レックの魔力、オッズはいくら?
エルフたちは、吠えていた。
何かが起こる予感におののき、決められた未来まであとわずかと言う状況に、本能が雄たけびを上げさせたのだ。
ここは大草原の闘技場、階段状の円形闘技場は、サッカーの試合か、野球の試合でも行われるようだ。
あるいは、闘技場の名前のままに、戦いだ。
レックは一人、遠い目をしていた。
「コハル姉さん、勇者(笑)の役割って、なんなんでしょうね………」
『勇者の飯屋』での昼食を終えて、しばらくの大騒ぎだ。
コハル姉さんは、観光案内を買って出てくれて、連れまわしてくれたのだ。金髪のロングヘアーを風になびかせて、ミニスカ浴衣も元気にはねる。
ここは、闘技場だった。
広大なエルフの森といっても、どこで、何をしてもいいわけではない。住宅地もあり、牧場や農場もある。それらは全てミニチュアに見えてしまう、100メートルを超える巨木に囲まれた寸土が、エルフの国だ。
エルフちゃんは、燃えていた。
「修行編の、始まりよっ」
腰に手を当てて、威張った。
見た目は12歳の女の子であるが、年齢は語るまい。金髪のロングヘアーをなびかせて、ミニスカ浴衣を自慢げに、威張っていた。
レックはレッドで、コハル姉さんはラベンダーと言うのか、淡い紫のミニスカ浴衣であった。
レックは、うなだれた。
「わかってやす。逆らうなってことでやんしょ………」
小物パワーが、最後の希望だ。
エルフたちは、どこで聞きつけてきたのか、宴会の準備に余念がない。様々にテントにイスに、もちろん酒樽も忘れていない。
司会者席まで、現れた。
「さぁ、さぁ、始まりました。今回の勇者(笑)さまは、どのような力を見せてくれるのか、すでに映画でご存知の――」
ご丁寧に、タキシードを身につけていた。
まさか、アフロにするとは思わなかった。エメラルドグリーンよりも、かなり明るいグリーンカラーが、アフロだった。
カツラだと信じたい。
しかも、とんがったサングラスである。
「さて、今回の賭けの内容は、魔力値であります。大枠としましては、エルフレベルに達しているか、まだ達していないか。大バクチを打つのなら、値を紙に書いて――」
賭けも、始まっていた。
すでに、手遅れの気持ちはある。勇者(笑)と言う称号は、代々の日本人の功績であろう。
「えっと、修行………ッスよね?」
「まずは――これね?」
体重計が、現れた。
武器ショップ以来である、魔力の計測装置だ。魔力を流すことで、メーターが針を動かすテクノロジーなのだ。
とってもアナログであるが、ステータス先生が存在しない世界では、コレしか目安に出来るものがない。
このあたりは、リアルだった。
むしろ、ゲームであって欲しい、転生した主人公は、チートであって欲しいのだ。
『くのいち』姉さんも、現れた。
「コハルちゃんも、測っておきましょうか。成長期だし」
「お姉ちゃんも測っておけば?」
今は、レックたちとお揃いのミニスカ浴衣である。見た目だけならレックと同じ世代の15歳に見える、金髪の姉さんだ。貧弱なボウヤのレックと並んで、3姉妹といわれても納得されてしまう、なすがままなのだ。
背後のボードでは、計測結果の予想表がにぎわっている。大枠では、エルフレベルに達しているのかと言う、白か黒である。
残る枠は細々と、50単位なのだが………
「なんで、100より小さい値まで………」
公に広めているわけではないが、ギルドに登録されているレックの魔力値は120である。『マヨネーズ伯爵』の都では武器ショップでの計測結果が、今のところ最新だ。
今は、推定だ。
だからこそ、賭けにもなるというものだ。映画でお披露目されている、熱水レーザーが中級魔法のカノン系に匹敵といわれている。
最低限、100は超えていると思うわけだ。
「ふ………バクチ打ちって、救われないわね」
「でも、あるのよねぇ~、突然芽生えた力が、反動で消えるのって~」
オユキ姉さんが、爆弾を落とした。
ちょっと待ってくれと、レックは冷や汗をかく。確かに、転生者であると判明したのは、爆発的に魔力が上がったためである。
恐る恐ると、ミニスカ浴衣の忍者様を見つめる。
「あのぉ~、消えるって………」
「あぁ、聞いたことある。魔法が使えなくなるとか、力がなくなったとか………色々?」
「ふふ、バクチよねぇ~」
コハル姉さんも、ご存知のようだ。そして、姉妹そろって楽しそうだ。
バクチと語るように、可能性が低いからこそ、賭けるわけだ。姉妹そろって、他人事だと思って、楽しんでいた。
レックは、ふてくされた。
「ったく、こっちはヒヤヒヤしてるってのに………」
「いやぁ、あったからねぇ~、反動で減った力を取り戻す。そのための大騒ぎが」
「しかも、失う前よりも、ずっと力が強くなるとか、さすが勇者だって――」
ふてくされた子供が、驚きと好奇心で、思考停止だ。
「パワーアップのための、フラグ………なのか」
レックはしばし、迷った。
パワーアップイベントが、起こるのか。このフラグが立って欲しいのか、へし折れて欲しいのか、かなり悩んでいた。
調子に乗りやすい性格のレックである。前世の記憶のおかげで、チートと言う主人公の特典に期待していたレックである。
ならば、めったにない魔力の喪失を味わい、パワーアップで返り咲くという、燃える展開に賭けても良いのではないかと………
レックも、バクチ打ちのようだ。
周りも、盛り上がっていた。
「計測の開始は10分後です。賭けの〆切は、間近ですよっ」
「さて、解説のエリザベートさんと、オマケのロクディウスさん、どうぞ」
「はい、美少女4姉妹の長女、エリザベートですっ」
「まてまて、エリザベート、いくらなんでも――」
レックの笑みは、悟ったものにクラスアップした。
もはや、小物パワーが逃げ出す勢いだ。レックの知り合いのエルフが、司会席に参上していた。
レックがお世話になっている『エルフのお宿』の女将さんと、オマケさんが現れた。
『エルフのお宿』で唯一の男性であり、コハル姉さんが『パパ』と、オユキ姉さんが『父上』と呼ぶエルフである。
必然、エリザベート様は………
レックは、空気を呼んだ。
「4姉妹が揃い踏みッスか………しかも、ミニスカの浴衣で――」
「だって、ナウな最先端だから」
「父上だけよ、うちで遅れてるのは」
娘さん達が、ちょっとひどい。
そして、それはどこの世界でも同じなのか、オマケのエルフさんは、あきらめて座っていた。
同情の瞳でレックを見つめているが、顔を合わせる勇気はなかった。
4姉妹には、レックも含まれているのだ。ミニスカの浴衣で、カラーはリーダーのレッドである。
司会は、進んでいた。
「手堅いのは、魔力値が400から500のあたりですね。映画がヒントになっていたということでしょうか、エリザベートさん」
「えぇ、コハルちゃんが、大活躍でしたね?」
「レーザーの攻撃力は、目を見張るものがありました。中級魔法でも、かなりの威力とあれば、魔力の最大値も――」
エルフのお父様は、あきらめたようだ。奥方………四姉妹の長女様の言葉を補っておいでだ。
良い、下僕のようだ。
映画からは、レックの魔力値は400~500と言う意見が大半らしい。カノン系は、魔力値を100ほど必要とする、強力な攻撃魔法である。大木をへし折る砲撃は、大型のモンスターの討伐に必須なのだ。
レックは、そんな大型オークの軍勢を、たくさん倒す実力の持ち主だ。確かに、解説のエルフさんの言葉通り、期待が高まる。
あくまで、目安であるが………
レックは、一歩下がった。
「ところで~………エルフレベルって、どのくらいの値でやんしょ」
小物パワーが、復活していた。
エルフレベルか、それ以下か………この違いはなんだろう。いや、上級ポーションを作れるのが、見た目12歳のコハル姉さんである。
言葉通り、上級魔法である。
込められる魔力が100を超えれば中級、1000を超えれば上級なのだ。
では、エルフレベルは………
「単純よ、上級魔法が使えるか、使えないか」
「魔力値だと、1000を超えているって所ね?」
姉妹そろって、同じしぐさをしないでいただきたい。
小首をかしげて、見た目12歳と15歳の姉妹が………気づけば、見た目20前後のエリザベート様も並んでいた。
司会席を放置で、自由なエルフだ。
3人そろって、微笑んでいた。
「それじゃぁ、メイクアップしましょうか」
「髪形も合わせたいわね?」
「ねぇ、アクセサリーは?」
………?
レックは、固まった。




