表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
64/262

魔法の基本は、連射だった


 エルフの国は、100メートルを超える巨大な木々でいっぱいだ。


 町は、木々の隙間にある、小さな空き地でしかない。例えるなら、広大な砂漠に点在する、オアシスのようなものだ。牧場に交易の都に、そしてもちろん、古きよき昭和の町並みがある。

 そして開発中の土地と言う、荒野も存在した。


 コハル姉さんは、仁王立ちだった。


「いいわね、《《レック》》。ちゃんと見てなさいよっ」


 腰に手を当てて、偉そうだった。

 レックの名前を呼び捨てにして、師匠を演じているようだ。あるいは、お姉さんぶっているお子様だろうか。

 周囲には輝く小さな星が、ピカピカと光って、目がチカチカする。指先サイズの小さな輝きが、少なくとも10ヶは輝いていた。


 そして――


「ショット系でも、連射すると――」


 ドドドドドド――


 連射された。

 標的は、伐採ばっさい予定という巨大なる大木であった。根っこをめがけて連射して、大量の土煙と共に、木片も飛び散った。

 二人のミニスカートも、激しく波打っていた。コハル姉さんは白で、レックは紺色のセーラー服であった。


「すげぇ………下級魔法なのに――さすが、コハル姉さんっす」


 レック――と、名前で呼ばれるようになったのは、いつからだったろうか。下っ端パワーは今日も絶好調に、ゴマをすっていた。


 ここは、闘技場ではない、エルフの国の荒野だった。練習のための場所だと分かる、草がまばらに生えているだけの、荒野だ。ついでに土地開発をして欲しいという、練習場である。


 レックは、最近はこの練習場へ通っている。


「えっと、レックの世界だと『3点バースト』って言うんだっけ?もうスクロールにも載ってると思うけど………見ての通り、連射すれば中級くらいの威力になるのよ」


 コハル姉さんの周りには、光の粒が回っていた。

 コハル姉さんによってミンチにされた、オークたちの魂のようにも見える。もちろん違う、指先サイズの、ショット系の輝きであった。


 弓矢の攻撃よりは威力があり、並みのモンスターであれば、十分だ。先ほどは10粒以上を連射して、砲撃並みの威力を誇った。


 そして――


「カノン系なら………このくらいかな?」


 指先サイズの輝きが、今度は握りこぶしサイズになる。

 レックも生み出している、水球サイズだ。中級の攻撃魔法の一つ、カノン系の輝きである。属性があれば、ファイアー・カノンや、ウォーター・カノンと呼ばれる。

 サイズのだけでも明らかに、威力が高そうだ。


 即座に、連射された。


「………うわぁ~」


 爆風が、二人のツインテールを激しく揺さぶった。

 ミニスカートも、大きく暴れている。ショットの連射に比べて、桁違いの破壊の嵐であった。

 ドドドドド――と、派手なことだ。

 これでは、ヘビー・マシンガンの連射のほうが、まだ威力が抑えられるというものだ。木の破片は、なにかの燃料にでも使うのだろうか………


「下級魔法だと、貫通力のアロー系に、切断のカット系に………威力を上げると中級で、ジャベリンとか、スラッシュとかになるわけね」


 コハル姉さんは、指折り数える。

 周囲の光の粒は、弓矢の形になったり、三日月の形になったりと、揺らめいている。さすがはエルフである、すべての魔法を使えるようだ。


 レックは『爆炎の剣』のカルミー姉さんに魔法の基礎を教わり、そしてスクロールでも学習している。レックの中で、スクロールというか、ビデオで紹介された魔法攻撃が回想されていた。


 ほとんど習得できなかったが、さすがはロリババだと――


「お兄ちゃん、何を考えていたのかなぁ~?」


 気付けば、レックを見上げていた。

 わざとらしく、『お兄ちゃん』呼びをしているが、瞳は一切笑っていない。レックがここで下手な言葉を放てば、死を意味するのだ。

 具体的には、カノンの輝きに襲われることだろう。衛星のようにくるくると、レックの周囲を包囲していた。


 小物パワーで、対抗だ。


「ははははっ、何をおっしゃいますやら、毎日コハル姉さんの魔法を見せてもらって、もう、驚いちゃって、ボク、こまっちゃうなぁ~」


 どのようにして手に入れた力なのか、レックの命を一番救っているのは、この、小物パワーかもしれない。

 スーパー・ロボットを操る美少女パイロットこと、ラウネーラちゃんの登場以降、ご機嫌が悪くなりやすいのだ。


 幼馴染の女の子同士の対決だ。

 私のオモチャをとるな――という、お子様の警戒心が、丸出しだった。


「あとは、魔力をたっくさん込めて、爆発力がつくの。カノン系の上位でボムって言うのかな。炎属性ならファイアーボール………ひとつで、連射したくらいの威力があるの」


 コハル姉さんは、いい笑顔だ。

 レックの周囲の輝きが、震え始めた。全て、爆発の威力が込められているに違いない。いっせいに爆発すれば、レックごとき、灰も残るまい。

 冷や汗をかいて、必死にゴマをするレック。

 下っ端パワーとも、ザコの底力とも呼ばれる。ひたすらにご機嫌を取ることで、生き延びてこそ、レックなのだ。


 女の子を怒らせれば、命に関わるのだ。


「まぁ、いいわ………前にも言ったけど、レックの本当の力は、まだ発揮できてないわけ。ツイン・レーザーどころか、水球を3つ………ううん、6つ生み出して、いろんな方角から集中砲火も出来るはず」


 宇宙世紀のロボット様のような攻撃が出来ると知って、心がおどった。

 全方位からレーザーを放つのだ。

 その前に、水球をあらゆる場所に発生させる芸当が必要だ。そのための練習として、下級魔法の小さな粒を生み出そうと、色々と練習をしているのだが………


 レックはなぜか、どれ一つ生み出せない。

 イメージする力は、前世の記憶を持つレックである。アニメやラノベその他で、膨大な知識があるはずなのだが………


「なんでオレ、下級魔法が使えないんでしょうかねぇ~………魔力が強すぎるからなんだか………」

「カノン系もムリだったでしょ………なのに熱水レーザーが使えるなんて、さっすが勇者(笑)ってところかな?」


 馬鹿にしているのか、本当に感心しているのか、両方だろう。

 勇者と言う称号は、人々に勇気をもたらす英雄にささげられるはずだが、(笑)が追加されている。


 エルフにとっては、芸人と言う扱いである。


「レーザーみたいに貫通力があるなら、ジャベリン系だけど――」


 コハル姉さんの周りには、今度はやりが生み出された。使用する魔力は、カノン系より上である。

 鋭く、遠くへ届く攻撃として、連射した。


 ドドドドド――と、横並びに発射された。


 大木が、倒れはじめた。


「わわわわ………こ、こっちくる、こっち」


 なぜか、大木はこちら側へと倒れてくる。

 あらかじめ、大木の根っこ近辺をカノン系の連射でボコボコにしていたのだ。 トドメに、貫通力のあるジャベリンの連射だった。

 根っこの付近を狙った、集中砲火である。


 100メートル近い大木の、倒壊である。


「それでね、属性魔法を加えると………って、見てなさいよぉ~」


 レックたちの、ピンチである。

 なのに、コハル姉さんは、まったく動じていなかった。むしろ、パニックになって、逃げようとするレックの態度に、ご機嫌が悪くなっていた。


 だが、レックが腰を抜かして、なにがおかしい。100メートルを超える巨大な大木の、倒壊現場なのだ。直撃を食らえば命はなく、余波を食らっても命がピンチだ。


 レックは、うろたえていた。


「こここ、こっち倒れてますって、ちょ、姉さん」


 大木を指差すレックは、涙目である。

 コハル姉さんは、情けない弟を見る瞳で、残念そうな瞳で、レックを見つめる。周囲には、すでに風が生み出されていた。


 レックがいつか見た、カルミー姉さんの竜巻のようだった。


「それって、カルミー姉さんの――」


 切り札の竜巻が、いくつも生み出されていた。

 魔法は、組み合わせでいくつもバリエーションが生まれる。初級のショット系でも、炎が加わればファイアー・ショットである。

 ジャベリンを中心に、竜巻が暴れている。たくさんの竜巻ジャベリンは、5メートルを超える巨大な槍の群れだ。


「まぁ、時間がないから――えいっ」


 コハル姉さんは、可愛らしく、掛け声を放った。


 ドガガガガガ――


 竜巻ジャベリンが、連射された。

 まっすぐと、大きく影を生み出していた大木へと、たてにはじけさせる勢いで、放たれた。

 そして――


「………2………1――」


 見た目12歳のエルフちゃんは、大きく手のひらを上に上げた。


「どっかぁ~んっ」


 言葉は、ふざけていた。


 轟音ごうおんは、マジだった。

 打ち込まれた竜巻ジャベリンは、貫通力だけでなく、爆発力もあったようだ。100メートルを超える巨大な大木は、たてに真っ二つに吹き飛んでいた。

 エルフにとっては、森林伐採に便利と言う魔法らしい。爆発力を込めたジャベリンを竜巻の勢いで放って、大木を内側から爆発させたのだ。


 人間の国では、一本だけでも神木としてあがめられておかしくないサイズも、エルフの国では、すぐに生えてくる大木らしい。

 こうした練習場が、新たな牧場や新興住宅街になるのだ。


 巨大すぎる一本が今、巨大な木片へと変わった。


「………勇者、いらない?」


 レックは、つぶやいた。

 竜巻ジャベリン(爆発つき)を連射できるエルフちゃんは、いったい何を恐れるというのか。

 先日、レックが苦労して倒したボスのオーク3兄弟を思い出す。必殺のレーザーは、かすっただけではかすり傷で、集中砲火でようやく倒せたのだ。


 一撃で、ミンチだろう。


「勇者(笑)なら、これくらいの芸当は出来るようになると思うけど………どんなオリジナル魔法になるのか、みんな、楽しみにしてるんだからね?」


 言いながら、指を刺す。

 大木には、巨大な印が穿たれている。巨大すぎるため、遠めにもわかるようになっている。気付かなかったが、目印だった。


 レックは、脂汗をかいた。


「ああああ………あれ、ぜんぶ――」

「うん、伐採ばっさい予定」


 勇者(笑)の試練は、ボス討伐よりも、大変らしい。

 森の木々は、密に生えすぎると、森の力を弱めてしまう。数百年単位の出来事である。目の前の大木も、それだけの年月で育ったのだが、ちょっと育ちすぎたらしい。


 森林を見守るエルフが伐採をして、隙間を作るということだ。森と共に生きる民族であれば、自然な循環である。


 100メートルを超える、大木と言うだけだ。


「コハル姉さん………オレ、レーザーだけしか――」


 レーザーでちまちま削って、どれほどの時間と魔力が必要になるのか、レックには絶望しかなかった。

 まさか、命じられることはないだろう。そんな甘い期待を込めて、恐る恐るとコハル姉さんを見上げていた。


 フラグしないでくれと、はかない望みを賭けて―――


「がんばってね、お兄ちゃん♪」


 コハル姉さんは、楽しそうだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ