セーラー服と、ヘビー・マシンガン
魔法の輝き。
まぶしくあり、魔力を持つ人間ほど、その影響を受けやすい。暖かな輝きと言うか、強い気配と言うか、不思議な圧力に押しつぶされそうになる。
エルフの、本気だ。
「転生者め、なんてことを………」
レックは悔しそうに、目を細めた。
エルフへのあこがれが、幻想的なエルフのイメージが、たった一人のエルフによって、崩されていく。
同時に、感激していた。
文化への敬意はあるつもりだ。ジャパニメーションという、世代どころか、世界の壁すら越えて広がっている文化である。
セーラー服の中学生が変身する。
そんな戦士の物語は、異世界にまで広がっていたようだ。完全に再現はできずに、口伝えだけであろうが………
魔法の輝きが、エルフの美少女を包んだ。それと同時に、空中から色々と現れて、くるくるとエルフを囲んでいった。
レックのアイテム・ボックスと類似の気配があった。
誰もが持つ魔法ではないが、アイテム・ボックスと同等の能力を持つ魔法のアイテムは、いくつかある。
マジック袋に、マジック・バック、あるいは宝石もある。レックのバイクも、持ち運びに便利である、魔力を流せば宝石に収納されるのだ。
持ち運べる、バイク倉庫なのだ。
前世は、叫んだ。
「な、あれは――」
唖然と、見つめていた。
現れたのは、アーマーだった。
セーラー服は、そのままセーラー服だが、腕輪にリボンにと、過剰装飾がまぶしい。さらには、腰や肩などに、皮製のアーマーが装着されていた。
色合いも、とっても気遣われている、純白の輝きに、淡いピンクの輝きに、鮮やかな赤と、魔法少女のカラーパターンが、ふんだんにカラーリングされていた。
アーマー・セーラー服と言う姿が、出来上がっていた。
どこか、ミリタリーだった。
「天がよぶ、森が呼ぶ、私が呼ぶ。力と正義のセーラー服アーマー戦士、アーマー・マシンガン、ここに参上っ!」
こじらせていた。
リスペクトと言うか、色々と変身ヒーローを持ち出して、発展してしまったのだろう。
エルフさんのケータイには、アイテム・ボックス系統の能力まであったようだ。腕に足に腰に、もちろん胸当てと、ヘルメットもセットだ。
ややカチューシャで、トランシーバーの役割があっても、不思議はない。魔法のクリスタルが贅沢にあしらわれている。おそらくは、防御性能も高ランクのはずだ。
すべて、ケータイの輝きから、現れたのだ。
ガラケーと言うか、トランシーバーのような外見でありながら、恐ろしく多機能が内蔵されていたようだ。
エルフの美少女さんは、武器を両手に構えて、ポーズを取っていた。
「ふっふ~んっ………」
エルフ様は、自慢げだ。
レックの目線を釘付けにして、やや頬を赤らめながら、ポーズを決めていた。まんざらでもないと、口元がゆがんで、可愛らしい。
レックは、思った。
変身、すごい――
セーラー服のアーマー・マシンガンと名乗っていた。エルフの美少女さんが両手に構えていた武器は、マシンガンだった。
どう見ても、ヘビー・マシンガンと言う、マシンガンである。
レックは、口を開く。
「マジカル・ウェポン?」
すっごく、巨大だった。
エルフさんの背丈と同じか、それよりも大きく感じる。単純な筋力では、持ち上げることも出来ないはずだが、軽々と持ち上げていた。
しかも、ツー・ハンドである。
「え?セーラー服なら、この武器なんでしょ?」
12歳に見える美少女エルフ様は、きょとんとしていた。
12歳のエルフさんによる、ヘビー・マシンガンのツー・ハンドである。レックとしては、どこからツッコミを入れればいいのか、分からなかった。
驚きに、固まるだけであった。
ヘビー・マシンガンをツー・ハンドに持ったエルフちゃんは、周りを見渡した。
「包囲されてるから、お兄ちゃんはそっちよろしくね?」
そうだったと、レックは熱水レーザーのチャージを開始した。
すぐにチャージは終わる、ただ、少し魔力を多めに貯めるようにした。水であるために、熱水でも森林火災の恐れはない。
それでも、油断は出来ない、最大の威力で応戦すべきだ。
3メートルを超えるオークの皆様は、武装していた。いったいどのようにして手に入れたのか、見て分かる武装である。
鎧を身にまとっているフルアーマーもいらっしゃったが、オークサイズの鎧など、どこから手に入れたのだろうか。まさか、魔力で生み出せるオークが存在するのか、だとしたら、驚愕に値する。
鉄板を皮膚に食い込ませているだけなら、えげつないことだ。
レックは、肩越しに振り返った。
「ほんと、えげつねぇ~」
レックの後ろでは、エルフのセーラー服の美少女が、仁王立ちをしていた。
両脇にヘビー・マシンガンを挟み込み、中腰になって叫んだ。
「きゃっほぉ~、蜂の巣にしてやんよぉ~」
宣言と同時に、放たれた。
目の前には、オーク鬼の軍勢がいた。その数は、10や20ではない。けたが1つほど、違っていた。
セーラー服を着た美少女なアーマーさんには、関係なさそうだ。ガガガガガ――と、重い銃弾が発射される動作音で、ビーム・マシンガンが全てをなぎ払っていた。
見た目12歳は、笑っていた。
「はははははは、汚物は、消毒だぁあああああっ!」
誰が教えたのだろう、世紀末の伝説で叫ばれていそうなセリフが、可愛らしい声で発せられた。
レックは、唇をかんだ。
「転生者め、なんてことを………」
レックは、ここまで感染が広がったことに、日本人として申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
セーラー服を持ち込んだことも、変身ヒーローを教えたことも、そして、世紀末な救世主の伝説を教えたことも………
レーザーをチャージしつつ、レックは嘆いた。
「あ゛あぁ~、エルフの幻想が、消えていく~」
エルフの美少女な戦士は、笑顔で、ヘビー・マシンガンを撃ちまくっている。
一撃、一撃の威力も十分なライフルの威力。それを、ガガガガガ――という、鈍い速度で撃ち続けている。
大型化したオーク鬼の群れには、最適の武器の選択である。
「って、俺もやらなきゃ」
レーザーが、横なぎになぎ払う。
近づかれていても、貫通した先にもダメージを与えられる。ホースで水をまくように、高圧な水圧レーザーを周囲へとばら撒いて、なぎ払っていく。ついでに大木もべきべきと倒れていく。
ヘビー・マシンガンと熱水レーザーの供宴である。二人を中心に、巨大オークの軍勢が、なぎ払われていった。
もはや、一方的な殺戮である。
巨大オークの皆様も、武器を手に、手近な岩や丸太などを拾い上げては投げてきた。またはそのまま突撃をしてきたのだが………
「ふぅ………カ・イ・カ・ン」
名セリフが、放たれた。
気付けば、静かになっていた。
セーラー服な美少女が変身し、ヘビー・マシンガンが暴れまわったのだ。発射の轟音は、周囲へと警告を与えることも目的にある。
危険だ、近づくなと。
今は、とても静かだ。
周囲には、ミンチが広がっている。いくつかのクリスタルは、粉々だろう。それでも、魔法の弾丸などの材料となり、無駄にはならない。
回収が、面倒なだけだ。
その役割は、決まっている。
「さぁ、我が弟子よ、やれ」
レックは、命じられた。
誰が、弟子だ――などというツッコミは、封印だ。これからお世話になる。そして、世話をしてくれるらしい。
「だって、修行編――でしょ?」
エルフの森に、日本人が現れた。
それはイコール、修行編と認識されたらしい。いったい、今までの転生者は、何をやらかしたのだろうか………
「いったい、何トンのミンチがあると思うんッスか、オレ1人で――」
「これも修行じゃ、やれっ」
かわいいお声で、老師を気取っておいでだ。見た目12歳のエルフさんは、何をしても可愛いと思えてしまう。
中身はロリババ――と思っても、不思議なものである。
そして、レックに拒否権はない。ため息をつく以外に、なにが出来よう。アイテム・ボックスからローブを取り出すと、するすると、大木を降りるのであった。




