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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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レックと、神殿 1


 城塞都市――


 異世界ファンタジーとして思いつく、モンスターに対抗するためには当然という都市風景である。この世界においては異なる、神殿を中心にモンスターよけの結界が張り巡らされているために、城壁は必要ないのだ。

 その代わりに、都市風景はややSFというか、昭和の万博が混じっている。それは最新の設備である、建物の屋上にUFOがセットというビルが特徴だ。

 UFOが、たまに飛び立つ風景なのだ。


 魔法学校の敷地にも、しっかりと降り立っていた。


「へへへ、魔法学校の敷地にも、そりゃ~………あるでしょうけどねぇ――」


 レックは、見上げていた。


 魔法学校の敷地は広大だ。

 学園都市と言う言葉があるが、まさに都市国家を思わせる。日本の校舎を模したL文字やH文字やコの文字といういくつもの校舎があり、学生寮も敷地の中でひしめいている。食堂は様々にカフェテリア方式の学食では、クリスタルをかざすと選べるメニューは豊富だった。

 研究施設もあるという、そしてもちろん、中心には神殿がある。


 レックの、本日の目的地だ。


「レック君、ちゃんとついてきなさい、UFOなんて珍しくないでしょ?」


 ドロシー先生が、ちょっと厳しい。

 しかし、レックには分かっている。いつものメイドさんを演じるお姉さんであるが、なにか恐ろしいことを企んでいると、それは経験が教えてくれるのだ。

 散々、上空へと連行されただけで、十分だった。


 本日は、神殿だ。


「あの~………ドロシー先生、ところでオレっちの格好って――」


 レックは、遠慮がちだ。

 金髪のロングヘアーをツインテールにしたレックは、恐る恐ると手を上げた。髪の毛を伸ばし続けた結果、ウィッグの必要なく、自前でロングヘアーが可能だ。


 本日のレックは、ツインテール巫女装束であった。


 神殿へ向かうということで、巫女ファッションが用意されたわけだ。まちがえても、神殿へ向かうための礼儀ではないはずだ、純粋なるファッションである。ツインテールも含めて、ドロシー先生が用意してくれたのだ。

 着せ替えをする人物ではなかったはずだが、要望だと語り、持ってくるのだ。文化祭においては、セーラー服だった。


 ドロシー先生は、立ち止まった。


「ここからは、案内の神官様が来てくださいます、失礼のないようにね?」


 そして、続けた。

 中二モードとなって、続けた。


「新たなる勇者(笑)よ、ついにここへ来てしまったな、もう引き返せないというのに、運命はこの、オーレリアス(以下略)」


 包帯をした左手をレックへと突き出し、手のひらをレックへと向けて、なにかをおっしゃっていた。

 真の名の名乗りを含めて、レックは聞き流した。


 ヤバイ――


 それだけは、レックは受け取った。

 そして、レックは緊張を始めた。

 神殿とは、人々の生活に不可欠な安全装置である。そのため、一般の見学は受け付けておらず、次世代の候補生と呼ばれるようになって、やっと立ち入りが許される。

 魔力値100を超えていることが入学の条件である魔法学校は、候補生がたくさんである。貴族の方々が通う学校でも同じく、候補生の引き抜き合戦が行われているらしい。そうであれば、勇者(笑)という膨大な魔力の持ち主の扱いは、どうなるのか………


 レックはクラブの勧誘大会を思い出していた。


「………あ、あの、ドロシー先生――」

「――先生はここまでです、それでは」


 スタスタと、メイドさんは立ち去った。


 レックの前世は、叫んだ。

 かぶせ気味に言わなくても、いいではないですか――と


 それは、間違いなくフラグである。レックはとても大変な目にあうフラグであると、経験で分かるのだ。

 壁どん――という恐怖よりマシだと信じたい。


 レックは、改めて見上げた。


「………墓場?」


 巨大な、オブジェだった。

 レックが墓場と印象を受けたのは、前世の墓場のイメージのためである。真っ直ぐで直立した巨大なコンクリートという外見だった。

 実際に近づいて目にするのは初めてだった。あまりにも当たり前すぎて、意識をしていなかったのだ。むしろ、結界の境目という印の『ほこら』のほうが、馴染み深い。

 注意すべきアイコンで、見逃せば安全地帯と危険地帯を区別できない、冒険者として危険な場所へ冒険するに当たり、最低限に学ぶ常識の1つだった。


 レックは、じっくりと見上げた。


「いや、墓石って言うよりコンクリートの、むしろ、むしろ――」


 セメントの、巨大なブロックの塊が鎮座していた。


 観察すると、長方形がいくつも掘り込まれたオブジェである。無機質で、ディストピア系の作品と錯覚しそうだ。細長い長方形の入り口が真っ暗で、どこかへ連れて行かれる不安で、少し怖い。真っ直ぐに伸びる階段へは、足を踏み入れたくない。

 見た目は当てにならないと、レックは魔王様が封印されていた神殿で理解しているつもりだった。日本人の転生者がデザインし、設計して生み出したのだ。


 では、このディストピア風の建築を生み出したのは、誰であろう。


「あ………」


 何かが、近づいてきた。


 ディストピア系の作品であれば、ロボットであろうか。あるいは神殿という名前にふさわしい、真っ白な服装の人物でもおかしくない。そしてサングラスをしたスーツの人々が主人公を取り囲み、にこやかに案内するのだ。

 二度と帰ることができない、そんな恐怖を与えるのだ。


 レックは、ディストピア系の作品に迷い込んだ気分を味わっていた。


 赤いはかまの巫女さんファッションだと、すっかりと忘れていた。長くなった金髪はロングヘアーといっても過言ではない、そよそよと、ツインテールが風に泳いでいた。


 レックは、叫んだ。


「ざ、座布団?」


 空飛ぶ座布団が、近づいてきた。


「どうもどうも、ようこそおいでくださいました、新たなる勇者(笑)さま」


 にこやかな笑みの、太ったおっさんが現れた。


 ミニUFOの、オマケもセットだ。

 ぞろぞろと、現れた。座布団サイズで、地上を走れば前世でも活躍のおそうじロボットにも見える。ちょうちんアンコウのように釣竿つりざおというか、頭飾りの先の電球が輝いていた。

 見た目にだまされてはいけない、警備ロボットの可能性も捨て切れない。日本人の転生者がデザインして、その世代が昭和ならおかしくない。

 UFOブームが、この世界では熱いのだ。今も上空で旋回している、どこかへ要人を迎えにいくのか、あるいはお出かけか………


 レックは、お返事をした。


「へへへ、どうも、勇者(笑)レックでございやす」


 下っ端パワーは、調子が良くないようだ。小物パワーも普段はタッグを組んでくれるが、微妙という空気においては、微妙だった。


 本日の授業は、神殿の見学会だ。

 広大な魔法学校の敷地の中心部にありながら、普段は立ち入りが禁止されている施設でもある。それは他の都市の神殿も同じで、安全な生活圏を守るための重要施設であるために、仕方ないことではある。


 おっさんは、微笑んだ。


「どうぞどうぞ、お進み下さい」


 神殿の人らしいおっさんは、浮かぶ座布団に座ったまま、そのまま階段を上っていった。

 レックも階段に足を踏み入れると、いきなり動き出した。


「っと――動いた?」


 動く階段として驚くべきだろうか、人が足を踏み入れると動く仕組みのようだ。常に動き続ける階段であれば、前世が知っている。

 ただ、目の前のおっさんの光景は、ややSFだった。


 どうみても、空飛ぶ座布団だった。

 最新の家具だろうか、あるいは、哀れにもミニUFOの上に座布団があるだけかもしれない。おっさんが巨大すぎて、がんばるミニUFOさんの姿が見えないという可能性も捨てきれない。


 だが、レックにはどうしても気になることがあった。


「あ、あの――」


 遠慮がちながら、レックは手を上げた。

 座布団の積載重量も気になったのだが、おっさんの身分とかもそうなのだが、問いただしたい言葉は、1つだった。


 横幅が広々とした後姿を見つめたレックは、お返事を待った。


「どうされましたかな、新たなる勇者(笑)さま?」


 神官と自己紹介をされたおっさんは、振り返った。

 座布団ごと、振り返った。

 どのようにコントロールされているのかも気になったが、ケータイのように立体映像でコントローラーが現れてもおかしくない。

 そんな些細ささいなことは良いのだ、レックは決意を込めて、口を開いた。


「そのコートの魔女っ娘命って………いえ、やっぱいいです」


 口にしたことで、レックは満足したようだ。

 口にしてはいけないのだと、改めて認識したというべきである。おっさんのコートには、でかでかと刺繍ししゅうがされていた。

 あるいは、プリンターかもしれない、ややSFと言う技術は、写真プリンターという技術が再現されていてもおかしくない。


 そうですか――と、おっさんは進んだ。


 レックは、その背中を見つめながら、立ち尽くしていた。自動で動く階段の次は、そのまま通路も自動で進んでいく。

 動く遊歩道はエルフの国で体験したが、こちらは人間側の技術の結晶なのだろう。少し暗くなったが、清潔な白い空間は研究施設のような緊張感を与える。

 いや、神殿だった。


 レックは、真っ直ぐ前を向いた。


「………まさか、まさか――」


 プリントされていたのは、魔女っ子レック・クリスマスバージョンだった。


 昨年のレックが、レックに向けてウィンクをしていた。やるのではなかったと言う、ノリノリの過去が、自分を見つめていた。


『魔女っ娘命』――という文字が、とっても気になった。




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