エルフの宴会と、レックの力
子供の頃のレックは、楽を考えてばかりだった。
それは工夫の原動力であり、アイテム・ボックスの覚醒につながる。
水汲みである。
蛇口をひねれば水が出ることはなく、井戸水である。水がめにいっぱいの生活水を汲むのは、子供の仕事だったのだ。何度も往復する必要があり、焦れば転び、水浸しだ。
レックは、天才だった。
だれも教えていないにもかかわらず、村人レックは、アイテム・ボックスの能力を開花させたのだ。
バケツを、アイテム・ボックスに収納していたのだ。
「お兄ちゃんが使うレーザーが水なのも、そのためかもね」
オークの骨付きステーキをガシガシしながら、コハル姉さんが感想を漏らした。
ボウヤ呼ばわりよりマシだが、可愛げのないお兄ちゃん呼ばわりは、ちょっと止めて欲しいと思った。
チョロイと、我ながら思っていても、使いどころは絞って欲しい男心は複雑だ。
そんなシーンが、流れていた。
『今夜も、バーベキューだぁああああっ――』
『ブゴォォオオオオっ!』
『おぉ~っと、本邦初公開、勇者(笑)の新たな技が出たぁ~ッ――』
『レーザーを2本にしただけですが、わずか10日でこれは、十分な成果と――』
エルフの宴会場では、最新作が上演されていた。
本日のオークのボス3兄弟とレックとの戦いは、すでに編集を終えて、ナレーションもついていた。
さすがはエルフの技である。レックたちが懐かしき昭和の町並みへと戻ると、宴会はすでに始まっていた。
レックの帰りを待ちわびていたのか、メインディッシュを待ちわびた、肉食のエルフたちの目線が、ちょっと怖かった。
食材のオーク肉は即座に提供され、マッチョな兄貴達によって、解体ショーが始まっていた。
すでにお疲れのレックは、猫耳エプロンさんたちのスープで癒されたかった。ミケばあちゃんの作るスープは、どれも最高だ。
あと、キノコもほしかった。
酔っ払い姉さんが、許してくれなかった。
「ちょっとぉ~、本気だしてよぉ~、勇者(笑)なんでしょぉ~、転生のきっかけだって、ローストなんでしょ~?」
オユキ姉さんが、絡んできた。
空っぽになった酒樽の人が逃げ出そうとあがいて、哀れである。見た目はレックと同世代の15歳に見える、実年齢はおいくつなのだろうか。
コハル姉さんも、ご不満のようだ。
「忘れてない?あんたはローストしたの、そして、クリスタルを砕いた………どれほどの魔力が必要になるのか、もう、わかったでしょ?」
レックが前世を思い出したきっかけは、命の危機だった。
暴発した力は、見上げるサイズのイノシシのモンスターをローストにした。そして、マジカル・ウェポンのクリスタルを砕いた。
「純粋な魔力の放出だけで、その威力だよ?」
コハル姉さんは、レックの腕にしがみついて、文句があるようだ。
レックはスープを片手に、遠い目をしていた。
いや、誰が頼んだわけでもないが、レックの修行を見てくれている、ありがたいお姉さんだ。
見た目は、12歳のお子様だ。
もっとがんばれと、ご不満だった。
レックの本当の力は、まだ発揮されていないという、ご不満だった。
エルフの国に来て、さっそく出会ったオーク軍団との戦いで、コハル姉さんがレックに注文をしたのは、そのことだ。
そして、疑問に思った。
聞いていた話と、違った――
そんな反応だった。
エルフの皆様が、魔力測定大会で大きく賭けに出たのも、そういう理由だ。
「だいたい、前は100匹くらいオークを運んで、今回もでっかいボスの3兄弟を運んできてさぁ~、アイテム・ボックスにどれだけ入るのよぉ~」
「そうですわよ、お兄様。アイテム・ボックスの収納容量は魔力もしっかり………しっかり影響するんですからねぇ~《《大発生》》がいつ起こるかわからなくってぇ~、ちょっと、聞いてるのぉ~」
飲んでいないコハル姉さんはともかく、おユキ姉さんはすっかりと出来上がっておいでだ。凛とした忍者を真似しつつ、言葉は乱れている。
本日も、酒の肴はたっぷりだ。編集されたオークのボス3兄弟の討伐シーンに加え、前回のオーク戦の映画の再上映も行われている。
本日のオーク肉は、さすがに巨大すぎるため、全て厚切りステーキへと決定された。
「ボウズ、食ってるかぁ~」
「飲めるまで、あと5年かぁ~………あっという間だな」
「それまでには、《《大発生》》も終わっているだろ。祝勝会に間に合わないぜ?」
「ははは、そりゃぁ~、残念だな」
エルフの酔っ払いたちが、絡んできた。
そもそも、勇者と言う称号は、戦乱の時代に生まれるはずだ。『(笑)』というオマケがあるために微妙だったが、気になってきた。
「あのぉ~………たまに聞くんですけど、『大発生』って、なんッスか?」
恐る恐ると、レックは手を上げた。
恐れたのは、フラグである。疑問を口にしてしまうと、フラグを回収するまで帰れません――と言うフラグであると、前世が叫んでいるのだ。
やめろ、やめるんだ――と、前世がレックを応援していた。
止めたいのか、応援したいのか、どちらだろう。前世は勝手なものである。大変な事態ほど、ワクワクするのだ。
それはレックの頭の中で繰り広げられる寸劇である。
エリザベート様が、現れた。
「あらあら、『大発生』のこと、コハルちゃんたちは教えてなかったの?」
見た目だけならば、20を前後とした、金髪のお姉さんだ。見た目15歳のオユキ姉さん、12歳のコハル姉さんの姉と言われて、信じたほどだ。
レックたちとおそろいの、金髪ポニーテールに、セーラー服である。20歳前後に置いては、ちょっとギリギリ………
――お姉さんは、何百歳であろうとも、お姉さんである。レックは考えを読まれないように、必死に冷静を装う。
セーラー服のエリザベート様は、微笑んでいた。
「勇者の登場は、予兆なのよ」
まったく、答えていなかった。
だが、それが答えのようだ、エルフの皆様は納得したように、うなずいていた。事情を知らないレックがひとり、ドキドキだ。
予兆――とは、なんなのか
お前が生まれたせいで、災いが起こっている。
そんなフラグに感じたわけだ。エルフたちの雰囲気から、そのフラグは存在しないと思いつつ………
空から、何かが降ってきた。
「やっほぉ~っ」
スーパー・ロボットが、やってきた。
色々突然すぎたが、ちょっと、どうでもよくなってきたレックだった。




