お久しぶり、スーパー・ロボット
見た目12歳の金髪のポニーテールが、激しく揺れる。
レックのポニーテールも、激しく揺れる。空中にバリアを展開しつつ、コハル姉さんが全力パンチを食らわせようと、飛び上がる。
レックは巻き添えで、引っ張られた。
そして、叫んだ。
「ぎぃいいいやぁああああ」
終わった。
レックは、思った。
いくら勇者(笑)と呼ばれていても、心はいつまでもザコなのだ。子供と馬鹿にするお相手でも、女子に手を握られるだけでドキドキする、ザコなのだ。
巨大ロボに突撃する度胸など、あるわけがなかった。
「ばぁ~りあっ」
スピーカーから、のんきな声が響いた。
スーパー・ロボットは、バリアも展開できるようだ。
全てエルフの仕業だと、レックは思っている。無駄にごちゃごちゃと、角や色々をくっつけたゴーレムの人は、よく覚えている。レックの命の恩人の、スーパー・ロボットである。
空を飛ぶ、スーパー・ロボットである。
「ミケばあちゃんのジャマすんな。料理にホコリが入るでしょうがっ!」
コハル姉さんは、お怒りだった。
そして、もっともなお言葉である。コハル姉さんのジャンプでも土煙は上がっただろうが、スーパー・ロボットの着地で巻き起こるだろう土埃に比べれば、ささやかなものだ。
レックは、それ所ではなかった。
「おち、おち、おちるぅぅうううう」
人は、飛べないのだ。
常識だ。
だが――
「………うぅ?」
浮いていた。
コハル姉さんに手を握られたまま、浮いていた。
ぴょんぴょんと、森の木々を抜けて飛び跳ねる、見た目12歳のエルフちゃんである。
どうやら、空も飛べたようだ。
輝く翼が、光っていた。
「飛べたん――っすね、コハル姉さん」
「へへへ~、可愛いでしょぉ~」
自らの頬を指差して、なにかのポーズを決めていた。見た目12歳の美少女エルフであるために、何をやっても許されるのだ。
許してしまい自分が情けなく、そして、言葉は出なかった。
エルフは、飛べたようだ。
フェアリーの間違いではないのか、半透明の翼が輝いている。天使の翼ではなく、甲虫の、フェアリーの翼と言う印象で間違いない、輝く翼で浮いていた。
モンスター討伐でも、この翼を使って欲しかった。そうすれば、もう少し移動が楽だったと思うレックだった。
ピンチは、突然やってきた。
「これ、疲れるの」
急降下だった。
コハル姉さんにとっては、静かに降り立つようなものだ。重力の人は、今日もいい仕事をしていた。
瞬く間に地面が目の前だ。
上空100メートルもジャンプしていないのだろうか、それはジャンプと言う可愛い距離なのだろうか、ちょっとしたビルの高さである。
いや、討伐において、狙撃のために木の枝にとまるレックだ。この程度の高さでおびえるわけもないのだが………
当然、おびえていた。
「はぁ、はぁ、はぁ………死ぬかと思った」
無事に、着地した。
ジャンプして、静かに飛び降りた――コハル姉さんには、そのような感覚のようだ。レックも、そろそろエルフの感覚に慣れるべきだ。
今は、両手をついて、リバースと戦っていた。
ちょろちょろと、優しさがかけられた。
「お兄ちゃんって、跳ぶたびに、ポーションよね」
お子様による、辛らつなるお言葉だった。
反論の余裕のないレックは、呼吸が徐々に楽になる。
さすがはコハル姉さんのポーションである。忘れがちになるが、レックよりもはるかに長い時間を生きた、ポーション職人のお姉さんである。
効果は、リバースと戦うレックの気持ちを、呼吸をするごとに回復させていることで分かる。
お店で買えば、いいお値段がするだろう。
作った本人は、気軽に使えるようだ。レックを連れまわすたびに、ドバドバとかけてくれるのだ。
スーパー・ロボットの人も、着地した。
「とうちゃぁ~く」
お気楽な声が、スピーカーで響く。
宴会場にいるエルフの皆様は、まったく気にしていない。もしかして、土ぼこりは全て、バリアで防いでいるのかもしれない。
いつの年代のロボット・アニメを参考にして作られたのだろうか。5メートルを超えている巨体は、宴会の広場から距離をとって着地した。
鉄人――というスタイルは外していない、かっこいい角などを適当にくっつけた頭部は、目が隠れて、ちょっと怖い。
例えるならば、子供の落書きだ。
ケータイの、ベルが鳴った。
「………もしもし」
コハル姉さんは、不機嫌なお声であった。
この世界で、誰がケータイを使っているというのか。レックの知る限りは、コハル姉さんだけである。
他の通信機は存在すると思うのだが………
例えば、スーパー・ロボットの中の人とか。
「なによ、見てわかんないの、ごはん食べてたんだからねっ」
電話の声は聞こえない。
しかしコハル姉さんは、スーパー・ロボットの人のマナー違反について、お怒りのご様子だった。
スーパー・ロボットの中の人は、突然のパンチへの文句を言っているようだ。
コクピット・ハッチが開いた。
ロボットの胸のパーツが分裂、巨大なあごが3方向に開いたような印象だ。ガゴン――と、大きく開くと、パイロットが飛び上がった。
「――そんなの、言ってくれなきゃ、ボク、わかんないじゃんっ」
なつかしの、ライダースーツの女の子だ。
プラチナブロンドと言うのだったか、白銀のような金髪がまぶしく、さらさらと風にそよいでいる。
スレンダーなお子様ボディーに、ぴったりのライダースーツも、神々しく輝く。
いや、パイロットスーツとお呼びすべきだ。スーパー・ロボットのパイロットの美少女エルフちゃんの、久々の登場である。
シュタッ――と、ロボットの肩に着地して、腰に手を当ててヒーロー・ポーズだ。
片手に、ケータイを持っていた。
「ボクは飛んできたんだからさぁ、ちゃんと連絡くらい――」
「あんたのケータイ番号知ってるのって、私だけでしょうがっ!」
お子様達が、ケンカをしていた。
どうして宴会に呼んでくれなかったと言うスーパー・ロボットのパイロットのエルフちゃんと、いちいち呼ぶ必要があるのかと、お怒りのコハル姉さん。
お子様の、ケンカだった。
目の前にいるのにケータイで怒鳴りあうのは、本当に、ここがファンタジーの世界であるのかと疑いたくなる。
ややSFだと忘れてはいけない、目の前にはスーパー・ロボットの人がおいでなのだ。そして、背後では立体映像が、上映中だった。
『ツイン・レーザーぁああああっ』
『ブガァアアアアア』
『いやぁ、見事なクリティカルでしたねぇ~』
『はい、兜焼きが好みの皆様、ご愁傷様です』
最新映画が、上映中だった。
前世のテクノロジーでは、まだ再現されていないだろう、水晶から上空へと、臨場感あふれる立体映像が映し出されていた。
パイロット様の目が、輝いた。
「えぇ~、なにあれ、なにあれ………レーザーって――そうか、キミは、あのときのっ!」
ようやく、レックに気付いたようだ。
ジャンプをして、レックの眼前に着地する。さすがに運動能力は高い、ふわりと、プラチナブロンドのロングヘアーが、空を舞った。
レックは、しばし見とれた。
思えば、マッチョやセーラー服や、エルフ像は壊れている。美少女パイロットと言うエルフも、こうしてみれば、十分に美少女だ。
「ボクのこと覚えてるかな、国境の町の依頼で――」
いわれるまでもなく、この世界で最初に見たスーパー・ロボットである。この世界で出会った2人めのエルフと言うことでも、覚えていた。
コハル姉さんが、ご機嫌斜めだ。
「お兄ちゃん、どうしてラウネーラと仲良くしてるのかなぁ~」
あぁ、女の子の独占欲が、恐ろしい。
恋愛感情がまったくなくとも、自分のものに手を出されては、ご機嫌斜めだ。それが、着せ替え人形と言う意味なのか、連れまわしても壊れないオモチャと言う意味なのか、聞くのは恐ろしいレックだったが………
エルフの皆様は、歓迎ムードだ。
「おかえりぃ~」
「いや、そこは違うだろう。確か、ライトアップで――」
――ヲカエリナサイ
誰が教えたのか、それはもちろん、歴代の日本人に決まっている。有名なOVAのエンディングのように、ライトアップされたカタカナが、歓迎していた。
わざと文字を間違えている演出まで、伝わったようだ。




