最終話 勇者(笑)の戦いは、終わらない
お待たせし、申し訳ありませんでした。
岩石地帯は、まるで温泉地だ。
小さな池や大きな池から煙が立ち昇り、舞台演出のような雰囲気を出している。生まれつつある魔王様の叫び声は衝撃波として、接近するだけで吹き飛ばされる。
ヒーローの登場には、最高の演出だ。
いや、変身ヒロインだ。
「みんな、準備はいいわね?」
元気いっぱいのエルフちゃんが、ケータイを構えた。
コハル姉さんと言う、レックが頭の上がらないエルフちゃんだ。見た目は12歳の可愛らしい、90年代の女子中学生ファッションがブームである。
仲間の姉さんたちも、ご一緒だ。
「おうっ」
「いくぜっ」
「いいわよっ」
「ええで」
ケンタウロスの姉さんが、ドワーフちゃんが、エンジェルさんが、マーメイドの姉さんが、それぞれにポーズを決めた。
手にするケータイも、輝いた。
そして、叫んだ。
「「「「「ルーン・テクニカルパワー、アーム・ああぁああっぷ」」」」」
久々である、ルーンでテクニカルなパワーが、アームアップしていた。
みんなで仲良く、変身だ。
「コハル姉さん、本日も輝いてるぜ――」
レックは、まぶしそうに輝きを見つめた。
王様達に皆様に、カメラアイ・ボールの人たちの視線も釘付けだ。録画もきっちりされているだろう。見た目はトランシーバーと言うケータイは、あくまで見た目だけである。ややSFというか、ファンタジーなアイテムである。
魔法ですべて、解決だ。武器に防具に乗り物にと、人間ではない皆様を飾り立てていくのだ。ヘビー・マシンガンやミニUFOやミニ戦車やガトリングガンやグライダーのミサイルセットや、とっても豪華だ。
そろって、名乗りを上げた。
「「「「「アーマー・5、ここに参上っ!」」」」」
爆発は、オプションだ。
カメラアイ・ボールの皆様のおかげで、上空に立体映像されていた。岩石地帯に湯気が立ち上り、背後には魔王様の誕生シーンである。
レックは、元気いっぱいに声を上げた。
「姉さんたち、お待ちしてやしたっ」
希望の、登場だ。
レックが巻き込まれるフラグも、大きく手を振っている。赤いはかまの巫女さんファッションのレックは、今だけ観客気分だった。
客席も、にぎわっていた。
「ふっ、来ると思っていたぞ、アーマー・5よ」
「ザーサ、王様をぶっても手遅れだぜ。ガキのころを知られてるんだ」
「へっ、ボウヤだからさ」
「あれでババさまより年が――いえ、なんでもないでやんす」
アーマー・5の登場で、にぎわっていた。
王様たちには面識があるらしい、口が滑った人も、よくわきまえている。
レックは、腰を低くした。
「ってことで………オレっち、帰っていいかな~、なんて――」
まだ、学生ですし――
そのような逃げセリフを口にしたかった。しかし、レックは冒険者でもある。シルバー・ランクも<上級>という、上のほうの実力者なのだ。経験や度胸や、色々が不足しているために魔法学校で知識を、とりあえず詰め込んでいるところだ。
詰め込むたびに零れ落ちているのは、ご愛嬌だ。
ドロシー先生が、レックに微笑んだ。
「まだ授業中ですよ、レックくん」
逃がしてくれるわけがない、イベントは、始まったばかりなのだ。遠くからは、空中要塞が接近中であり、スーパー・ロボットの登場まで、あとわずかだ。すでに変身ヒロインであるアーマー・5が登場した。
次は、誰の出番だろうか、その考えはフラグであると、レックは一歩、二歩と後ずさる、無駄であろうに、あとずさる。
そんなレックへと向けて、エルフちゃんが微笑んだ。
「レック~、封印に失敗したんでしょ」
見た目12歳のエルフちゃんが、にっこり笑顔だ。
そして、消えた。
「え、消えた――」
レックに認識できるわけもない、アーマー・5の皆様も、次の瞬間には消えていた。
経験済みのはずだと、レックは周囲を見渡し――
目の前に、現れた。
「まさに、お約束よね~?」
「いや~、失敗して魔王をパワーアップさせてこその勇者(笑)だろ?」
「そんで、ピンチで力に目覚める?」
「オッズは1.1倍………もちろん、失敗のほうでね」
「まぁ~、それも面白いし?」
みなさま、微笑んでいた。
エルフちゃんが、ケンタウロスの姉さんが、ドワーフちゃんが、エンジェルやマーメイドの姉さんが、人間ではない姉さん達が、楽しそうだ。
強敵を前にしてこそ、勇者(笑)なのだ。今日も笑いを取ってくれと、期待の眼差しであった。
レックは、涙目だ。
「フラグったぁ~、フラグったッスよ、ステータス先生~」
ドーナッツ形状のアイテムを手に、レックは空を見上げた。
魔王は倒した、あとは異世界のスローライフだと思っていたレックが、甘かったということだ。ただの体験学習ではなかったのかと、ドーナッツにしか見えない封印のアイテムを手に、嘆いていた。
カメラアイ・ボールの人が、解説してくれた。
『でゅふふふ、レック氏、残念だったでござる』
カメラの向こうは、神殿のおっさんである。
罠であったと、白状してくれるらしい。
いや、大博打として、レックが生まれつつ魔王様を封印してしまっても良かった。転送魔法で、次、言ってみよう――という変更が発生するだけだ。
魔力の溜まり場は、どこにでもある、魔王様を封じている神殿は、100を超えると言うのだから、相手には困らないのだ。
メイドさんが、ポーズを決めた。
「魔王との対決は、勇者(笑)の宿命なのだっ」
「お祭りよっ」
「祭りだっ」
「祭りだぜっ」
「待ってたわ」
「――ってことやで、レックちゃん?」
アーマー・5の姉さん達も、ポーズを決めていた。
ホワイトボードが、涙を誘う。
レックになじみのオッズである、封印に失敗する倍率は、1.1倍であった。空中要塞が出発し、アーマー・5の姉さん達が集結したのは、レックの失敗を信じてのことであった。
空中からも、声が響いた。
『ラウネーラ・ゴーっ!』
銀髪のエルフちゃんが、降ってきた。
アーマー・5が変身したのだ、乗り遅れるものかと、ロボットが飛び出てきた。
まずは4メートルサイズのゴーレムと言うか、4頭身ほどのロボの登場だ。少しフォルムがスマートになっている、胴体がコクピットだ。
着地と共にハッチが開いて、その姿が現れた。
びしっと、ポーズを決めていた。
「やっほぉ~、異世界スプルグから、天才美少女パイロットが到着にゃ~っ!」
色々と混ざって、残念となっていた。
パイロットスーツに、猫耳カチューシャと尻尾をオプションの、見た目は12歳と言うエルフちゃんである。
語尾はもちろん、にゃ~――である。ライダースーツにも見える、いつもはパイロットスーツのエルフちゃんなのだが………
金髪のエルフちゃんが、かみついた。
「ちょっとラウネーラ、それって『すくみず』ってやつ?」
ファッションに命をかけるエルフちゃんである、相手がいつもと違う服装をすれば、さっそく噛み付くのだ。
私より目立つな――と
「ロボも新しくなったんだから、さらに最先端って言われたにゃ~」
肉球パンチでもしそうだ、グローブとブーツまで、お猫様となっていた。
ここに来て路線変更とはやってくれる――レックの前世が、拝んでいた。今だからこそ輝く服装と言うものがある。
白い『すくみず』に猫耳と尻尾とグローブとブーツと言うエルフちゃんが、可愛くかっこよく、ポーズを決めた。
カメラアイ・ボール様が、総動員された。
「今年は、これで決まりにゃっ!」
さらには、改造されたスーパー・ロボットも控えている。本日はなんとも豪華なことであろうと、レックはちらりと後ろを見た。
巨大な魔王様のお口が、3つに増えていた。
直系100メートルを超える池が、とっても狭く感じられる。全身を現せば、どれほどの災害になるのか、その前に封印する役割のレックは、失敗したのだ。
訓練も説明もないままの体験学習であり、ムチャだった。
レックは、つぶやいた。
「主人公の戦いは終わらないってか………ねぇ、ステータス先生」
両手にエルフちゃんをしがみつかせて、現実逃避をしていた。
「こうなったらレックもセーラー服よ、ほら、早く――」
「新たなロボには、新たなパイロットだにゃ~、サポートメカに乗り込むんだにゃ~」
勇者(笑)の戦いは、終ることがない。
そんな気分で、空を見つめていた。
『異世界は、ややSFでした』
~おしまい~
お読みくださった方々、評価をしてくださった方々、本当にありがとうございました。




