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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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ハイエルフと、エルフの神様


 エルフ

 ファンタジーの代表種族であり、あこがれであり、神聖な存在であった。

 マッチョだったり、昭和の町並みにおぼれていたり、酒におぼれていたりと、かなりイメージがぐらついたが、エルフなのだ。


 では、エルフの始祖とも呼べる種族はどうだろうか。俗世を捨てたイメージのエルフから、さらに距離を持つ種族。ハイエルフは、どのような存在なのだろうか。


 レックは、叫んだ。


「ちっきしょぉおおおお、日本人めぇえええええっ」


 ランドセルが、目の前だ。

 いったい誰が持ち込んだというのか、ハンモックに園児帽に縦笛をランドセルにさしたスタイルのエルフ様が、絵本を読んでおいでだった。

 ご丁寧に、ブランコにのっておいでだ。子供時代を懐かしむOLとして、ちょっと可愛げのあるシーンとも言える。

 ハンモックを身にまとい、ランドセルを背負っていなければ――である。


 コハル姉さんは、うれしそうだ。


「ご先祖さまぁ~」


 両手をぶんぶんと振って、ラベンダーカラーのランドセルが、輝いている。いったいどのような仕掛けがあるのか、ロケット噴射で空を飛んでも驚かない。

 もちろん、レックもランドセルだ。


 可愛らしい、パステルブルーだ。ピンクはオユキ姉さんのお気に入りカラーだ、もちろん、お譲りした。


「お久しぶりです………ナウな姿も似合ってるぅ~」


 くのいちポーズでひざをついていたのに、クールな格好をつけるのは、短時間に終わるのがオユキ姉さんだ。

 ふざけているだけなのだ。


 レックは、泣いていた。


「ハイエルフ様が………あぁ、神聖にして、最強のエルフ様がぁああああ」


 ランドセルとは、思わなかった。


 見た目はエルフと変わらない。

 おそらくはそのままの姿で、長い時間を生きているのだろう。エルフの森の中で最も古い木々に覆われている、児童公園だった。


 レックたちが伐採するように、時折伐採されているらしい。木々の上に新しい木々が重なっている姿は、迷路である。

 100メートルを超える大木が倒れるシーンは、いまでも恐怖である。更なる恐怖は、倒れて数分で、新たな大木が生えてくることだ。


 何百年もかかると思っていたが、数分で50メートルを超えるサイズの大木が生えてくるのだ。

 膨大な魔力のためと言うが、少しは遠慮して欲しかった。


 ハイエルフさまは、優しく微笑んだ。


「もう勇者(笑)が来たのね?」


 黄金のロングヘアーがまぶしい、ランドセルを背負った美人様が、近づいてきた。マダムと言う年齢に見える、目の前にいるだけで、ドキドキする美しさだ。


 残念なことだと、鼓動は落ち着く。

 女子高生を自称されるよりマシであるが、ランドセルを背負っている時点で、有罪決定である。


 レックは、うなだれながらも挨拶をした。


「はじめまして、勇者(笑)のレックです」


 笑顔が引きつるくらいは、許していただきたい。

 神秘的な気配など、欠片も持ち合わせていない。お孫様どころではない皆様もご一緒に、悪ふざけをしているエルフなのだ。


 この親にして、この子ありと言う言葉がある。

 まさに、このハイエルフだからこそ、自由なエルフたちと言うことだ。


「ところで――」


 レックは、ハンモックが似合う幼児を見つけた。

 ランドセルが大きく、ちょっとバランスが悪そうだ。ブランコに座っているが、いまにも落ちそうになって――


 転げていた。


「あらあら、大丈夫ですか、《《神様》》」

「あはは、《《神様》》にはちょっと早かったかな?」

「主様………ほぉ~ら、アメちゃんですよぉ~」


 ハイエルフ様を筆頭に、エルフたちがちょっとおかしい。

 《《神様》》とか、ほざいていた。見た目には、ハイエルフ様の子孫に思えた、耳が肩幅まである幼児に思える。


 ここは魔力が満ちている、魔力を肌で感じるというか、魔力の塊の中にいる印象であるために、気配は感知できないのだ。


 中心が、ここなのだ。


「あの………聞き間違いかなぁ~、ボク、《《神様》》って聞こえたんですけどぉ~」


 冷や汗を、かき始める。

 エルフたちにとっては親戚同然でも、外からやってきた人間にとっては、お会いすることが許されるだけで、驚きなのだ。


 エルフたちの、神様のようだ。


「えぇ、私達の始祖の子供の子供の分身の………とにかく、神様」

「うん、私、神様」


 お子様が、偉そうだった。

 そして、どこかを指差していた。今まで気付かなかったのは、どうかしている。巨大な木々の合間から、巨大な木々が見えていた。


 レックは知っている、ファンタジーでお約束だと、知っている。


「………世界樹――?」


 世界樹だった。


 魔力が集まりすぎて、一線を隔す存在になる。

 人々が恩恵を求めて集い、あがめることもあるという。そういった存在を表す言葉が、神なのだ。

 衝撃の告白だった。


「あれも、私」


 目の前の姿は、分身と言うか、人と話すときの姿らしい。すなわち、お遊びであり、アバターであり………


 レックは、土下座をしていた。


「へへぇえええ~」


 下っ端パワーを全力で、土下座をしていた。


 前世は信心深さとは無縁の、その他大勢の日本人と同じであった。

 正月にはテレビで参拝をし、人口密度が高すぎる神社の映像をのんびりと眺めていた。クリスマスにはケンタッキーの香りにほほを緩ませて、そして、結婚式のBGMを遠いことに聞き流す浪人者であった。


 神は、目の前にいた。


「えっへんっ」


 えらそうだった。


 そして、えらいのだ。

 エルフにとって遠縁の親戚で、神様と言う存在らしい。意味が分からないが、始祖とも言うハイエルフは、このお子様の祖先に当たる木々から生まれたという。

 その木々が世代交代を重ねて、目の前のお子様だ。


 世界樹も、何度か世代交代をしているようだ。そのサイクルが何千年か分からないが、この森そのものがエルフであり、神様ということらしい。

 これでは確かに、周囲100キロメートルを緩衝地帯にしても当然だ。


 驚きの事実も、暴露された。


「勇者が生まれたってことは、大発生もそろそろね?」


 レックは、青い顔になった。

 そういえば、いつかの宴会で耳にしていた。『大発生』とは、いったいなんなのか。レックが転生者であることに、意味があるのか――


 関係は、あるらしい。


 世界に魔力があふれすぎたための、突然変異と言うか、嵐のシーズンと言うか、そういったものらしい。

 転生者の誕生は、モンスターの大発生の知らせなのだ。転生者が不幸を運ぶという意味ではないが、代々の日本人は、その話を聞いて燃え上がったという。


「いつからかなぁ~、使命を果たす時だ――って、燃え上がっちゃってねぇ~」

「オレは、勇者だったのか――ってね?」

「選ばれし者の定めか――とか?」


 レックは、うなだれた。

 日本人イコール、やらかす人々と言う伝統を忘れていた。転生した皆様は、魔法と言う存在に驚き、そして、シュチュエーションに燃え上がったわけだ


 前世の浪人生は、腕を組んでいた。

 やはり、選ばれし勇者だったのか――と


 能天気なことだと、レックはあきれた。同時に、心は燃え上がり始めた。歴代の転生者たちも、与えられた使命に立ち向かってきたのかと。


 今度は、オレか――と


 その手のゲームがいつからあったのか、選ばれた勇者の伝説は、いつから始まっていたのだろうか………

 今でこそ、中二と言う専門用語が市民権を得ているが、それ以前から燃え上がる人々はいたはずだ。


 レックは、空を見上げていた。


「新たな勇者の伝説が、いま、始まるのか――」


 立派な、中二であった。

 そんなレックのそばに、トコトコと、小さなランドセルが近づいてきた。


「ここで、お兄ちゃんにお知らせでぇ~す」


 背後には、見知った金髪ランドセルがいた。


「フラグ――って言うのよね、たしか」

「そうそう、レックはよくフラグった――って、言ってるものね?」

「………フラグ?」


 レックは、小首をかしげる。


 いやな予感が、鎌首をもたげるという。それを前世の専門用語では、こういうのだ。


 フラグだ――と


 エルフたちは、にこやかに微笑んでいた。




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