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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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スクロールは、ややホラーだった

ホラーが苦手な方は、ご注意ください。


 これはまだ、レックが『マヨネーズ伯爵』の町にいたときの話だ。


 不思議を探しに、旅立とう――


 前世の記憶を持つレックには、この世界は新鮮で、驚きだった。ややSFであったために、古きよきファンタジーを探すために、旅に出たくなったのだ。


 そのために、様々に準備が必要だった。

『マヨネーズ伯爵』の町は、さすが豊かな伯爵の町と言うだけあって、様々な最新製品にあふれていた。

 品揃えも豊富で、そして、スクロールと言う、ファンタジーではお約束の、魔法のアイテムも豊富だった。


 ある日レックは、スクロール・ショップに立ち寄った。


 魔法を、覚えたかったのだ。

 カルミー姉さんとの修行では、あくまでカルミー姉さんが知っている魔法しか教わることは出来ない。

 レックが習得できた魔法は、多くない。


 カルミー姉さんは、教えてくれた。

 魔法には相性がある。師匠の教えを受けたとしても、教えられた魔法を、わずかしか覚えられないこともある。


 それは、よくあると。


 師匠から覚えが悪いとか、才能がないとか言われて落ち込む魔法使いは、少なくない。だが、相性の問題がるのだ。

 水の魔法に適正がある人物は、逆に、他の魔法を覚えにくいこともある。そればかりは、何年も修行を続けて、自分で気付く以外にないのだ。


 スクロール・ショップは、おかげで繁盛している。


 スクロールを使えば、目の前で魔法が発動し、解説をしてくれる。見ただけで覚えられるわけではないが、師匠が知らない魔法も、教えてくれる。


 お金が、必要なだけだ。


 魔法の種類は、数千とも、数万とも言われる。誰もが全ての魔法を操れるわけでもなく、師匠と呼ぶ人物にも、限界はある。

 補うのが、スクロールだ。


 そういうわけで、レックも、スクロール・ショップを訪れたのだが………


「い、いらっしゃ………らっしゃ、らっしゃ………」


 よぼよぼの、ご老人が現れた。


 魔法のスクロールを扱っているため、フードをかぶった魔法使いをイメージしていたが、古書店の頑固親父だ。

 違和感が強すぎて、立ち止まった。


「こ、こここ、これ………」


 どう見ても、ビデオテープであった。


 半ズボンの頑固ジジイであることは、かまわない。

 ファンタジー気分が台無しだ、狭い店内には、大量のビデオテープが、山積みになっていた。


 スクロールも山積みなのだが、ビデオテープも山積みであることが、ヤバイのだ。

 いったい何が入っているのか分からない、全て、真っ黒である。せめて、ラベルを貼ってほしい。


 貞○が出てこないことを祈りたい。


「ひぇっ、ひぇっ、ひぇ………若いのに、知らんのかえ………これはな、ビデオテープといってな――」


 自慢げに、ご老人は語り始めた。

 この様子は、どこかで見たエルフさんを思い出す。女子中学生の格好をして、ガラケーを自慢げにしていた、エルフの人だ。

 歩く90年代と言う印象で、だれも持っていないケータイを、自慢していた。


 レックは、ご老人の自慢話を、黙って聞いていた。


 若いからこそ、知らないのだ。ビデオテープを使ったことがあるのは、前世の親世代である。レックなどは、知らなかった。


 そして、転生者だからこそ、知っている。ラベルのないビデオテープは、ジャパニーズ・ホラーの《《アレ》》なのだ。

 すっかりギャグに用いられるほど有名になった、あのご婦人なのだ。


 最新式だと説明をされたが………まぁ、技術の流通と再現が数十年違いである。最新であることには、違いない。


 ケータイも、それに違いない。

 アンテナがあるために、トランシーバーに見える。おそらく、タイムラグがあるのだろう。ややSFな要素があるために、立体映像機能があるために、微妙な気分だ。


「ひぇっ、ひぇっ、ひぇ………お若いの、ビデオを試しなされ。4ポドルと、普通のスクロールより値は張るが、中身ははるかにお得じゃて」


 だまされたつもりで――と、レックは、狭い個室に通された。


 レックの懐具合では、問題ない。かつては一日の生活費であった4ポドルであっても、いまでは、たまに贅沢に行こうと、一度の食費に用いる程度の金額だ。


 その部屋は、重苦しい雰囲気に支配されていた。

 石畳にレンガの壁に、封印のためか、防御のためか、クリスタルが壁に、天井にと、6方向全てにはめ込まれている、用心深さだ。


 スクロールを見るための部屋である。

 下級とはいえ、攻撃魔法を扱うことも前提であるために、封印措置が施された密室空間であるのは、当然だ。

 誰もいない郊外や、荒野であれば問題ないのだが………


 懐に余裕があれば、他にスクロールのオススメはないのかと、店主と相談しながら、魔法を試すのだ。

 店内で試せる部屋があるのは、ありがたいのだ。


 ビデオデッキが、威圧感を放っていた。


「………あれは?」


 レックは、指差した。


 どう見ても、ビデオデッキだった。

 狭い個室に、小さなモニターと、でっかいビデオデッキが置かれていた。


 ホラーでは、お約束だ。


「ひぇっ、ひぇっ、ひぇ………お若いの、よくお聞きなされ」


 もったいぶって、半ズボンのジイ様が、説明した。

 説明を聞かなくても分かるレックだが、聞かずにいられなかった。むしろ、この場面は、ホラー映画の冒頭にある気がして、仕方が無かった。


 逃げ場が、ないのだ。


「ビデオはな、スクロールと違って、あのビデオデッキという装置を使わねば、扱うことが出来ぬよ………さぁ、矢印の通りに――おっと、ワシが出てから、扉を閉めてから………ひぇっ、ひぇっ、ひぇ――」


 逃げ場が、本当にないのだ。


 レックは、さすがに考えすぎかと、説明どおりに、ビデオデッキにテープをセットした。レックの知るスクロールとは異なる、前世がよく知っている、ビデオテープをセットする。


 なお、リモコンは存在していないようだ。


 ウィ~………ン、ウィウィン――


 狭い部屋に、作動音がとてもけたたましい。DVDの何倍も、何十倍も大きな音で、故障したのかと、心配したほどだ。

 弁償しろといわれるのかと、恐怖した。


 更なる恐怖が、もうすぐ始まる予感があった。そのために、つい、フラグってしまったのだ。


「頼むからさ、貞○、出てくるなよ………」


 前世の浪人生が、本気でおがんでいた。

 ビデオテープに持つイメージは、それなのだ。


 来る、きっと来る――なのだ


 物持ちの良い実家には、ほこりをかぶって、題名のないビデオテープが山済みであった。幼い頃は、どれかが貞○だと思ったものだ………


 ふ――と、前世の自分が笑みを浮かべる。あの頃は、幼かったと、

 小さなモニターから出てくるので、ミニ○子なのか、ちょっと見てみたい――


 そう思ったのが、いけなかったのだろう。レックは、つぶやいた


「マジで、出やがったよ。ミニ貞○が――」


 フラグは、回収された。


 画面から、ミニ貞○が現れた。


 ご丁寧に、はいずってくる演出つきだ。

 ちきしょう、ファンタジーをめていた。レックが内心で毒づいていると、徐々に近づいてきた。

 呪いではなく、ややSFなのか、どこかのエルフさんのケータイと同じく、立体映像技術である。3D表示ではなく、のそのそと、歩いてくる演出だ。


 ヘアスタイルも、貞○だった。


 ただ、版権に気を使ったのか、着物は茶色っぽい白………土で汚れたようなまだら模様が、むしろ悪趣味だった。


 突然、人と同じサイズにならない事を、祈ろう。


「えぇ~………では、魔法講座・基礎をはじめたいとぉ~」


 進行役かよっ!――


 レックは、叫んだ。

 やらかした、先輩の転生者は、ぶっ飛ばす――そう、心に誓ったレックだった。


 しかし、異世界デビューまでしているとは、思わなかった、



 ――その後、レックはたびたび、この日の出来事を夢に見るのであった



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