エルフの国の、モンスター(下)
オーク鬼、あるいは単純に、オークとも呼ばれる。
昨今では、食料として扱われることもあるモンスターだ。
近づけば、ただの豚ヘッドではないと分かる。豚の顔が凶悪になった、見るだけで本能的に恐怖を覚える。オーク鬼と表現されるのは、なるほどと、納得してしまう面構えだ。
レックは、マグナムを取り出すと、叫んだ。
「レーザーっ」
水球が、マグナムの先端に発生する。これは癖になっている、武器を向けた方角に水球が発生、圧縮されて、レーザーが出るのだ。
熱線ではなく、熱湯が圧縮された、水鉄砲だ。
「がんばって、オークを引き付けてね?」
のんきなものだ。
生きた年齢は不明であるが、中学生のセーラー服が、よく似合う。レックがモンスターを討伐する様子を、のんびりと観察するつもりなのだろうか。
確かに、次々とモンスターが倒される様子は、壮観だ。前世の浪人生にとっては、リアルなシューティング・ゲームである。
エルフの森であるためか、ハードモードだ。
オークは人間サイズのモンスターなのだが、皆さん、軽く3メートルを超える巨体であった。
レックは、つぶやいた。
「………注意は、引けたかな」
「もうちょっと、ハデでもいいよ?」
エルフの姉さんは、ご不満のようだ。
狙ったよりも上の方角へと、レーザーは飛び去っていた。ホーミング機能で、敵を勝手に追尾してくれればいいが、そのような便利な攻撃魔法を習得していない。主人公のチートが、つくづくうらやましいものだ。
照準能力や補正などは、まったくないのだ。
あるのは、魔法の視力強化だけだ。
望遠レンズと言うか、ライフルのスコープの代わりになる。攻撃を仕掛けるため、狙いをつけるだけならば、十分だ。
レックは、叫んだ。
「つづけて、行くぜっ」
マグナムを向けたまま、新たな水球が発生する。
横なぎに、スラッシュすれば攻撃範囲も広がる。距離があるために、上向き過ぎないように注意である。
威力を先ほどよりも高めて、レックは放った。
「へぇ~、ちゃんと中級魔法の威力じゃない。カノン系統くらいかな?」
エルフさんが、ほめてくれた。
みしみしと、巻き添えを食らった大木が倒れる。
大砲と言うことで、大型のモンスターに対処するには、中級魔法が必要となる。ランクが区切られるのは、そのためだ。
エルフさんが、静かに警告した。
「動かないでね?」
レックの肩に触れた、静かな声であった。
戦いの興奮の中の、静かな声である。疑問と違和感で、レックは思わず振り向くと、魔法の気配が周囲を覆い隠した。
次の瞬間には、まばゆい光が、まぶたを覆った。
レックは気付かなかったが、攻撃を受けたようだ。振動が周囲に響くというか、それが資格にもまぶしさとして現れる。
慣れてくれば、小さな違和感となるが、レックは驚いた。
「………バリア?」
エルフさんは、まっすぐと前を見ていた。
「ほら、つづけて攻撃。少しでも数を減らしてね?」
その間にも、バリアには何かが当たっている。
振動が、周囲からも響いている。バリアにはじかれたものを含めて、大きな岩や丸太が転がっていく。
力任せに岩や木材を投げつけていただけなのか。それなりの距離があるというのに、もしかすると、レックよりもコントロールがいいのかもしれない。
ドスン、ガゴン――と、バリアに当たらない周囲にも、雨あられと、色々と投げ込まれていた。
エルフの姉さんは、動じていない。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
きょとん――と、かわいい子ぶった。
日本人の転生者は、余計な知恵を与えやがったようだ。レックが男子であるため、この攻撃力はかなりのものだ。
12歳ぐらいに見える、エルフ美少女の攻撃である。
寂しいボウヤを、お兄ちゃん――と、呼んだのである。
レックは、叫んだ。
「ちっきしょぉ~、分かっててもよぉおおおっ」
レーザーを、放った。
威力は、当社比200%の横なぎだ。
中身はレックの何倍も生きており、ロリババ――という分類をしていても、なぜか反応してしまうのだ。
悲しくなって、やけになった。
「いっけぇ~、かっこいいぞぉ~っ」
エルフ姉さんは、楽しそうだ。
レックはこの横なぎで、ザコの皆様を全滅させたこともある。距離があるために横なぎの範囲は狭いが、攻撃は届いたようだ。
かなり、ダメージを与えたようだ。
雄たけびが、上がった。
「「「「「ブゴゴォオオオオオ―――」」」」」
森が、震えた。
レックには、そう思えた。
10匹くらいの群れだと思っていたが、もっとたくさんいたようだ。派手な攻撃でひきつけろ――その言葉の意味は、こういうことらしい。
とっさに探知をすれば、100匹はいそうだった。
さすが、ハードモードだ。
振動で、実際に震えてるだろう。鳥やそのほかの生き物も、騒ぎから逃れようと動き出している。
地響きが、レックのハラを揺さぶった。
「ちょ、ちょちょちょ――」
「ちょっとした、ピンチってシーンよね?」
エルフさんは、楽しそうだ。
いくら樹木の上から狙撃していても、安全と言うわけではない。岩や丸太は投げ込まれているし、その気になれば、大木であっても倒される。
何十メートルもありそうだが、大群であれば、簡単だろう。
バリアは、攻撃を受けるたびにきしんでいた。
「ほら、団体さんがやってくるわよ」
にっこりと、エルフのお姉さんは微笑んだ。
確かに、団体さんであろう。遠くに感じていたオークの雄たけびや地響きが、どんどんと近づいてきた。
接近が、思ったよりも早かった。
森の木々は、あまり防波堤になってくれないのか、3メートルを超える巨体のすばやさは、歩幅のためだ。
そういえば、3メートルを超えるのだ。足幅も当然、幅広いのだ。
ドスドスと歩いているようで、オリンピック選手を追い抜く勢いのはずだ。
振動が、近づいてきた。
「やってやんよぉおおおっ」
レーザーを、発射した。
マシンガンを撃ちまくるように、左右に射線を揺らす。まっすぐに一本の線ではなく、放水をするように、熱水レーザーを暴れさせた。
水流が当たれば、威力はレーザーなのだ、腕ははじけ、胴体に当たれば真っ二つになってくれる。
オークの軍団は、気にせずに突撃をしてきた。
ようやく、レックは気付く。
先ほどのオークの雄たけびは、森を振るわせたのだ。前方からのみでなく、そういえば、後ろからも、横からも響いていた気がした。
真横から、トマホークが飛んできた。
「ひっ――」
バリアが、守ってくれた。
しかし、エルフのバリアは、いつまで防御が出来るだろうか。後ろからも大群が来て、この大木を倒されれば、踏み潰されるだけで、致命的だ。
レックの恐れを感じたのか、エルフの中学生ちゃんは、格好をつけた。
「ふっ、私の正体を教えてあげる――」
ケータイを、すちゃ――と、構えた。
顔の横において、腕をクロスさせていた。いったい誰がこのポーズを教えたのだろうか、戦隊ヒーローみたいだ。
もしくは、美少女が戦士に変身するポーズである。
中学生なエルフさんは、セーラー服をなびかせて、ケータイを操作した。
そして――
「ルーン、クリスタル・パワー………アーム・アッープっ!」
叫びやがった。
前世が、驚愕をしていた。どこに気を使っているのか、ルーンでクリスタルのパワーが、周囲に満ちた。
セーラー服が、輝いていた。




