エルフの国の、観光地
巨大な葉っぱのカーペットが、畳の雰囲気を出している。
ふかふかな巨大な葉っぱの上に、綿がたっぷりの布団がある。オリジナルの和風のデザインだ。
レックは、見慣れた和室を見渡した。
「この和室にも、すっかり慣れちゃったな………」
布団はたたまれている。レックは巨大な葉っぱの上に胡坐をかいて、ぼんやりと見渡していた。
『えるふのおやど』にお世話になって、どれほどの日が経過しただろうか。魔法の練習と言う名目で、森林伐採に精を出す毎日である。
アイテム・ボックスの収納限界がある。そのギリギリまでの荷物運びは、いい練習になった。
この光景は、お久しぶりだった。
「山ほど買ったけど………使わないなぁ~」
巨大な葉っぱの上には、マジカル・ウェポンシリーズが並べられていた。
リボルバーに、15発入りのハンドガンが2つ、マガジンもたっぷりだ。近接戦ではショットガンで、遠距離にはスナイパー・ライフルと、そろえてある。
切り札のマグナムも、最近は出番がない。
レックはバイクの一人旅を決めてから、武器をたっぷり買い込んだ。それなりに乱射をしたつもりだったが、部屋に並べてみると、まだまだ、余裕がある。
弾丸を込めるタイミングを考えると、一度の戦いで使う弾丸には、限度があるのだ。
弾丸を一つ、手に取った。
「やっぱ、乾電池だよな………」
見た目どおりであった。
サイズも乾電池と同じく様々に、箱詰めされたものから、あふれ出たものから、山積みだった。
乾電池シリーズが、並んでいた。
「単四の半分の長さがハンドガンで………ライフルは単三かな。弾丸って言うより、ビームみたいに………ファンタジー武器っていうか、SFっていうか――」
転生者に、独特の感覚だった。
地球の武器の名前とデザインを使っているが、名前とデザインだけである。内部機構や、発射されるビームなど、この世界のものだ。
ショット系や、アロー系の魔法攻撃を再現するためのアイテムだ。
弾丸のサイズで威力や種類が異なり、ショットガンやライフル、マシンガンと種類も豊富である。
収集欲求が、湧き上がる。
「フルコンプ、いっとくか………サブマシンガンに、ヘビー・マシンガンに――」
将来の保険のために、無駄遣いは自重したのだ。
オーク肉を買い取ってくれたおかげで、金貨も山積みになっている。今なら、贅沢をしてもいいのではないかと、誘惑が大騒ぎをしていた。
扉が、開かれた。
「おっきろぉ~っ」
突然だったが、いつもの光景であった。
住まわせてもらっているとはいえ、レックのお部屋にプライベートはないらしい。お子様エルフが、突撃してきた。
多くの場合、コハル姉さんである。
「お出かけしようっ」
見た目12歳は、宣言した。
本日の気分は、大正ロマンのはかま姿に、サイドポニーテールのようだ。まだひょろ長いというか、お子様ボディーにおいて、服に着られている印象もある。
元気いっぱいに大騒ぎだ。
「おしゃれしないと」
「ヘアスタイルもおそろいにしないと」
なぜか、レックの両サイドにエルフがいた。
忍者スタイルがお好みのオユキ姉さんと、エルフたちの母親――ではなく、長女(自称)のエリザベートお姉様である。
はかまに振袖の、大正ロマンというお召し物で、《《4姉妹》》がおそろいだった。
つまりは、レックも着せられるわけだが………
はかまは、ミニスカバージョンだった。
「髪飾りは――」
「リボンはおそろいで――」
「はかまの色は赤?」
30分という、着せ替え人形の時間の始まりだ。
そして――
「長女の私はお留守番なの、残念ねぇ~」
「私も一緒にお出かけしたかった………《《お姉さま》》、よろしくね?」
エリザベートお姉様に、オユキ姉さんの見送りを受けて、レックは旅立つ。では、一体何のためにおそろいにしたのか。
そんな疑問は、無意味である。なぜなら、彼女達はエルフなのだから。そしてレックは、すでにあきらめている。
《《4姉妹》》として過ごしている、オユキ姉さんには《《お姉さま》》と呼ばれている日々である。
「では、行ってきますです………はい」
リーダーのレッドの振袖に、ミニのはかまは紺色と言う色あわせだ。太ももが、とってもまぶしい。
コハル姉さんに、手を握られた。
「ほらほら、お兄ちゃん、こっち、こっち――」
淡い水色の振袖に、紺色のはかまはおそろいだ。
彼女いない暦イコール年齢であるのは、前世だけではない。レックも悲しく自由の日々である。
相手が美少女であるばかりに、ドキドキが止まらない。レックの心を見透かしていると思うのは、考えすぎではあるまい。
レックは、ドキドキが止まらなかった。
「ぎぃいいいやぁああああ~………」
悲鳴を上げるのは、いつもの勇者(笑)だった。
レックの手を取ったコハル姉さんは、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。
空中を走る遊歩道は、エルフの国のいたるところで目にする。頭上に、目の端に、どこかにつながっている。
目的地であるエルフの遊歩道へと到着した。
「ぜぇ………ぜぇ………」
「お約束………ってやつね」
ちょぼちょぼと、ポーションの香りが最後の希望だ。レックはコハル姉さんの冷たい目線に気付かない振りをして、呼吸を調えた。
その間にも、進むのが遊歩道である。
巨大な木々が支配する世界では、必須の移動手段である。
前世の町並みで言えば、ビルの間を縫うように走る高架橋や高速道路のようなものだ。日常に溶け込み、物資を運ぶ、動脈と例えられる。
やや、SFなだけだ。
さもなければ、巨大な木々の根っこで通行止めを食らうか、ロッククライミングを強いられるのだ。
エルフでなければ、とても暮らしていけない。勇者(笑)の訪問が娯楽になったのも、旅人が少なすぎることが理由のはずだ。
コハル姉さんは、満面の笑みだ。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
無邪気なお子様を演じて、勝利の笑みが、とってもまぶしい。
有名な怪盗の3代目様の姿が、思い出された。
美人に何度も騙されても、それでも騙されてやるのだ。わかっていても、騙されていくのだ。
あぁ、こういうことだと、なんとなく感じた。
「次のマジカル・ウェポンは、『ワルサーP38』に決まったな」
日本人の転生者がいれば、再現してくれるはずだ。
何でも切れる日本刀はムリでも、見た目だけでも、近づけようとするはずだ。とことんこだわれば、大赤字を覚悟で再現するのが、マニアなのだから。
遠くを見るうちに、景色は瞬く間に変わっていく。空中の遊歩道のマジックである。前世の遊歩道は負けている、風の圧力や、後ろに引っ張られる感覚がなく、気付けばバイクの速度で進んでいるのだ。
懐かしき昭和の町並みが、目の前だ。
「やっぱ、新しい町はいいなぁ~」
「ははは、そうッスねぇ~」
不思議な空間だ。
木々に覆われた森の隙間に、セメントによる長方形のジグザグとしたホテルが現れるのだ。
ガラスのようなもので目玉を作っている。前衛的なホテルがあった。
『メゾン・セメント』
カタカナで記されているあたり、努力の成果が見える。ひらがなだけでなく、カタカナも普及しているらしい。
縦書きで、ネオンサインが目にまぶしかった。
「ほら見てよ、みんなナウよねぇ~」
「ナウ………っすねぇ」
ナウがどういう意味か知らないが、レックはゴマをするだけだ。
服装は、古きよき昭和を再現した映画セットの住人だ。
着物にはかま姿という、大正ロマンの服装もいる。男子は年齢にこだわらず、ハーフマントとの学生服に、カラン、コロンと言うゲタを履くのだ。
彼方には、円盤があった。
どこかの万博で見た、円盤がキノコのように円柱の建物の鉄片や中腹にある。円盤のサイズや形も、良く見れば様々だ。
平べったいホットケーキのような形状から、帽子のように凹凸があるものから、またはキノコの形状を演出したりと、工夫が見られる。
まるで、巨大キノコの王国だ。
そういえば、エルフの国には巨大キノコも歩いていたのだ。町並みにまぎれていれば、分かるまい。
そう思っていると、見慣れたデザインが目に飛び込んできた。
「まさか、まさか………」
前世の浪人生が、おののいていた。
逆さまのピラミッドが、そこにはあった。
「聖地………だと?」
クリスタルがシンプルな、マリンブルーのガラス張りの印象だ。
ただし、1つだけだ。
ホンモノの聖地は、2つのピラミッドである。再現するための建築技術がないのか、口伝えであるための誤解なのか、分からない。
このまま進めば、祭りに遭遇するのではないか、そんな予感に震えながら、レックは恐る恐ると、歩みを進める。
「あるわけが………いいや、あってはならないはずだ、薄い本の祭典など――」
そこまで汚染しては、大変だ。
スーパー・ロボットに、変身ヒロインに、おそらくはベルトで変身するヒーローは、バイクにまたがっているだろう。恐竜にまたがったおっさんがいたのだ、確実にいる。
薄い本が、山積みになっているのか。
まさか、エルフのお姉様方が、腐り始めているのではないか、そんな目でレックを見始めているのではないか………
腐腐腐腐………と、笑みを浮かべるシーンがリアルに想像できて、背筋が凍った。まさか、本日のお出かけにオユキ姉さんがご一緒しなかったのは――
レックは、固まった。
『レーザーっ!』
上映会をしていた。
もちろん、立体映像である。そして、迫力の大型スクリーンと言うか、巨大なレックが叫んでいた。
「最新の映画館なの。ほら、あのクリスタルがね――」
コハル姉さんが、自慢していた。
レックは、呆然と聞き流していた。自分達の活躍が、毎日上映されているというのか、このエルフの最新の都市の、最新の建物が恨めしい。
逆さまのピラミッドは、もしかすると、エルフの国の上空に、立体映像を映し出す力があるのかもしれない。
エルフの国は、まだまだ奥が深そうだ。
コハル姉さんが、レックの手を握る。
「明日は、神様のところにいこうね?」
爆弾が、落とされた。




