レックの魔力、アフター
ツインテール4姉妹が、仲良く手をつないでいた。
全員、ミニスカ浴衣と言う最新ファッションに、ヘアカラーも金髪とおそろいで、髪型もツインテールとおそろいだった。
まばゆいリボンもおそろいだ、ミニスカートも一緒に、ゆれている。
レックは、乾いた笑みを浮かべていた。
「なんで………オレって勇者――あぁ、勇者(笑)だった」
レックは、貧弱な15歳男子である。
筋肉がつく様子はなく、そのために、ミニスカ浴衣がよく似合っていた。男の子なら、リーダーのレッドと言う気遣いをしてくれている。そのため、女子と間違われた可能性はないのだが………
金髪のツインテールは、よく似合っていた。
「オレ、オレ………」
レックは、泣いていた。
自らの姿が情けなく、逆らえない意思の弱さが情けなく、そして――
「《《お姉ちゃん》》、魔力測定、お疲れ様~」
「かわいい《《妹》》が増えて、お姉ちゃん、うれしい」
「ふふふ、まだ魔力は伸びるから、がんばって」
トドメだった。
レックを囲むエルフたちは、いい笑顔であった。悪意など微塵もない、本心から、仲良し《《4姉妹》》の状況を、楽しんでおいでなのだ。
魔力測定は、ついでだったのだ。
「《《姉妹》》っすか――こんなフラグばっか、回収しなくていいのに………」
勇者(笑)レックは、金髪のツインテールを風になびかせて、空を見上げた。
レックのむなしいつぶやきは、誰の耳にも届くことはない。宴会をするための、エサに過ぎなかったのだ。
いいや、エルフ姉さん達は、ファッションショーが目的だろうか………
肩を、そっと叩かれた。
「ようこそ、エルフの国へ」
オマケのロクディウスさんが、同情に微笑んでいた。
おそらく、エリザベート様を筆頭にした娘さん達の犠牲者は、レックだけではないのだろう。きっとこれは、エルフの国の、通過儀礼なのだ。
考えたくないが、『勇者の飯屋』の頑固ジジイも、大昔に犠牲になった可能性がある。
今は60を超えていそうだが、50年前は10代なのだ。
そう、エルフは見た目にだまされてはいけない。12歳に見えるコハル姉さんも、見た目よりはるかに年長者のはずなのだ。
数百歳か、数千歳かは分からないが………
質問する勇気を、レックは持ち合わせていなかった。
あの頑固ジジイですら、エリザベート様といいかけて、姉さんと言い直したのだから。ここは、人間の常識が通用しないのだから。
ここは、エルフの国なのだ。
皆様は、祝杯を挙げていた。
「いやぁ~、惜しかったな、あと少し値が低かったら大当たりだったのによぉ」
「それよか、魔力ゼロって賭けたやつ誰だよ、さすがにそれはないだろ」
「いやいや、昔あったろ、コハルちゃんの小さいときに」
「オユキちゃんが連れまわしたな、あの頃………『くのいち』だっけ、はまったろ?」
「忍法もたくさん開発したな………」
「大発生の時期だったからな、おかげでスーパー・ロボットが――」
人数が、どんどんと増えていく。
猫耳エプロンさんたちも、次々と増えていく。歩くイスにテーブルに大ナベにと、忙しそうだ。
酒樽も、もちろん歩いていた。
オーク肉は先日に大漁入荷をして山盛りであり、まだまだ、たくさん残っていた。
ミケばあちゃんは、大忙しだ。
「はいはい、お待たせ、熟成のお肉だよ。オーク肉シチューも、ちゃ~んと一晩、寝かせてあるからね」
割烹着を着た猫耳のおばあちゃんは、エルフの食材に精通しているようだ。エルフたちの大騒ぎは、ヒートアップだ。
コハル姉さんは、今にも飛んで行きたそうに、そわそわとしている。
それでも、《《4姉妹》》の共演が優先らしい。めったにない晴れ舞台なのだ。それも、4人そろっては本日が初めてである。女の子は、大変だ。
ファッションは、大事なのだ。
屋台のオヤジも、現れた。
「ボウズ………譲ちゃんか、ご苦労だった」
『勇者の飯屋』の、出張だ。
頑固ジジイの、かつて勇者と呼ばれていたご老人が、微笑んでいた。そしてレックの後ろでたたずんでいた、オマケのロクディウスさんと見詰め合う。
男の友情だ。
娘様たちには、関係のない話だ。
「パパ、主役をとらないでよ」
「父上は、割烹着はいかがですか」
「まったく、ナウじゃないんですから、ふふふ」
金髪のツインテールが、とってもまぶしい《《4姉妹》》である。オマケのロクディウスさんは、空を見上げていた。
オユキ姉さんなどは、宴会の手伝いを命じていた。父親の扱いとしては、むしろ当然だろうか………
《《4姉妹》》に加えられているレックは、静かにたたずんでいた。
「今日も、いい天気だな。アレクセイ」
「そうだな、ロクディウス」
おっさんたちは、現実から逃げていた。
逃げられないレックは、連行された。
「ほら、ミケばあちゃんにも見てもらおうよっ」
「あら、いいわねぇ~」
「ふふふ、行きましょうか?」
「ちょ、ちょとぉおおおおお」
引き回しと言う公開処刑は、まだまだ続くのだ。
お披露目は、宴会のお約束らしい。いつの間にか巨大な水晶も現れ、昨日の映画が上映されていた。
『ルーン、クリスタル・パワー、メーク――』
『勇者は果たして、勝利できるのか。大群がそこまで――』
『『『『『ブゴォオオオオ――』』』』』
『つづけて、行くぜっ――』
『今のはいい攻撃でしたね、きれいに首が――』
リピート率の、高いことだ。
本日のメインイベントは、すぐに終わった。ただ、レックの魔力値を計測する、その結果を予測して、賭け事をするだけだったのだ。
余興と言うか、オマケというか、レックに続いてコハル姉さん、オユキ姉さんと、エリザベート様――お姉さまも、測定した。
上級魔法を扱うためには、魔力値が1000は必要とされる。
それは、エルフレベルとも言われているらしい。実際のエルフの値を見せてくれたのだろう。
レックの自信をバキバキとへし折る、いい値だった。
レックは、ボードを見つめていた。
「オレもね、『マヨネーズ伯爵』の町で計測したときより、伸びてたんッスよ?」
オッズは様々に、大バクチを打った人々は、ご愁傷様だ。期待をして、エルフ並にかけてくれたエルフは、かなりいたようだ。
それとも、勇者(笑)は、皆様それくらいの魔力の持ち主だったのか………
聞きたくなかった。
「勇者(笑)は、だいたいエルフレベルだけど………今後に期待?」
「《《これから》》を考えると、上級魔法を連射できる、3000くらい欲しいかなぁ~」
「大発生の時期が近いでしょうけど………けど、エルフでも、戦士レベルですからね。あまり期待しすぎるのも………」
レックの修行は、これからだ。
いや、始まってもいないのだ。それなのに、期待しすぎてはいけないという、大人のご意見が、とても悲しかった。
《《これから》》は、何を予定しておいでなのか、とっても怖いのだが………
「ほぉ~………出遅れたか」
いつの間にか、スーパー・マ○オのおじ様が、現れた。
今は、子供サイズの、ただのドワーフだ。服装が、ややスーパー・○リオの印象の、赤い帽子にシャツに、ジーパンであるだけだ。
「どれ、オレはどうだろうかな」
「はっ、年だからな………下がってるんじゃねぇか?」
屋台の頑固ジジイが、立ちはだかった。
計測器の前に、短い行列が発生する。酔っ払い同士による、腕相撲大会とか、力比べとか言うノリのようだ。
猫耳エプロンの皆様には興味がないらしい、料理の準備に配膳にと、忙しいのだ。新鮮なキノコの香りが、レックを呼んでいる。
きっと、生き延びたキノコもいるはずだ。肉汁たっぷりの串焼きを思い浮かべるだけで、よだれが出そうだ。
そんな気持ちで、現実から目をそらすのも、悪くない。
「ステータス先生………どうして、オレを置いてっちゃったんですかい――オレっち、寂しいっす」
遠くのお空を見上げて、レックは瞳を潤ませた。
転生したのだ。転生主人公は、魔力がばかげて強く、能力もチートの、目立たないように隠れて生きる宿命なのだ。
そんなことはなく、生まれつき魔力の強い人物ならば、珍しくない値だ。エルフの皆様にとっては、幼子の値だ。
レックの本気はまだ、発揮されていない。そんな期待で、今回の魔力計測大会は、幕を下ろした。
今は、おっさんたちの力比べだ。
「魔力値800………ふんっ、こんなところか」
「はっ、老いたな、アレクセイ。オレなんか、30も上がってるぞ」
「言ってろ、誤差なんだよ。っていうか、巨大化ポーションの後遺症じゃねぇのか、実際には、100は減ってたりしてな?」
「んだとこらぁ?」
「やんのかぁあ?」
いい年をしても、ケンカが早いようだ。
そして、エルフの皆様には幼子のような年齢なのだろう。皆様、おっさんの怒鳴りあいを、笑顔で見守っていた。
おっと、新たな賭けのボードが現れた。
「えぇ~、では余興といたしまして、元・勇者(笑)様VSスーパー・イワマルの熱い戦いを――」
スーパー・マ○オではなく、スーパー・イワマルと言うらしい。ドワーフおじさんの名前がイワマルであるため、それは、そうだろう。
と言うか、アレクセイさんの称号は、すでに勇者(笑)ではないらしい。確かに、引退したのだが――
レックは、理解した。
「新たな勇者(笑)がいるからか」
その名前を、いけにえと言う。奥様方に囲まれて、ファッションリーダーの《《4姉妹》》は、大人気だ。
レックも、もちろん含まれる。
ミニスカ浴衣が、まぶしいのだ。




