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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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理想のエルフと、現実と

 

 レックの金髪は、赤いリボンも良く似合う。セーラー服のミニスカートと一緒に、ひらひらと風に揺られていた。

 今日の気分は、ポニーテールのようだ。


 レックは、叫んだ。


「コレだよ、これだったんだよぉおおおおおっ」


 魂からの、叫びだった。

 巨大な木々の根っこの上に降り立ち、眼下の光景を見下ろして、叫んでいた。大きな荷馬車がたくさん並んでいる。穀物やその他物資の取引の現場に見える。

 ここは、交易の都だった。


 建物が、感動だった。


「植物に侵食された、遺跡………そう、これこそがエルフの住まいなんだよっ」


 レックは、涙を流していた。

 いったい何千年前に生み出された都市なのだろうか、石組みの頑丈な作りは、かつては木々の合間に生み出された都市のひとつだったと想像させる。

 しかし、数千年と言う時間が、植物の成長が、時間そのものが、都市の姿を変えていく。自然に敗北した古代都市と言う光景が、それでも修繕され続けて、何千年も生きながらえているのだ。

 そんな古代都市と同じ時間を生きる人々が、エルフと言う種族なのだ。


 レックの理想のエルフ空間が、目の前に広がっていた。


「あぁ………ついに来たんだ。ここはエルフの都だ。エルフの都なんだ」


 前世の浪人生も、涙を流していた。

 両膝をついて、はらはらと涙を流しながら、どこかへ向かって感謝を申し上げていた。


 ファンタジーの神様、ありがとう――


 あるいは、ラノベの神様か、アニメの神様か、感謝すべき神々は、数え切れない。


 何千年も前から使われている、交易地だという。

 修繕は最小限で、魔法で植物を切り取るのではなく、削り、加工し、木材で補強するという、本当に最小限なのだ。

 木々の根っこが侵食し、半分は立ち入り禁止エリアだ。


 まさに、生きた遺跡である。


「古臭いわねぇ~、相変わらず」


 コハル姉さんには、ご不満のようだ。


 レックがエルフの国に来て、はや10日。観光案内と言う名目でコハル姉さんに連れまわされながら、修行の日々を送っていた。

 遊び相手と言う言葉が、ふさわしく思える。エルフの遊びに付き合うことが出来る人族が勇者(笑)なのだと、レックは確信した。


 それでも、しっかりと観光案内もしてくれている。本日は、交易の都へと連れてきてもらったわけだ。お邪魔になるということで、遠くから見つめるだけだったが、それでもレックには十分だ。


 レックが、一番見たかった光景であった。


「ホンモノのエルフは、ここにいたんだ――」


 レックは、失礼な感想を漏らした。

 セーラー服を身につけていようが、ブーメランパンツ同然のマッチョがいようが、ミニスカ浴衣であろうが、誰もがエルフである。服装はともかく、肩幅までと耳がとんがった、イメージどおりのエルフである。


 セーラー服のエルフちゃんが、腰に手を当ててお怒りだ。


「ホンモノって………あたし達はなんなのよ」


 ほっぺたを膨らませて、可愛らしいことだ。

 だが、レックには答えられなかった。古代都市で見かけるエルフの皆様を見てしまっては、答えられるわけがないのだ。

 昭和に影響されておらず、もちろんSFに侵食されてもいない。金属製品は巧みの技で加工された、植物の流線型を保ったエルフのイメージを大切にしたものである。


 そう、古きよきエルフなのだ。


「コハル姉さん………」


 レックは、コハル姉さんの手を取った。その瞳は、涙をうるうると流して、コハル姉さんは驚いた。


「な………なによ」


 突然涙を流すレックに、さすがのコハル姉さんもたじろいだ。とても珍しい、普段はレックをオモチャと言うか、着せ替え人形にするエルフの一人である。


 レックは、静かに答えた。


「連れてきてくれて、ありがとう」


 本当に、本心だ。

 素直に、この場所へと連れてきてもらったことへの、感謝の言葉を伝えたのだ。


 コハル姉さんは、叫んだ。


「なんなのよぉ~」


 見た目どおりの、お子様の反応だった。

 観光案内をしてやろう、面倒を見てやろうと、散々お姉さんぶってきたお子様エルフである。

 珍しく、うろたえていた。

 誰か助けてくれと言う、お子様の叫びを上げていた。


 その声に応えるエルフが、現れた。


「あ、パパぁ~」


 コハル姉さんが、最初に気付いた。

 和風の服装を好むコハル姉さん達と異なり、素材の味わいを生かした、ファンタジーのエルフが身につける、素朴なエルフの服装のエルフが、現れた。


「今日は交易の案内かい?」


 レックは、とりあえずお辞儀をする。

 娘さんとペアルックのセーラー服であった。あんたのとこの姉妹のせいだと言おうとして、ぐっと飲み込むレックは男である。

 そう、男の地位が低いと、目の前のエルフさんが語るのだ。


 娘さん達にも、かなわぬのだ。


「みてみて~、おそろいなの」

「………」


 まずは、コスチュームの自慢であった。

 コハル姉さんのポーズに合わせて、レックもポーズをとる。もちろん、プロデュースはエリザベート様――お姉様だ。

 オユキ姉さんは、なかなか忍者スタイルでおそろいが出来ずに、不満げだ。しかし、そろそろこのフラグも回収される予感がある。


 本日は、セーラー服だ。


「あぁ、似合っているよ、かわいい、かわいい」


 エルフさんは、無難な答えを選んだ。

 まだ甘えたいお年頃のコハル姉さんは、ほめられてご機嫌だ。レックの気持ちなど、関係ないのだ。

 レックは、着せ替え人形なのだ。


「それでねぇ~、この勇者(笑)ったら、この町を見せてから、変なの」

「勇者(笑)が変なのは、普通だろ?」


 エルフ父娘の会話は、ちょっとおかしい。

 しかし、すでに日本人イコール勇者(笑)という方程式は、明らかだ。初日で、変人、変わり者、なにかをやらかすという評価の転生者である。

 あのパーキングエリアでは、団体さんがお待ちで………


 レックは、疑問を抱いた。


「あの………今更なんッスけど――」


 今更の、疑問だった。

 レックが遭遇した、エルフの国への入り口とは、あまりに異世界だった。

 一本道をバイクで進み、看板に描かれたエルフのお姉さんが立体映像で現れた、貞○さんだ。

 パーキングエリアでは、エルフの皆様が、団体様だった。


 観光案内人のコスプレのエルフの皆様だった。


「みなさん、あらかじめ道をご存知じゃないと、あっちの一本道から、パーキングエリアに行くんじゃないんですか………こことは、その――」


 交易都市として生きている、古代遺跡である。服装も、近代的でもなければ、和風でもない、質素で繊細な、エルフらしい衣装であった。

 レックの知る入り口との違いが、すごいのだ。


 今更何を言っているのか――そんなお顔で、エルフ父娘は、答えてくれた。


「アレは勇者(笑)向けだからね?普通は、こっちにまっすぐ来るのよ。だって《《日本語》》なんて、普通は読めないから」

「キミも看板の《《日本語》》を見て来たんだろ?一本道だって、看板の指示通りに森に入らないと、普通はまっすぐ、この交易の都に来るからね」


 驚きの、真実だった。

 そして、指摘されないまで分からなかった、己に驚きのレックだった。一本道のつもりの、バイクの一人旅である。

 ギルドに教わった通りにまっすぐと進み、看板の案内どおり、一本道を――


「あぁっ~………バイク専用って道が、わざわざ看板で入り口を………っ」


 頭を抱えて、しゃがみこむ。

 セーラー服のミニスカートであるため、ちょっと危険なレックである。もちろん気にする余裕はない、己の愚かさに、うずくまっていた。


「《《普通に読んだ》》から、分からないだろっ、《《普通》》は………日本語は、《《オレには普通》》なんだからぁ~」


 日本語の案内を《《普通に読める》》ことが、最初のトラップだったようだ。

 あまりに普通すぎて、トラップであると気付かずに、看板のエルフのお姉さんに案内されて、パーキングエリアへと向かったわけだ。


 異世界の皆様にとっては、知らない言語だ。馬車はこちら、バイクはこちらと言う看板だ。

 バイクはこちら――という文章は、日本語で書かれていたと、ようやくレックは思い出した。


 どこから取り出したのか、エルフ父娘が手に持って、レックに見せ付けていた。


「ようこそ、エルフの国へ」

「改めて、ようこそ」


 コハル姉さんはニコニコで、父親のエルフさんも、少し楽しそうだ。

『エルフのお宿』のご家族の中では、まともに思えていたのは過去の事になった。やはり、この親にして、このエルフになったのだ。


 もう一人の娘さんが、現れた。


「勇者(笑)さま、やっと見つけましたわ」


 わざとらしく、『くのいち』お姉さんがひざをついてご挨拶をする。

 ポーズは忍者と言う『くのいち』コスプレのお姉さんである。見た目はレックと同じ世代の15歳に見える。セーラー服は、このエルフこそ似合うものだ。

 ピンクカラーがお気に入りなのか、『くのいち』コスプレと同じく、ピンクカラーのセーラー服だった。

 マゼンダと言う色名だったか、ちょっと自信のないレックだった。


 関係ないことにしたい、レックだった。


「さぁ、お早く」


 丁寧に、どこかを指差していた。

 フラグだと、レックは思った。わざとらしく丁寧な態度のオユキ姉さんである。ごっこ遊びと言うか、コスプレはしぐさも含まれている。

 今は『くのいち』のコスプレではなく、おそろいのセーラー服だが、しぐさは忍だ。


 レックは、無駄な抵抗を試みた。


「オユキ姉さんも、セーラー服がお似合いで――」


 言いながら、逃れられないと覚悟する。

 となりのコハル姉さんの様子に、覚えがある。パーキングエリアから、エルフの遊歩道での移動中に、見た顔だった。あの時は、巨大オークの団体様が、おいでだった。

 隣を見ると、お父様も同じ反応だ。


 どこかを、見ていた。


「………あの――」

「お兄ちゃんも、気付いてるよね ?」

「フラグ回収、よろしくです」

「そういうことだ、勇者(笑)どの」


 モンスターイベント、発生だ。




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