歓迎、エルフの団体様
一本の道が、どこまでも続く。
どれだけバイクを走らせても、森、森、森と言う道は、どこか別の世界へと迷い込んだようで、不安にさせる。
エルフの王国へと、続く道だ。
レックはそのように説明を受けていた。
「ちきしょう………不思議の森って、こういう意味かよ………」
不思議の森だ。
確かに、噂どおりだった。道を教えてくれた冒険者ギルドの言ったとおりに、不思議な森であった。
入り口からして、予想外だった。
ジャパニーズ・ホラーだとは、思っても見なかった。
このような“おもてなし”を仕掛けるなど、どのようなエルフたちなのか、とっても不安だ。
とっても、いい性格をしておいでなのだろう。せっかくのパーキング・エリアであったが、レックは相棒のエーセフを、宝石に収納した。
レックは、ぼそっと、つぶやいた。
「スキル、探知………」
予感があった。
想像と異なっていたものの、ここはエルフの王国だ。ファンタジーのお約束としては、門番の登場シーンである。
いいや、森の見張りというべきだ。
何者だ――と、弓矢を放たれても、おかしくない。むしろ、そうあってほしかったと、レックは思った。
だが――
「………団体さんですか、そうですか――」
スキル――と口にしたのは、レックの趣味である。
目や耳で探すよりも、さすがは魔法である。魔力レーダーと言うか、そこに魔力がある、生き物がいると、分かる。
種族や攻撃力などは分からない。ゲームやアニメ、ラノベのように、便利ではないのだ。それでも、団体さんがいることは分かった。
レックは、反応のする方角へ向けて、声をかけた。
「あのぉ~、団体さ~ん、出てきてくれませんかねぇ~」
何十人も、集まっていたのだ。
囲まれることも、可能性としては考えていた。警備チームの人員構成など、レックが知るわけがない。
団体さんが、現れた。
「いやぁ~、ばれてしまいましたなぁ~」
「何を言ってるの、いつ気付くかって、ワクワクしていたくせに」
「ほんと、いい年して」
「いい年なのはお互い様だ、人間にとっては――」
ぞろぞろと、現れた。
皆さん、エルフの人のようであるが………服装は、ちょっと待て――と、前世の浪人生が叫ぶものだった。
いったい誰が教えたのだろう、心当たりは、前世の日本人である。横並びに大きなプラカードを持って、お出迎えモードだった。
皆さんで協力したのか、大きなプラカードがあった。
――おいでませ、エルフのくにへ
チケットと同じく、ひらがなだった。
転生者の誰かが、日本語を教えたことは確実だ。ひらがなであるのは、教える側の限界だったのか、あるいは、わざとなのか………
レックは、じっとりと口を開いた
「観光………ですか?」
ツアーガイドの姿をした、団体さんだった。
お出迎えの全員が、ツアーガイドさんなのだ。青や緑にピンク色にと、スーツの色は様々で、スカートの丈も様々だ。
全員、エルフだった。
「いやぁ~、日本人は久しぶりだな」
「やだ、この前も来たじゃないの」
「あれは、10年前だったか?」
「何言ってるの、20年前よ」
「ははは、10年も20年も、一緒じゃないか」
にこやかに、皆さんが笑い合っている。
10年も20年も同じと言うあたりは、さすが長寿のエルフと思うのだが………
レックは、一言だけ言いたかった。
「観光目的、オレ(日本人)かよぉおおおおっ~」
思わず、叫んだ。
最近は、叫んでばかりの気がする。
そう、前世が叫ぶのだ。絶叫を上げるような演出は、悪意を感じる。お暇な皆様が、精一杯の“おもてなし”をしようと、待ち受けていたようだ。
レックの叫びは無視され、ぞろぞろと、レックは囲まれていた。
「さぁ、さぁ、旅の日本人よ。改めてようこそ、エルフの王国へ」
「いやいや、変わり者――遠くからの旅人には、我らも興味がありますからなぁ」
「はっはっは………日本人とは、変人――我らを常に楽しませてくれるからな」
「本と、楽しみですわ。今回はどのような騒動が起こるのか――」
皆様、楽しそうだ。
変わり者――
変人――
日本人がどのように見られているのか、よく分かった。
そして、騒動が起こることを楽しみにしている様子が見える。長生きをしすぎて、騒動を娯楽に感じるらしい。
さすがは、エルフだ。
レックは、日本人を代表することになるのだと、気を引き締め――るつもりは、まったく無かった。
逆に、エルフへの憧れが、ガラガラと崩れ始めていた。
ぶつぶつと、つぶやいた。
「変わり者のエルフ………まだ、まだだ。村に一人か二人………その程度だ、まだ、まだだ、まだ、神秘のエルフは、神秘なんだ………」
まだ、レックは認めなかった。
エルフとは、神秘の種族なのだ。残念設定は、必要ないのだ。ケータイを自慢するエルフや、スーパー・ロボットを乗り回すエルフは、例外だ。
イタズラを仕掛けるエルフも、例外に違いない。
きっとそうだ、信じれば、救われるのだ。
「信じるんだ、レック………剣と魔法のファンタジーなんだ、神秘のエルフは、きっとどこかにいるんだ。信じろ、信じろ………」
必死に、自分を抑えるレック。
ここは、エルフがたくさんいるのだ。エルフの国であることは、間違いないはずだ。変わり者が、珍しいものが好きな人々が、まずはお出迎えに来ただけだ。
レックは、自分に言い聞かせた。
エルフの国へ入れば、きっと古きよきファンタジーが待っていると。わざわざ、どこまでも続く森の道があるのは、なぜだと。
ややSFの世界でも、エルフの皆様はエルフなのだ。
高層ビルを生み出す代わりに、ありえない巨木の近くで住まっているはずなのだ。
ファンタジーな、神秘なのだと………
「ファンタジー………あれ、そうか、結界――」
レックは、周りを見回した。
エルフに囲まれており、その気配があまりに強いことに、やっと気付いた。エルフの皆様からあふれる魔力は、レックはもちろん感知できた。
わざと、感知されやすいようにしたのかもしれない。
森全体も、強い気配があったのだ。
「あら、ボウヤに分かるのね。まぁ、転生者だし、冒険者で………前に出会ったときより、ちょっとは経験をつんだのかしら?」
セーラー服が、混じっていた。
どこかで見た、ケータイを自慢する女子中学生が、ここにいた。団体さんにまぎれていて、レックは気付くのが遅れた。
ガラケーは、相変わらず自慢げだ。ジャラジャラと、小さなお人形やら色々をぶら下げて、重そうである。
歩く90年代は、レックのそばで見上げてきた。
「案内してあげる」
拒否権など、あるわけが無かった。




