行こう、エルフの森へ
ホラーが苦手な方は、ご注意ください。
ブロロロロロ――
ご機嫌に、バイクが進む。
進んでも、進んでも、森、森、森………そんな一本道を、レックはバイクで進んでいた。うんざりするようで、しかし、レックは笑顔だった。
こうあるべきだと、笑みを浮かべていた。
「人の世よ、しばしの別れだ。ここから先は未開の土地、人の立ち入れぬ、神秘の土地なのだから………」
浸っていた。
レックは、バイクの一人旅に戻っていた。
国境の町からの依頼は、とりあえず達成された。だが、スーパー・ロボットの人の助けを受けており、達成感は微妙だった。
調査目的が達成されたのかも、微妙だった。
いや、そういうものかもしれない、『爆炎の剣』との調査も、モンスターを討伐、その数を報告しただけなのだ。
即座に、ヤバイ――と思う状況であるのか、急ぎでレックが派遣されたのは、そのための調査だった。
本当にヤバイ――と言うレベルであれば、レックにも分かるという。
よく分からない………レックがそのような感想を抱いた時点で、恐れた事態ではないという。
これ以上は長期的な調査と、定期的な巡回以外に、取るべき手段はない。
それ以上の事態が起こっていれば『テクノ師団』の出番であり、領主様の軍隊の出番であり、国が動く時である。
レックはとりあえず、解放されていた。
「………ま、いっか」
すっきりするような、しないような………とにかく、ギルドマスターへ報告をして、依頼達成と判断されたのだ。
追加で調査を求められたが、前回ほどの圧力は無かった。なら、旅立ってもいいのではないかと、レックは恐る恐ると、ご質問を申し上げた。
仕方がないという雰囲気だったが、お美しい奥方の微笑みもあり、レックは解放されたわけだ。
即効、レックは旅立った。
宿にいれば、ややSFなメッセンジャーの人が現れそうで、急いだのだ。見た目はバスケットボールの人が、空中に浮かんで現れる。
そんな事態は、ゴメンだった。
国境の町を訪れたのは、仕事が目的ではない。目的地へ向かう途中で、立ち寄っただけだ。レックの最初の目的地は、この国の外にあるのだ。
ファンタジーを探す旅なのだ。
ファンタジーといえば――
「エルフ………スーパー・ロボットの人もエルフだったけど、2人目だったけど」
エルフに出会ったのは、2度だった。
一人は、ケータイを自慢する、歩く90年代だった。
一人は、ロボットを自慢する、スーパー・ロボットのパイロットだった。
これじゃないのだよ――
そんな気分だった。
この世界がややSFだと、思い知らされる気分だった。エルフがケータイを自慢し、スーパー・ロボットを操縦していたのだから。
バイクを走らせながら、レックは笑った。
「まぁ、森の外にいるエルフは、変わり者がお約束なのだよ」
前世が、口から飛び出した。
レックは、バイクでの一人旅の途中である。とくに目的地は決めていないが、目的は決めていた。
「本当のエルフは、森に住まい、何千年も変わらない、排他的な、人の俗世を超越した存在なのだよっ」
――古きよき、ファンタジーに会いに行く
転生したと気付いて、決めたことだ。せっかく、転生した主人公であり、魔王を倒せという目的を与えられていない、自由なる身分なのだ。
神秘と言えば、エルフなのだ。
そして、古きよきエルフの姿を知るには………
「本物のエルフは、この先だ。広大なるエルフの森のエルフこそ、ホンモノなのだよ………そうだろ?エーセフ」
街道をとろとろと走りながら、レックは相棒にそっと問いかけた。
森の中の、神秘の世界。
エルフの、王国。
王国と言うには集落というか、村と言うか、ともかく、あまりの長寿ゆえに、人とは異なる生活スタイルを持つ人々。
レックは、バイクを静かに走らせる。エンジン音など、エルフの森にはふさわしくない。そう思っていたのだが………
違和感に、レックはバイクを止めた。
「なぁ、エーセフ………そろそろ、エルフの森だろ?この一本道をいくと、一本道しかないから、エルフの森しかないんだろ?」
レックは、それを見上げながら、相棒のバイクへと問いかけた。
答えないことは分かっているが、言いたくもなる。違和感がすると、レックが気付くのは遅すぎた。
片手を上げて挨拶をしてくる、女の人の看板を見上げていた。
エルフのお姉さんのイラストが、腰に手を当てて、片手を上げて、ご挨拶をする看板であった。
レックは、つぶやいた。
「ちょっと待ってくれ――なぁ、エーセフ………あの《《看板が、こっちを見た》》ように見えたんだが………エーセフ、おまえはどう思う?」
レックは、震えていた。
片手を上げて挨拶をしてくる、女の人の看板。
確かに、そんな看板はどこにでもあるだろう、ただ、最初に見かけた看板の姿から、姿が変わることなど、あるのだろうか。
《《看板が、こっち見た》》――なのだ。
「ようこそ、エルフの森へ――」
しゃべりやがった。
看板が、しゃべりやがったのだ。
レックはおびえつつ、驚きつつ、冷静になろうと口をパクパクとさせる。一体何が起こっているのだ、なにしてくれちゃってるの――と言う気分だった。
エルフの魔法だと、信じたい。
ファンタジーとして、アイテムが言葉を話す、忠実な僕として働いてくれる。そういった話であれば、レックも納得だ。
違うと、直感が叫ぶ。
直感の名前は、前世の浪人生であった。
看板は、バグっていた。
「ここ………ここは、ここは――」
バグっていた。
バグりながら、ぞろり、ぞろり――と、足をゆっくりと進めてきた。
どこかで見た、貞○さんのように、看板から立体映像が飛び出していた。しかも、時折ノイズをちらつかせながら、近づいてくるのだ。
さわやかな笑顔が、とっても不気味だった。
「ど、どっど………どうぞ、こちらです、こちらです――こここ、ここち、こち、こちら、こちら――」
ドキドキが、止まらない。
ノイズをちらつかせながら、○子さんの演出が近づいてくる。徐々に、お姉さんが巨大化している気がするのは、気のせいなのだろうか。
徐々に、ノイズに隠れた姿が、真実の姿がはっきりしてくる気がするのは、気のせいなのだろうか………
「ようこそ、ようこそ、ようこそ、ようこそ――」
巨人な看板のお姉さんが、目の前で見下ろしてきた。にっこりとした笑顔のままで、とても不気味で、恐怖をさそうノイズである。
真実の姿が垣間見えちゃうのだ。
ロングヘアーを前にたらした、あのお姿なのだ。
「○子の人だ、絶対コレ、貞○のビデオテープ作ったのと、同じ人の演出だ」
ジャパニーズ・ホラーは勘弁だ。




