表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
40/262

おどろきの、エルフの道



 めまぐるしく、森、森、森――と、景色が過ぎて行く。レックはのんびりと、その光景を見つめるだけだった。


 ぼんやりと、《《突っ立っているだけ》》だった。


「ここでも、SFかよ………」


 悟った瞳で、つぶやいた。

 分かっていた、分かっていた………と、レックはつぶやいていた。

 立ち止まっていても、《《景色は変わっていく》》のだ。パーキングエリアから、エルフの団体様に案内された道は、森に隠れた道であった。


 だが、ファンタジーにお約束の、エルフの道ではなかった。


「空中の遊歩道………木製ってだけで、ほぼSFじゃんか………」


 道が、動いていた。


 いや、前世でも動く通路は存在していた。正しい名前は覚えていないがエスカレーターのように動く通路で、手すりがあった。

 SF映画やアニメでは、当たり前にあった、動く通路だ。

 そうした往年のSFで表現された技術は、いくつか実現されたのが21世紀である。それが、異世界でも実現されていただけだ。


 ただ、速度がおかしかった。


 過ぎ去っていく木々の光景から、速度はバイクで走る程度と感じた。時速30キロはあるのか、いいや、時速50キロかもしれない。

 徐々に加速したわけではなく、気付けば周囲の景色があわただしく動いていたのだ。


 よくも、転ばないものだ。風の圧力も感じない、何かのフィールドと言うか、力場と言う結界があるに違いない。

 手すりすら、存在しないのだ。


 気付けば、エルフの団体さんが会話に加わっていた。


「昔は魔法で“道”を通したんだけどね、こっちならほとんど魔力を使わないし、周りの景色を見ることも出来るしね」


「そうそう、すぐに通り抜ける“道”と違って、異変を見ることも出来るから」


「それに、旅人さんが驚く姿も見られるし、私達の作る“道”だって思い込んだままだったりするし………」


 エルフの団体さんが、レックに解説をしてくれる。のんびりとして見えて、全てを把握しているというのか。

 そして、かつてはファンタジー気分がくすぐられる、エルフの道があったようだ。それをわざわざ、ややSF風味の空中の遊歩道にしてくれたわけだ。


 古きよきファンタジーが、ここでも台無しにされた気分だった。


 エルフへの幻想は崩れているが、全てではない。エルフの森の周囲百キロは緩衝地帯として手つかずで、そして、さらにその奥へ進んだ古い、古い森が、エルフの森なのだ。


 前人未到の、神秘の土地。


「ところで――」


 レックは、気になった事を口にした。

 案内してあげる――そう言って、レックの前に仁王立ちをしている女の子は、『マヨネーズ伯爵』の都で、レックが出会ったエルフである。

 レックが初めて出会ったエルフであり、いきなり幻想が吹き飛んだ、ケータイを自慢する、歩く90年代だった。


 見た目だけなら、セーラー服を着た女子中学生だった。


「………えっと、どうしてここへ?」


「だって、森のエルフだもん、たまには里帰りするよ」


 エルフのいう、たまに――が、何十年か、それは分からない。


 そうではなく、レックを出迎える団体さんの一人だったのだ。バイクの一人旅であるレックより、早く到着したのは分かるのだが………

 寄り道もしたが、レックよりも早く待ち伏せできるとは、思えない。エルフの魔法であってほしい、なにかがあると、思いたかった。


 レックは、思い出した。

 自分よりも早くエルフの森へ到着された。そんな疑問など、些細なことだ。レックはさらに重要なことを思い出していた。


 腰を低く、おうかがいをした。


「あのぉ~、ケータイの姉さん。前にスプルグの転生者と会ったけど、何で――」


 ここまでしか、口に出来なかった。


 子供は、子ども扱いをしてはならない。さらには、生きた年齢は、レックが遠く及ばないお姉さんなのだ。

 そんなエルフに、レックは警告をされたのだ。

『マヨネーズ伯爵』の都にて、偶然、出会った。少し会話をして、それでお別れと言うときに、言われたのだ。


 もしも『スプルグ』からの転生者に出会ったら、すぐに逃げなさい――


 その『スプルグ』の転生者は、スーパー・ロボットのパイロットのエルフ様だった。見た目年齢は、目の前のセーラー服と同じく12~13歳の女の子だ。


 あくまで、見た目だ。


「言ったのに――」


 ご機嫌、斜めだった。


 き直そうかと、レックは少し身をかがめる。こういう場合は、逆らってはならない。大人の女性過ぎるロリババ――お姉さんであっても、女の子なのだ。

 考えては、いけないのだ。


「アイツに関わったら、大変だって………せっかく――」


 ぶつぶつと、ご機嫌斜めだ。


 こうして見ていると、子供っぽくて、可愛らしいと思った。ケータイを自慢するのも、新しいおもちゃを自慢する子供だとすれば、理解できる。


 ご機嫌が悪くなったのも、すぐに分かった。


 関わらなければ、幸せだ。レックは現実逃避がしたくなり、周りを見回した。


「………エルフの王国………か」


 どこまでも続く、森、森、森………

 エルフの森らしいとも言える。木々に混じって、クリスタルが松明たいまつのように輝く支柱も横切っていく。結界のための装置なのか、少しファンタジーの印象だ。バリアと言うか、結界と言う防衛システムか、警報装置か………


「どうしたの?」


 ケータイの人は、子供っぽく振り返った。


 レックは、愛想笑いを浮かべる。

 後ろの団体様は、そんなレックの様子を、ほほえましそうに見つめている。いや、この中で最も若い、背伸びをする女子中学生のエルフの子を見守っているのか………


 エルフたちは、どこかを見ていた。

 女子中学生エルフが動いた。そのため、やっと気付いた。


 穏やかに見えて、どこかを気にしているようだ。さて、どうなるのか………そのような、のんびりとした気配だ。


「えっと、皆さん………」


 ただ事ではないのか、新たな旅人か。


「ボウヤ、冒険者なんだろ?私の作ったポーションをやるから、手伝いなさい」


 突然の依頼に、レックはやや固まる。


 見た目は12歳あたりの、前世では中学生のセーラー服は、ポーションのお店をなさっていた。お値段はかなりすばらしかった、懐が豊かでも、戸惑うレベルだ。

 それだけ、高品質と言うことで………


 レックは、周りのエルフたちを見渡す。

 許可を求めるレックの目線に、エルフの皆さんは、優しくうなずいてくれた。この依頼は、エルフの国としての依頼として、引き受けてよさそうだ。


 レックは、コートの内ポケットのリボルバーに触れる。


「お客ってだけより、貢献があったほうがいいよな――」


 突然の訪問者に、皆さんは興味を抱いている。

 旅人は、なにも変化がない村人にとっては、最大の娯楽である。


 レックも、かつて村人Aであった。

 退屈な日々において、旅人が訪れた。ただそれだけで、お祭り騒ぎであったのだ。些細な話でも、何気ないことでも、全てを聞きたがったお子様が、レックである。

 エルフたちも、同じらしい。


 だが、なにもしないのに歓迎されるのは、少し気まずかった。何かお役に立てるなら、やってやろうと、レックは意気込む。

 依頼内容を教えてもらおうと、冒険者の瞳で、女子中学生なエルフをみつめる。


 レックが声を出すより早く、エルフの人は微笑む。


「気付かないか………モンスターが出たんだよ」


 ケータイのエルフさんは、乱暴に答えてくれた。

 乱暴と言うか、そんなことも分からないのかと言う、あきれた気持ちが伝わってくる。はっきりと馬鹿にしないのは、人とエルフの違いを理解しているという、大人の態度であった。

 隠しきれないあたり、まだお子様なのだろう。


 お子様レックは、むっとしていた。


「えっと、エルフの結界って、ないの?パーキングエリアから、ずっと気配があったけど」


「森全体が、強い魔力を帯びているからね………だから、弱いモンスターは近づかないってことで………強いよ?」


 レックの脳内で、BGMがこだまする。ボスの登場シーンで流れる、強敵出現で流れる、アレである。

 心臓がドキドキ、音楽が流れるだけでアドレナリンが口からあふれる、アレである。


 弱いモンスターは近づかない――


 エルフの森である。結界があるのではないのかと、レックが感じたのは、間違いではなかったらしい。

 潜り抜けることが出来るのは、高ランクのモンスターだ。


 レックの脳内で、BGMが大音量で鳴り響く。


『城壁が突破されました。緊急クエスト、発生です――』

 突然の、イベントシーンで、強敵が現れたシーンである。前世の浪人生が、ハッスルしていた。


 現実のレックは、恐る恐ると、たずねた。


「オレ、ブロンズ――」


 強敵と戦うには危険だと感じている、まだ新米と呼んでほしいと、心では思っているレックである。

 上級にランク・アップをしていても、結界を突破するレベルが相手なら、さすがに早いのではないかと、冷や汗がだらだらと流れる。


 見た目はお子様なエルフさんは、レックの手をつかんだ。


「いくよっ」


 レックの返事は、必要ないようだ。


 ハードモード、スタートだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ