レックと、キノコ狩りのおっさん
この世界には、様々な不思議な種族がいる。
しかしながら、人間の国では、めったにお目にかかれない。レックも『マヨネーズ伯爵』の町で出会ったのは、二人だった。
ケンタウロスのバイク屋さんに、エルフのコハル姉さんだけであった。
『ポテト子爵』の町では、ハンバーガーショップの猫耳姉さんがいて、エルフの国でもお料理に関わっていた。
今度は、ドワーフだった。
「あぁ、ちょと待ってくれ」
マ○オなドワーフさんが、腕時計らしきものに触れた。
ごっつい腕時計で、手袋をしたままのドワーフさんでも、操作ができそうだ。なんらかのSFを覚悟したが、ただ、時間を知らせるだけのようだ。
アラームが、鳴っていた。
「時間だ………」
ご丁寧に、赤く輝く、タイムリミットのお知らせである。どこかで見たタイマーのように、どんどんと早鐘を打つように、こちらが不安になってくる。
おっさんも、光り輝く。
教えてくれたのは、コハル姉さんだった。
「タイムリミット………変身は3分間なの。前世だと、別人って言うか、別の種族になって逃げ回ることが出来たとか………ポーションのようで、もっとすごい効果なの」
もっと、分からなくなった。
コハル姉さんは、時々お子様を演じるというか、見た目相応に振舞うことがある。いまも、興奮に言葉が追いつかないお子様だった。
レックは、驚いた。
「え、マリ○さんも転生者っすか?」
前世と、口にしたのだ。
驚きと言うよりも、警戒である。やや薄れつつあるが、コハル姉さんは異世界からの転生者の存在をレックに教えており、そして、注意してくれたのだ。
レックは、コハル姉さんの耳元でささやく。
「確か、コハル姉さんが前に――」
言い終わる前に、コハル姉さんは身をよじる。
くすぐったかったようだ。
エルフの耳はとがっていて、距離感を間違えてしまったらしい。小さな肩をちぢめて、くすぐったそうにするしぐさは、ちょっと可愛かった。
レックは、それ所ではなかった。
『前世に引きずられるヤツラで、本当にヤバイのは――『スプルグ』の転生者』
『出会ったら、すぐに逃げなさい――』
『あとは『ギダホー』に『ギョール』………』
以前、コハル姉さんは言っていた。
スーパー・ロボットの中の人と言うエルフは、警告を受けていたスプルグの転生者だった。
派手な攻撃をするだけで、警告をされるほどではないと感じた。警告をされていなければ、大いに驚いただろうが………
「あいつのことはいいの、スプルグでもすごかったて、うざったいだけっ」
お子様が腕をバタバタとさせて、荒ぶっていた。
あまり暴れると、ミニスカートの浴衣である。気にしないであろうが、一応男子として、レックは気を使う。
自らもまた、ミニスカートの浴衣であるため、気をつけようと思いつつ………
「ねぇさん、落ち着いてくだせぇ。このお人は、どこの転生者なんで?」
まずは、確認がしたかった。
本気で警戒すべき人物ではないと思う。スプルグの転生者も、警告をされても、実際には構えるほどではなかったのだ。
おっさんは、輝きを終えていた。
「なんだ、勇者は聞いてなかったか?」
縮んでいた。
コハル姉さんの隣に並ぶと、ほとんど変わらない。ややおっさんのほうが背が高い程度で、先ほどの2メートルオーバーの巨体に比べれば、かなり縮んでしまった。
ドワーフらしいサイズといえば、らしいのだが………
まずは、ご挨拶だ。
「へい、あっしは昨日、こっちへ来たばっかでやんして………その、姉さんには観光案内をしてもらっているんでさぁ~」
小物パワーで、おっさんにご挨拶だ。
4頭身のおっさんドワーフは、2メートルオーバーの巨漢だった。
まさか、スーパー・マ○オと同じく、不思議なキノコを食べることで、巨大化したとでも言うのか。
エルフの森には、そんな不思議なキノコが自生しているとでも言うのか。
レックの疑問を飛ばし、コハル姉さんが自慢げだ。
「こいつ、私達に聞いてきたのよ。飲むだけで巨大化するの。前世ではあったって」
昔馴染みのようだ。
気安そうに声をかける、見た目おっさんでも、エルフの長寿と比べれば若造なのかもしれない。あるいは、同世代か………
ともかく、ある日に前世を思い出し、旅立ったという。
そして、エルフを頼った。
「俺の前世、ギダホーでは普通にあったんだがな、巨大な生き物ばっかで………まぁ、ここの景色と似たようなもんだ。キノコもな?」
とんでもない世界もあったようだ。
しかし、この世界では巨大化アイテムの必要はない。ただ、気になって旅をしていたということらしい。
「エルフなら出来るだろうって………そう思うのは、わかるんだけどさ――」
エルフの誰も、そのようなものを作れなかった。
元々、この世界にない技術である。
転生者が専門の職人であったにしても、生み出すために必要な材料に技術の復活にと、生涯をかけることは珍しくないそうだ。
そして、成功する例は多くないらしい。
やはり、『マヨネーズ伯爵』は偉大だと、レックは思った。
だがここで、日本人の転生者が活躍する。
おっさんの話を聞くや、キノコを食べて巨大化して戦う、赤い帽子の異世界の勇者様の伝説を語ったのだ。
「スーパー・マ○オという勇者様がいるんだってな。キノコを食べると巨大化し、巨大なキノコと戦ったとか――」
レックは、頭を抱えた。
「なるほど、転生者がやらかしたんでやんすか………日本人の転生者が、そうッスか」
やらかしたようだ。
無責任に、エルフならできるんじゃね――と、たきつけたに違いない。不思議といえば、エルフだと
レックもまた、エルフを探しに、この国へと、不思議な森へとバイクを走らせたのだから。
「キノコを食べて巨大化する。そして、ダメージを受けると元に戻る………一時的に、魔力で体を包み込むような、実態のある幻術――ってところで、ひらめいたのよ」
「俺たちは、元々冒険者でな。んで、上級ポーションの、すさまじい効果を知っていたわけだ。材料は、エルフの国からくる。ならば………ってな」
「はぁ………なるほど」
エルフたちは、燃え上がったそうだ。
幸い、キノコは豊富である。
しかも、上級ポーションの材料となるキノコもたっぷりだ。失われた手足を復活させるという、上級ポーションの材料なのだ。
一時的に、本人の肉体を巨大化させるというか、周囲に巨大な幻影を生み出すことも、可能ではないかと………
それでも、限界がある。
ならばと、効果をある程度安定させ、戦いに備えるようにしたわけだ。無理に時間を延長せずに、小分けにし、何度も摂取するようにと………
「3分って、それってウルトラの――」
これ以上を、レックは自粛した。
少なくとも、光の国からおいでになった英雄様たちは、キノコを食べて巨大化していない。やはり、日本人の転生者がいろいろと持ち込み、それをこの世界で再現していくうちに、オリジナルを会得していったのだろう。
レックが感心していると、コハル姉さんが指を刺した。
「ほらほら、ボウヤの出番だよ」
キノコの山を、指差していた。
大小たくさんのキノコが、無残な姿をさらしていた。
昨日の、オーク軍団の後片付けが思い出される。ただ一人、黙々とアイテム・ボックスへと収納したボウヤなのだ。
出番だと、コハル姉さんは微笑んでいた。
ドワーフのおっさんも、微笑んでいた。
レックは、お返事をした。
「へいへい、お安い御用で」
逆らう気持ちは、微塵もない。レックはミニスカな浴衣をパタパタとはためかせて、ダッシュで現場へとかけていった。
小物パワーは、今日も絶好調だ。




