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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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レックと、ギルドのお宿


 ギルド証。

 正規の冒険者ならば、誰もが持っている身分の証である。都市や村、商会などに所属していない自由なる民の、唯一の後ろ盾でもある。

 形状は、なじみのあるクリスタルだ。いくらでも情報を加えることが出来ると言う、便利なアイテムだ。

 前世の浪人生は、叫んだものだ


 カードじゃ、ないのかよ――


 そういえば、なぜ、カードなのだろう。ICチップを仕込んだリングとか、軍隊のドッグ・タグのような金属のチップでもよかったのではないか。

 そういえば、身分の証は紋章と言うのが、身分の高い方々のお約束であった。ナイフであったり、ペンダントであったり………


 レックは、キーホルダーのように小さなチェーンでぶら下げたクリスタルを見て、にやけていた。


「へへへ………ランク・アップかぁ~」


 ここは、ギルド提携ていけいの安いお宿だ。

 条件は様々だが、ギルドと提携している施設を、お得に利用できるのだ。その条件とは、ギルドへの貢献度である。長年ギルドの依頼を受けているベテラン冒険者や、ランクの高い冒険者ほど、お得である。

 レックが、贅沢にも部屋を借りていられるのも、そのおかげだ。


「ギルドの宿で、ついに個室だもんな~………さらば、大部屋。毛布を片手に、いい場所を探していた日々よ、さようなら………いいなぁ、上級ランクは~」


 クリスタルには、ランクが表示される。

 簡単な表示であるが、身分の証はこれで十分だ。『ブロンズ<上級>』と、表記されていた。


 ベテランの証だ。


 一般的な冒険者にとっての、到達点とも言われる。ここより先には、特別な才能が求められる。膨大な魔力や剣の腕、あるいはガンマンの才能に、格闘センス………

 それら才能が並外れて、みんなに頼られる、シルバー・ランクとなる。


 当然、受ける依頼もシルバーだ。

 依頼料は、たったの一度で、一般的な一ヶ月の賃金に値する。場合によっては半年分に匹敵と言うお値段設定である。

 それも、たったの一度の依頼でだ。一週間に一度、シルバーの依頼を受けるだけでも、どれほどの稼ぎになるのか………


 ただ、依頼内容も、それだけ難易度というか、命の危険が上がる。お値段に比較して、割に合わないと思うこともあるだろう。

 だが、シルバーにとっては問題ないと判断されるわけだ。


 レックが、いきなりシルバーにされそうになって、あわてて遠慮をした理由だ。たしかに、巨大ホーン・ラビットの討伐は、シルバー・ランクに依頼すべき内容らしい。巨体で危険で、それが7匹だったのだ。

 レックは、それを討伐、無事に買取に持ち込んだ。そのために、シルバー・ランクにしてもいいと、ギルドマスターは微笑んだ。


 とんでもないと、レックはお断りしたわけだ。とってもギリギリの討伐とうばつであった、毎回あのようなピンチでは、命がいくつあっても足りないのだ。


 チート主人公の、冒険者ではないのだ。


 だが――


「この輝き、ランク・アップにこだわる気持ちも、分からなくはないけど………」


 レックは、ニマニマしていた。


 ニマニマしたくなる輝きを、目の前に広げていた。万が一にもなくすことのないように、ピクニックシートを敷いている。その上に、黄金の輝きが、輝いていた。


 金貨様が、並んでいた。ゴールドな、コインのお人が並んでいた。


「あぁ~、オレが金貨を稼ぐようになるとは………減額されても、手数料を取られても………あぁ、この輝きは、たまりまへんなぁ~」


 エセ関西弁の、いやらしい笑いだった。


 頑丈な壁の厚みは、多少の声を吸収してくれる。レックの笑い声も、隣の部屋からは聞こえないだろう。おそらくは、安眠のための気遣いだ。お安い宿にしては、しっかりとした、頑丈なつくりだ。

 ごっついお人も、ご宿泊になるのだ。当然、武器も一緒にご宿泊だ。レックのようにアイテム・ボックスのスキルを持っていたり、あるいはアイテム袋があればいいが、むき出しのまま、武器を背負っている冒険者の、なんと多いことか。


 いびきも、殺人的に違いない。そんな中、安心してお眠りをしたいのだ。疲れていても、いびきで眠れないなど、何の拷問だ。


 今日は、よく眠れそうだ。レックは周囲を静かに見渡して、うれしさに笑みを浮かべる。ここは一人部屋だ、簡易ベッドや小さなテーブルは安っぽさの印象しかないが、頑丈なつくりである。

 とても、静かであった。


 そして、天井を見上げる。


「転生者、こだわりすぎだろ………絶対あれ、火災報知器のアレだよな。もしかして、消火剤をまく機能まであったりする、あれだよな………」


 火災報知器に、そっくりな円形の物体が、天井にあった。

 しかも、照明の役割もこなしている、優れものだ。豆電球のように、天井でクリスタルが輝いていた。

 非常時には激しく輝いて、全ての部屋に警告を与えるのだろう。その非常時が、火災警報なのか、モンスターがでたぞぉ~――という討伐の緊急要請であるのかは、まだわからない。


 天井を見上げたまま、レックはつぶやく。


「すみません、思っただけです。けっして、フラグらないでください。フラグは本日のラビットさんたちで、十分です。お願いします」


 両手を合わせて、警報装置さんを拝んでいた。

 レックは、少しお疲れなのだ。いや本当に、本日は休みたい。7匹のホーン・ラビットを討伐して、くたくたなのだ。

 白い円盤のような天井の照明に向かって、レックは本気で、拝んでいた。


 フラグらないで、フラグしないで――と



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