフ姉妹は、のんびりとしていた。
レックは、念のために確認をした。
「オーガって………食用には見えないっすね」
冗談ではなく、ただの確認である。
オークを食用とするのは、人間も同じである。豚肉の二足歩行モンスターと言う表現である。
しかし、エルフたちは、どうなのだろう。
「ゴブリンと一緒で、食用と言うより、エサ用よ」
「ですので、《《家畜に襲われないように》》と――ほらほら~」
足元には、うなり声が群れを成している。
エサの時間かと、大合唱だ。
あれでモンスターではないとは、冗談にもならない。いいや、モンスターと言う分類には間違いがないのか、家畜となっているドラゴンたちがいた。
レックは、遠くを見つめた。
「下手すりゃ、オレもエサ?」
足元は、エルフの国の牧場だ。
ドラゴンといっても、たくさんの種類があるらしい。エルフの牧場にいるのは、養豚場の豚のようなドラゴンたちだ。尻尾のとても短い、脚も恐ろしく短いトカゲのような姿である。ワニを養殖するように、ここではドラゴンを養殖していた。
レックは、やけになった。
「いいでしょう、新たな勇者(笑)の伝説の、ココからが本当の始まりだぜっ!」
どこにカメラがあるのか、カメラ目線で調子に乗った。
ハンドガンをツー・ハンドに持って、格好を付けた。両手をクロスさせて、くるりと半回転だ。
「修行の成果を、見せてやる」
魔力を、集中させた。
コハル姉さんに引っ張りまわされた日々は、気付けばレックに力を与えていた。エルフの国での土木作業しかしていない気がするが、スキルは会得していたのだ。
脳内では、ぴろりろりん――という、効果音もセットだった。
――スキル・ツインレーザーを会得しました
――スキル・スフィアバリアを会得しました
――スキル・トルネードを会得しました
全て、脳内の出来事である。
しかし、手にした力はホンモノだった。
「レーザー・照準っ」
両手を前に突き出すと、水球が《《3つ》》生まれた。
なお、“照準”というスキルは会得していない、ただの気分であった。
「結局、レーザーよねぇ~」
「レックは器用なんだか、不器用なんだか………」
評価は、散々だった。
レックは、聞こえなかったことにして、集中する。標準スキルは会得していないものの、大木を伐採する日々は、確実に射撃の経験をつませていた。
前世の浪人生の口癖が、口から出た。
「やるんだレック、お前は出来る子、出来る子レック」
口にしながら、やる気がなぜか下がっていく。いやな前世の記憶でも、混ざってしまったのかもしれない。
出来ると口にするたびに、もっと出来る人たちと自分を比べて、やる気が激下がりした日々である。
エルフと比べたレックは、それはもう、自信過剰が起こる隙間のないほどに、バッキベキに、心が折られた日々である。
レーザーが、発射された。
「トルネードっ!」
ヤケだった。
そして、新たなる力である。熱水レーザーを3つ生み出せるようになったおかげで、新たな方向性も見えた。
水鉄砲はレーザーではなく、水であると思いついたのだ。もしかして、コハル姉さんのように、竜巻の威力を加えられるのではないか――と
結果は失敗だったが、しかし、レックは強引に、トルネードを実現した。レーザーを3つ合わせることで、トルネードといっても恥ずかしくない魔法を生み出したわけだ。
大木を伐採するために生み出された、切り札だった。
「さぁ~て、勇者(笑)レックの新たな技です。解説のオユキさん、どうご覧になりますか?」
「そうですね、スクリュー系に変化させたのはほめていいでしょう。そして、3つ合わせることでトルネードの威力にしたことも、ほめたいところです」
おや、意外と高評価である。
レックは、さっそく調子に乗り始める。すでに放出されたトルネードであるが、高圧であるため、当たれば大木でも容赦なく穿っていく。
かつて、オークのボス3兄弟を相手に、1匹ずつ相手にしたレックだ。カノン系の威力があっても、10メートルを超える巨大オークのボスの人は、しばし耐えたのだ。
触れるだけでは、かすり傷だった。
そのための、トルネードだ。
「ふぅ~ん、なかなかやるじゃない」
「えぇ~、勇者(笑)さまは、着実に成長しているようです」
背後のエルフ姉妹が、うれしそうだった。
思ったよりも威力があったのか、実況もおざなりに、本気で驚いているらしい。
魔法の作用のおかげで、視力は望遠鏡に匹敵している。かつてレーザーでオークの皆さんを横なぎに切り裂いた光景が、再現されていた。
レックは、片ひざをついていた。
「ぜぇ………ぜぇ………みたか、これがオレの新たな力だ」
両手にハンドガンを持ったまま、地面に手をついていた。
魔力の効率が悪いのか、心理的なものであるのか、レックは全力の一撃を放つと、すでにお疲れだ。
甘い香りが、ちょぼちょぼと、頭からかけられた。
「せめて、自分でポーションを飲みなよ………」
コハル姉さんが、優しさと共に、ポーションをかけてくれた。
もう少し優しい言葉であって欲しいが、十分な優しさといえる。一人で戦えと言われつつ、お手伝いをしてくれているのだ。
遠くでも、掛け声が上がった。
「「「「「グガァアアアアアアアアアアア」」」」」
心臓をわしづかみにする、いい恐怖だった。
レックはビビリまくり、このまま逃げ出したい気持ちになった。ポーションをかけてもらったばかりであるため、無駄に元気なのが、悲しい。
リラックス作用もあるのだろうか………
「ちょっと前のオレなら、絶対、逃げてるな」
本音では、気絶してる――と言いたかった。
今も、出来るなら気絶をして、その間に、誰かに何とかしてもらいたい気持ちである。レックは調子に乗りやすい少年で、そして、ビビリなのだから。
見抜いているエルフ姉妹は、にっこりと微笑んだ。
「がんばってね、お兄ちゃん♪」
「ガンバです、《《お姉さま》》♪」
コハル姉さんはいつもの応援だが、オユキ姉さんは、ちょっとひどい。
そして、己の姿を思い出して、レックはまたもうなだれる。ミニスカートであるため、もしかすれば、撮影に映ってはいけないものが映ってしまうかもしれない。
だが、かまうことはない。
レックは、立ち上がった。
「かかってこいやぁあああっ」
ヤケの、パート2であった。




