歩くキノコと、おっさん
レックは、マグナムを構えていた。
ここは、エルフの国である。
森が天然の結界であり、安全地帯だという。そんなエルフの国に現れるモンスターといえば、城壁や結界を突破する、高レベルなモンスターに限られる。
エルフのモンスター討伐戦は、全てがハードモードなのだ。
レックは、昨晩の宴会を思い出していた
「まさか………食われた仲間の仇――とか言うんじゃ」
巨大なキノコが、歩いてきた。
いや、仲間たちもご一緒だ、ワラワラと、団体さんだった。
不覚にも、レックの脳裏をよぎったのは、美味なるスープであった。
キノコのスープは最高だった。宴会では様々な場所でスープにバーベキューにと、宴会料理が山と積まれていた。
野菜に混じって、キノコもバーベキューされていた。それも、新鮮すぎて、脱走を試みるほどだった。
逃がすものかと、エルフさんたちは、串刺しにしたものだ。そして、串焼きのキノコの肉汁たっぷりが………
レックは、新鮮なキノコの味のとりことなっていたようだ。食欲の瞳で、モンスターの大群を見つめていたのだから。
あのサイズでは、さすがにピンチだ。
「コハル姉さん、早く変身を………一匹や二匹じゃ、ありやせんぜ?」
根っこと言っていいのか、小さな足が不規則に伸びている。それが不規則に這い回って、ちょっと不気味だ。
タコの頭に、キノコの傘をつけたようなモンスターだ。
サイズもたくさんだ。こぶしサイズからバスケットボールに、巨大なものは3メートルを軽く超えていた。
コハル姉さんは、のんびりとしていた。
「お兄ちゃん、ちょっと落ち着きなよ」
腰に手を当てて、生意気なお子様ポーズが可愛らしい。
ミニスカ浴衣が許されるのは、このお年までだろう。見た目12歳の金髪エルフちゃんは、本当に警戒していなかった。
レックは、混乱した。
「だけどですね、オレっちのレーザーは連射が効かないんッスから、囲まれたらヤバイですって――」
マグナムを構えた先では、熱湯レーザーが準備万端だ。キノコめがけて撃てば、倒せるはずだ。オーク軍団も、かなり倒せたのだから。
だが、接近されれば、数の暴力になす術もない。今こそ、セーラー服を着た美少女の戦士の力が、『アーマー・マシンガン』の力が必要なのだ。
コハル姉さんが、ニヤリと微笑んだ
「まぁ、見てなって………キノコ退治の専門家がいるんだから――」
レックが、わけが分からないという顔をしていると、気配が近づいてきた。かなりの速さである、ざざざざ――と、草原を突き抜ける風が横切った。
陽気な声が、訪れた。
「やってみ~やぁ~っ」
どこか、関西弁のノリであった。
イタリアっぽくも聞こえる、おっさんの声であった。
転生した日本人が、いらぬ言葉を持ち込んだに違いない。赤い帽子に、赤いチョッキ、そして青いジーンズのおっさんが、現れた。
レックには、どこか覚えがあった。
「ま、まさか、あなたは………」
震える指で、おっさんを指差した。
レックたちを追い抜いたかと思うと、ハイジャンプで、キックをお見舞いしていた。
そんな赤い帽子のおっさんに、心当たりがどれほどあるだろうか、子供のあこがれの、スーパー・ヒーローの登場だ。
レックは、叫んだ。
「スーパー・マ○オのおじ様っ!?」
どう見ても、スーパー・マリ○のおじさんだった。
赤い帽子に、赤いチョッキに、そして青いジーパンのおっさんが、現れた。
前世の浪人生は、ずっと、アメリカ発祥だと思っていたものだ。正しくは共同開発だったのか、元々、日本生まれのオジサンだったのか………
エルフでも、人間でもない、小人と言う印象である。
それも、横幅にごつく筋肉質だ。4頭身か5頭身であるが、ロリキャラでないことは確かだ。
むしろ、おっさんだ。
「そうか、ドワーフだ」
確実に、ドワーフだ。
近年のイメージどおりの、マッチョ小人だった。マリ○と間違えても仕方ない、おっさんだ。
ただし、巨大だった。
先ほど追い抜かれたときには、明らかにレックよりも背が高く、むしろマッチョな兄貴達に匹敵する長身だった。
レックが見上げる、2メートルを超える長身である。
巨大なドワーフと言う言葉が、ふさわしい。
それでも、巨大キノコよりは小さいのだが………
「すっげぇ~、自分よりでかいキノコを、キックの一撃かよ」
「やっぱり、キノコ退治には、ブーツでキックよねぇ~」
戦いが、始まった。
おっさんが踏みつけたキノコは、そのまま小さくなって縮んでいく。勢いに乗ったおっさんは両足で、さらに巨大なキノコに、そして、さらに巨大なキノコへと、3段ジャンプで、キックをしていた。
大小さまざまなキノコの軍勢に、たった一人の巨大ドワーフのおっさんが、立ち向かっている。
コハル姉さんは、叫んでいた。
「いっけぇ~、がんばれぇ~」
レックも、叫んでいた。
「そこだ、とべぇ~」
感激だった。
ゲームでしか見たことのない光景が、目の前に広がっていた。もはや、おジャマしてはならない、コハル姉さん曰く、専門家なのだ。
そして、前世の浪人生は、直立不動で見つめていた。
お邪魔をしては、ならない――
大先輩が戦っておいでなのだ、決して、余計な手出しをしてはならないと、なにかを気取っていた。
気分は、大先輩に敬意を払う戦士だった。
1分後――
「あんなに、あっさり………」
全てのキノコが、倒されていた。
見逃しがあったとしても、小さなサイズであろう。それこそ、グリルでバーベキューされるサイズである。
きっと、串焼きとしてトドメを刺されるに違いない。新鮮な肉汁は、最高だ。
コハル姉さんは、ふんぞり返って、自慢げだ。
「分かったでしょ?キノコには、ブーツでキックなのよ」
コハル姉さんの解説は、分かるような、分からないような………
だが、なにか理由があるのだろう。コスプレに見えて、何らかの魔法がかけられている可能性がある。エルフの国の、キノコ狩りの専門家なのだから。
唯一つ、レックにも分かることがある
「今晩は、キノコ尽くしだな」
キノコのスープに、ステーキに、串焼きに………
期待はさっそく、膨らんでいた。




