レック VS 1年生
プレ・文化祭は、終った。
キャンプファイアーでは青春の1ページと言う黒歴史を量産した。
ファッションショーをして、魔女っ子ショーをしたレックである。アーマー・5の姉さん達と一緒に、ヒーローショーをしたレックである。
なかったことにして、退屈な授業の日々が始まると思っていた。
レックは、走っていた。
「ちょっとおおおおお」
爆音を背後に、走っていた。
時々クレーターがある運動場での、魔法の授業だった。
いつもは野外演習場という運動場で、ドロシー先生と二人きりだった。レックが魔法を暴発させても、かつて勇者(笑)と呼ばれたドロシー先生なら対応できるためだ。
今は、お子様達がお相手だった。
ギラギラと輝いた1年生たちが、魔法を放った。
「くらえ、マジック・ショットっ」
「いくぜっ、マジック・アロー」
「わたしだって、マジック・ショット」
「いきますわよ、トリモチ・ショット」
攻撃魔法が、レックを襲った。
レックの防御魔法である水風船ならば、問題なく防いでくれる。レーザー禁止、水風船というバリア禁止という縛りプレイ中のレックは、逃げるしかなかった。
下級魔法なら、反撃も許可されている。残念ながら、基本のショット系すら生み出せずにいるレックは、逃げるしかなかった。
直撃しても、安心である。互いに魔法学校から支給されるクリスタルを手にしているのだ、中級魔法の直撃にも耐える優れものだった。
レックは、振り返った。
「る、ルイミーちゃん………マジック・アイテムなしで、そんな、そんな――」
3つの輝きが、紫を帯びた黒いロングヘアーを暴れさせていた。
ヘアカラーは母親譲りで、魔法の才能も受け継いだ天才魔法少女ルイミーちゃん9歳が、ニコニコと、微笑んでいた。
「行くわよ、3点バーストっ」
ルイミーちゃんたち5人組は、本日も元気いっぱいだ。
入学式のバトルにおいては、マジック・アイテムを使用していたが、素手である。本日は、マジック・アイテムを使わない魔法のようだ。そのためか、入学式の見世物ではマジック・ショットやマジック・アローを乱射していたお子様たちの攻撃は、ぬるかった。
結果は、変わらなかった。
「おっ、おたすけぇえええ――」
動かない標的をめがけて、魔法を生み出して、放つ。
そんな基礎は4月に卒業、本日は実戦形式として、動く標的をめがけて攻撃を放つという、なんとも命がけな授業であった。
本来は、ゴーレムを作成する上級生の実践訓練も兼ねている。逃げるだけでも制御が大変らしい、1年生は、そんなゴーレムを追い回すのだ。
特別に、レックが追い回されていた。
もちろん、魔法学校が支給するバリア判定のクリスタルが守ってくれる。安心して良いのだが、直撃をくらい続ける恐怖は、シルバー・ランクの<上級>というレックをして、悲鳴をあげさせるのだ。
心は、永遠の底辺冒険者なのだ。
メイドさんが、あおった。
「レックく~ん、授業内容を思い出して~」
結果を知っていて、あおっていた。
レックの担任教師と言うドロシー先生である。レックが今までの授業において、1つも魔法を成功させていないとご存知の先生である。
レックは、涙目だった。
「知ってるくせにぃいいい~」
成功確率は、ゼロだった。
バリアくらいならば――と、手のひらサイズすら生み出せなかったレックだ。
オリジナルに特化している勇者(笑)は、それ以外は使えないというデータがあり、レックも残念ながら、レーザー限定だった。
知識を蓄え、様々な合同授業に参加をすれば、あるいは――と思われたのだが。
メイドさんは、残念そうに解説をしていた。
「ベルおじさんと同じ、レック君は残念でしたか………ピンチに目覚めるのはお約束だと思ったのですが………」
「う~ん、私が預かってたときも、なにかできそうで、できなかったのよね~」
ドロシー先生に続いて、パート教師のカルミー先生も、残念そうだ。
1年生の担任のお一人である。
レックが13歳で冒険者となって、最初に出会った冒険者パーティー『爆炎の剣』の魔法使いのお姉さんである。
簡単な魔法も教えてくれていた、レックの魔法の先生である。
13歳当時で、すでにアイテム・ボックスという能力を開花させていた。それなりに希少な能力で、食べていくことは出来ると飛び出した先で、一応は魔法も習ったのだ。
結果が、残念だった。
「ちょ、ちょぉおおお――」
マジック・ショットが、レックのそばを通り過ぎた。
ルイミーちゃんたち、仲良し5人組は、今日も元気いっぱいだ。
直撃しなかったのは、運が良かっただけであろう。レックめがけて放たれた魔法は、レックを外して、背後に土ボコリを上げていた。
ルイミーちゃんが、お怒りだ。
「にげちゃだめぇ~っ」
新たなる、攻撃魔法を生み出していた。
やはり天才である、魔力値が高いことも手伝って、ショット系の輝きが3つ、いや、4つ、5つと増えていた。1つ1つが下級魔法といっても、6つも生み出して制御するのは、とても大変なはずだ。
ルイミーちゃんは、吠えた。
「いっけえええぇえっ!」
下級の攻撃魔法を3つ、ほぼ同時に放つ魔法は、3点バーストと呼ばれている。
それを、2連射するようだ。
転生者が持ち込んだという、ほぼ同時に放つことで、着弾する位置が微妙にずれることで、すばやい相手への対応も出来るのだ。
攻撃力は、直撃すれば3倍であり、連続攻撃であることから、それ以上の成果が上がる。
使用される魔力値は、中級に匹敵する。
下級魔法といっても、3つの魔法を生み出しているのだ。その上に、3つの魔法を制御する必要があるため、集中力という制御力も3倍である。
やはり天才だと、レックは目を細めた。
「子供の成長って、早いなぁ~――」
顔面への、直撃コースであった。
最初の3点バーストをかろうじてよけたところに、次の3点バーストがレックの逃げ道をふさぐ、3つ同時に着弾ではなくとも、必ずどれかが当たるコースだ。
熟練の冒険者であれば迎撃するか、あるいは最小限のバリアで対応するだろう。動きを読みきって、よけるのもアリだ。
レックは、目をつぶった。
「あぁ、星が見える」
直撃だった。
クリスタルのバリアが守ってくれるといっても、直撃の衝撃は光となり、レックをよろけさせる衝撃が生まれる。
逆らうことなく、レックは地面へと倒れこんだ。
土ぼこりが舞い上がる地面へと、そのままレックは横たわった。意識が刈り取られたというより、悔いはないという、敗者の余韻を味わっていた。
ルイミーちゃんへの惜しみない賛辞を、態度で示したわけだ。
母親のカルミー姉さん譲りの紫を帯びた黒のロングヘアーの、元気いっぱいのお子様である。6歳の出会いでは、抱っこをしろと、遊べと命令をしてきた元気なお子様で、そのときの気分は、互いに抱いている。
成長したものだと、すこし寂しく思うレックだったが………
「レックくん、なに寝てるんですか?」
ドロシー先生の影が、レックの余韻を踏んづけた。
レックと同じ転生者であり、かつて勇者(笑)と呼ばれた20台も半ば過ぎのお姉さんである。前世の影響により中二が顔を出すこともある、左手に包帯をしているお姉さんは、魔法学校においてはレックの担任の先生であった。
スタスタと、敗者レックのそばへと進み出た。
「ほら、第二ラウンド、いきますよ?」
手を、差し出していた。
立たせるためではないと、レックは知っている。
「へい、判定クリスタルの交換でやんすね――」
敗北判定のレッドになっても、しばらくは防御力を維持する優れものだ。
新たなクリスタルを手渡されて、レックはうなだれた。
「ドロシー姉さん、おれっち、魔法の才能が――」
「ないと気付くのも、経験です」
にっこりと、ドロシー姉さんが微笑んだ。
前世などは、叫んだ。言い方――と
こちらの世界の言い方は、別にあるとレックは思い出す。
「もっと、オブラってください」
「オブラートに包んでますよ、転生した主人公が特殊スキルでチートするのはお約束でも、それ以外の才能も伸ばしてこその、魔法学校です」
日本人を前世に持つドロシー姉さんは、異世界転生シリーズも、良くご存知だ。
無能とされた主人公がチートを開花させ、成りあがるのがお約束で、レックもまた、そうして成りあがったチート主人公の気分だった。
チート気分が味わえないのは、先人達がやらかしているおかげである。
知識チートのための知識はなく、できそうなチートは全て先を越されている。冒険者としての活躍も、経験と才能を持つ先輩達が、突っ走っている。
レック程度が相手にならない皆様が、溢れているのだ。
「さぁ、みんな待ってますよ――」
ドロシー先生はそういうと、すっと、浮かび上がった。
雷の輝きがすっぽりと球体となって、ドロシー先生を浮かび上がらせていた。バリアでもあり、空を飛ぶ魔法でもある。
ポーズを決めて、のたまった。
「勇者(笑)よ、戦うのだっ」
ドロシー先生の中の、中二が顔を出していた。
逆らう選択肢など、レックにあるはずがない。そのままゆっくりと、立ち上がるのだ。ルイミーちゃんたち5人は前座として、残るクラスメイトの1年生のみなさまも、待ちわびているという。
レックは、周りを見渡した。
「1年生の皆さん、ぎらついてるな~」
悟った瞳で、レックはつぶやいた。
勇者(笑)と戦えると、たぎっているようだ。




