表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
262/262

最終話  勇者(笑)の戦いは、終わらない

お待たせし、申し訳ありませんでした。



 岩石地帯は、まるで温泉地だ。

 小さな池や大きな池から煙が立ち昇り、舞台演出のような雰囲気を出している。生まれつつある魔王様の叫び声は衝撃波として、接近するだけで吹き飛ばされる。

 ヒーローの登場には、最高の演出だ。


 いや、変身ヒロインだ。



「みんな、準備はいいわね?」


 元気いっぱいのエルフちゃんが、ケータイを構えた。

 コハル姉さんと言う、レックが頭の上がらないエルフちゃんだ。見た目は12歳の可愛らしい、90年代の女子中学生ファッションがブームである。


 仲間の姉さんたちも、ご一緒だ。


「おうっ」

「いくぜっ」

「いいわよっ」

「ええで」


 ケンタウロスの姉さんが、ドワーフちゃんが、エンジェルさんが、マーメイドの姉さんが、それぞれにポーズを決めた。

 手にするケータイも、輝いた。


 そして、叫んだ。


「「「「「ルーン・テクニカルパワー、アーム・ああぁああっぷ」」」」」


 久々である、ルーンでテクニカルなパワーが、アームアップしていた。


 みんなで仲良く、変身だ。


「コハル姉さん、本日も輝いてるぜ――」


 レックは、まぶしそうに輝きを見つめた。

 王様達に皆様に、カメラアイ・ボールの人たちの視線も釘付けだ。録画もきっちりされているだろう。見た目はトランシーバーと言うケータイは、あくまで見た目だけである。ややSFというか、ファンタジーなアイテムである。

 魔法ですべて、解決だ。武器に防具に乗り物にと、人間ではない皆様を飾り立てていくのだ。ヘビー・マシンガンやミニUFOやミニ戦車やガトリングガンやグライダーのミサイルセットや、とっても豪華だ。


 そろって、名乗りを上げた。


「「「「「アーマー・5(ふぁいぶ)、ここに参上っ!」」」」」


 爆発は、オプションだ。


 カメラアイ・ボールの皆様のおかげで、上空に立体映像されていた。岩石地帯に湯気が立ち上り、背後には魔王様の誕生シーンである。


 レックは、元気いっぱいに声を上げた。


「姉さんたち、お待ちしてやしたっ」


 希望の、登場だ。

 レックが巻き込まれるフラグも、大きく手を振っている。赤いはかまの巫女さんファッションのレックは、今だけ観客気分だった。


 客席も、にぎわっていた。


「ふっ、来ると思っていたぞ、アーマー・5(ふぁいぶ)よ」

「ザーサ、王様をぶっても手遅れだぜ。ガキのころを知られてるんだ」

「へっ、ボウヤだからさ」

「あれでババさまより年が――いえ、なんでもないでやんす」


 アーマー・5(ふぁいぶ)の登場で、にぎわっていた。

 王様たちには面識があるらしい、口が滑った人も、よくわきまえている。


 レックは、腰を低くした。


「ってことで………オレっち、帰っていいかな~、なんて――」


 まだ、学生ですし――


 そのような逃げセリフを口にしたかった。しかし、レックは冒険者でもある。シルバー・ランクも<上級>という、上のほうの実力者なのだ。経験や度胸や、色々が不足しているために魔法学校で知識を、とりあえず詰め込んでいるところだ。

 詰め込むたびに零れ落ちているのは、ご愛嬌だ。


 ドロシー先生が、レックに微笑んだ。


「まだ授業中ですよ、レックくん」


 逃がしてくれるわけがない、イベントは、始まったばかりなのだ。遠くからは、空中要塞が接近中であり、スーパー・ロボットの登場まで、あとわずかだ。すでに変身ヒロインであるアーマー・5(ふぁいぶ)が登場した。

 次は、誰の出番だろうか、その考えはフラグであると、レックは一歩、二歩と後ずさる、無駄であろうに、あとずさる。


 そんなレックへと向けて、エルフちゃんが微笑んだ。


「レック~、封印に失敗したんでしょ」


 見た目12歳のエルフちゃんが、にっこり笑顔だ。


 そして、消えた。


「え、消えた――」


 レックに認識できるわけもない、アーマー・5(ふぁいぶ)の皆様も、次の瞬間には消えていた。

 経験済みのはずだと、レックは周囲を見渡し――


 目の前に、現れた。


「まさに、お約束よね~?」

「いや~、失敗して魔王をパワーアップさせてこその勇者(笑)だろ?」

「そんで、ピンチで力に目覚める?」

「オッズは1.1倍………もちろん、失敗のほうでね」

「まぁ~、それも面白いし?」


 みなさま、微笑んでいた。


 エルフちゃんが、ケンタウロスの姉さんが、ドワーフちゃんが、エンジェルやマーメイドの姉さんが、人間ではない姉さん達が、楽しそうだ。

 強敵を前にしてこそ、勇者(笑)なのだ。今日も笑いを取ってくれと、期待の眼差しであった。


 レックは、涙目だ。


「フラグったぁ~、フラグったッスよ、ステータス先生~」


 ドーナッツ形状のアイテムを手に、レックは空を見上げた。


 魔王は倒した、あとは異世界のスローライフだと思っていたレックが、甘かったということだ。ただの体験学習ではなかったのかと、ドーナッツにしか見えない封印のアイテムを手に、なげいていた。


 カメラアイ・ボールの人が、解説してくれた。


『でゅふふふ、レック氏、残念だったでござる』


 カメラの向こうは、神殿のおっさんである。


 罠であったと、白状してくれるらしい。

 いや、大博打おおばくちとして、レックが生まれつつ魔王様を封印してしまっても良かった。転送魔法で、次、言ってみよう――という変更が発生するだけだ。

 魔力の溜まり場は、どこにでもある、魔王様を封じている神殿は、100を超えると言うのだから、相手には困らないのだ。


 メイドさんが、ポーズを決めた。


「魔王との対決は、勇者(笑)の宿命なのだっ」

「お祭りよっ」

「祭りだっ」

「祭りだぜっ」

「待ってたわ」

「――ってことやで、レックちゃん?」


 アーマー・5(ふぁいぶ)の姉さん達も、ポーズを決めていた。


 ホワイトボードが、涙を誘う。

 レックになじみのオッズである、封印に失敗する倍率は、1.1倍であった。空中要塞が出発し、アーマー・5(ふぁいぶ)の姉さん達が集結したのは、レックの失敗を信じてのことであった。


 空中からも、声が響いた。


『ラウネーラ・ゴーっ!』


 銀髪のエルフちゃんが、降ってきた。

 アーマー・5(ふぁいぶ)が変身したのだ、乗り遅れるものかと、ロボットが飛び出てきた。

 まずは4メートルサイズのゴーレムと言うか、4頭身ほどのロボの登場だ。少しフォルムがスマートになっている、胴体がコクピットだ。

 着地と共にハッチが開いて、その姿が現れた。


 びしっと、ポーズを決めていた。


「やっほぉ~、異世界スプルグから、天才美少女パイロットが到着にゃ~っ!」


 色々と混ざって、残念となっていた。

 パイロットスーツに、猫耳カチューシャと尻尾をオプションの、見た目は12歳と言うエルフちゃんである。

 語尾はもちろん、にゃ~――である。ライダースーツにも見える、いつもはパイロットスーツのエルフちゃんなのだが………


 金髪のエルフちゃんが、かみついた。


「ちょっとラウネーラ、それって『すくみず』ってやつ?」


 ファッションに命をかけるエルフちゃんである、相手がいつもと違う服装をすれば、さっそく噛み付くのだ。


 私より目立つな――と


「ロボも新しくなったんだから、さらに最先端って言われたにゃ~」


 肉球パンチでもしそうだ、グローブとブーツまで、お猫様となっていた。


 ここに来て路線変更とはやってくれる――レックの前世が、拝んでいた。今だからこそ輝く服装と言うものがある。


 白い『すくみず』に猫耳と尻尾とグローブとブーツと言うエルフちゃんが、可愛くかっこよく、ポーズを決めた。


 カメラアイ・ボール様が、総動員された。


「今年は、これで決まりにゃっ!」


 さらには、改造されたスーパー・ロボットも控えている。本日はなんとも豪華なことであろうと、レックはちらりと後ろを見た。


 巨大な魔王様のお口が、3つに増えていた。


 直系100メートルを超える池が、とっても狭く感じられる。全身を現せば、どれほどの災害になるのか、その前に封印する役割のレックは、失敗したのだ。

 訓練も説明もないままの体験学習であり、ムチャだった。


 レックは、つぶやいた。


「主人公の戦いは終わらないってか………ねぇ、ステータス先生」


 両手にエルフちゃんをしがみつかせて、現実逃避をしていた。


「こうなったらレックもセーラー服よ、ほら、早く――」

「新たなロボには、新たなパイロットだにゃ~、サポートメカに乗り込むんだにゃ~」


 勇者(笑)の戦いは、終ることがない。

 そんな気分で、空を見つめていた。



『異世界は、ややSFでした』

 ~おしまい~




お読みくださった方々、評価をしてくださった方々、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ