プレ・文化祭 6
プレ・文化祭
本日の催し物の名前である。
秋になれば本格的な文化祭が開催されるようだが、その前の、ちょっとした紹介と言うお祭りだ。風船が空を舞い、魔女っ子が空を飛び、立体映像が所狭しとにぎわう光景であったが、本番には遠く及ばないらしい。
新入生へと向けた、紹介と言う役割が大きいようだ。
本来なら、新入生のレックも見学するだけで良いのだが、さすがに名前が知れ渡っている、なにかすべきと言うことで、ドロシー先生が思いついたわけだ。
セーラー服も、セットだった。
「1セス銅貨が1ま~い、2まぁ~い――」
ツインテールの勇者(笑)レックは、コインを数えていた。
文化祭の収益は、生活のためではない、あれば嬉しい臨時収入と言うものだ。魔法学校は学生寮に住まっていれば、衣食住が提供される、大サービスだった。
それでも笑みが浮かぶのは、本能なのだ。
卒業生が、ハンカチを手にしていた。
「苦労してたんですね、クスン――」
棒読みで、ドロシー先生が泣きまねをしていた。
銅貨の山を前に、レックの笑みが止まらないためだった。底辺冒険者としても、1セス銅貨の山で笑みを浮かべるだろうか、底辺時代の苦労がしのばれる。
折れ目のついたチェックのスカートにブレザーという、女子高校生ファッションとしてミニスカートはお約束のレックは、微笑んだ。
「1セスを笑うものは、1セスに泣くってことわざ、ありそうっすね」
「銅貨も山になれば、銀貨になるって顔してますよ、レック君」
本日のお客様は、たくさんだ。
格安と言う入場料金のおかげもあって、珍しさも手伝って、満員御礼だ。材料費はレックと言う、準備費用からの差し引きも考えずによいお値段設定だった。
それでも、100セスで1ポドルになる。前世で例えれば500円と言う小さな銀色のコインは、穴はあいていないが50円玉のサイズで、そこそこの価値があるのだ。
底辺冒険者時代は、ありがたく拝んだ銀貨さまであった。
唐突に、扉が開かれた。
「お~い、打ち上げだぜぇ~」
『馬』――と刺繍されたタンクトップのマッチョなおっさんと言う、バイク部のロビン先生が、現れた。
「ぐっ、ぐっ、ぐ………やはり主役がいなくてわな――」
さらに巨大なマッチョが、牛モードになりそうなほど、身を震わせていた。
生徒はレック一人と言う教室である、合同授業が当然と言う体育ではお世話になったが、出し物を無謀なマッチョショーしたようだ。
ただ、見向きもされなかったらしい。後から聞いた話であるが、大盛況だったレックと比べるのは、気の毒というものだ。
レックは、存在すら忘れていた。
「ほらほら~、みんな待ってるし、こういうときのお約束ですよ~」
スケボーでも始めそうなお姉さんも、現れた。
飛行能力を持つ女子生徒を担当の、魔法少女教室の担任のお姉さんだ。
ドロシー先生も、立ち上がった。
「そうですね、キャンプファイアーには生け贄――勇者(笑)が必要ですからね………」
メイドさんモードは、いつものことと言うドロシーお姉さんが、レックを見つめた。
レックは、お返事をしなかった。
言い直しているが、レックは聞き逃していない。ちゃりん、ちゃりん――と1セス銅貨を、4セス銅貨を数えていても、しっかりと聞こえていたのだ。
生け贄――
何を意味するのか、窓から届く炎の明りが教えている。
アーマー・5の姉さんたちも、楽しんでいるだろう。キャンプファイアーの周囲では、有象無象が踊り狂っている。人間以外の皆様も混じっている、教師達のほかにも、人間に害が混じっている。猫耳さんは料理関係でちょくちょく目にしていたが、犬耳さんやそのほかもいらっしゃるようだ。
狼男だろうか、遠吠えもしていた。
「………生け贄?」
自分を指して、レックはつぶやいた。
巨大なキャンプファイアーと言う祭壇は、祭壇といってもいいほどの巨大なものであり、数千人の関係者が集った、怪しい儀式にも見えた。
レックの前世は、アニメで見たと語る。実際にキャンプファイアーをする学校もあったのかもしれないが、前世は知らない。消防署が許さないだろうと、なぜか空を見つめていた、自分には、関係ないさ――と
エルフちゃんたちが、現れた。
「レックぅ~、何してるの」
「勇者(笑)よ、早く来るんだにゃ~」
窓の外から、現れた。
御伽噺のフェアリーのようなツバサを輝かせて、窓の外からレックを呼んでいた。どうやら、キャンプファイアーまで直行らしい。
キャンプファイアーの中に投げ込まれるような勢いで引っ張られ、レックは少しおびえた。
「えっと、オレっち、あと片づけが――」
フラグだ、フラグだ――
前世などは、祈りをささげていた。
いや、念仏を唱えると言ったほうが良い、正座をして両手を合わせて、フラグだフラグだと、覚悟を決めていた。
祭壇で何が行われるのか、レックはあとずさったが………
「学生時代の思い出は、大切です………」
ドロシー先生が、レックの手を取った。
風船で溢れた教室は、すでに片付いている。多少、机やイスが散らかっているだけだ。バルーンと言うべきゴム風船の弾力の風船たちは、全てレックの魔法によって生み出されている。弾力はゴム風船で、強度は少し上だろう、魔法で生み出されたそれらは、自然と消え去っていく。さもなければ、お片づけが大変だ。
そう、片づけをしなくてよいのだ。レックのつたない言い訳など、そもそもエルフちゃん達には通用しないだろう。
しびれを切らして、引っ張られる
「レックぅ~」
「急ぐにゃ~」
金と銀のツインテールちゃんたちに両腕をつかまれたレックは、悲鳴を上げた。
「いぃいいいやぁあああああ――」
長くなった金髪はツインテールに、エルフちゃんたちとおそろいだ。
女子高校生と言うファッションの勇者(笑)レックは、窓からキャンプファイアー会場へと、飛び立った。
祭壇では一発芸らしい、宴会の会場だとわかってきた。生け贄とは、見世物と言う意味だと、すこし安心しつつ………
「ダンスのお相手、大変だろうけどね………」
「人間には大切なことなんだにゃ~」
新たなる、フラグだった。
キャンプファイアーとは、イベントである。
カップルが手をつないで、見せ付けているイベントである。それは、アニメや漫画の世界の出来事だと、レックの前世は主張していた。
フラグが、待ち構えていた。
壁どん――という姉さん達が、手を振っていた。
「「「「「いらっしゃ~い、勇者(笑)さまぁ~」」」」」
レックのことを待っていたようだ。
生け贄と言う言葉は、正しかったと、レックは叫んだ。
「フラグったぁああああああああああ」
プレ・文化祭は、こうして幕を閉じた。




